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20.二回目の……デート?

 数日後、シルヴァランス伯爵家を訪ねて来たライアンを、私は応接室で出迎えた。


「クリス、この間はクッキーをありがとう。凄く美味しかった」

「どう致しまして。お口に合ったようで良かったわ」

「それで、クッキーのお礼がしたいんだが、良かったらまた演劇を見に行かないか?」

「お礼?」

 私はリリーが淹れてくれた紅茶を飲む手を止め、怪訝な顔でライアンを見た。


「別にあのクッキーはハンカチとかのお礼なんだから、そのまたお礼なんて要らないわ」

「だ、だが、俺は凄く嬉しかったんだ。だから……」

「だから不要だって言っているでしょ。……で、その演劇ってどんな内容なの?」


 前回、ライアンが誘ってくれた演劇がとても良かったので、興味を引かれて聞いてみると、ライアンは意外そうに目を丸くしていた。


「この間見に行った劇団の新作が、また評判になっているらしいんだ。今度は恋愛要素のある喜劇だそうだ。近くのカフェにも、新作スイーツができたらしいし、一緒にどうかと思って」


 この間の劇団の新作なら、面白いに違いない。そしてカフェの新作スイーツも気になる。


「面白そうね。行きましょう」


 私が答えると、ライアンは驚いたような顔をしていた。

 自分から誘っておいて何なんだ、この男は。


 首を傾げながらも、ライアンのエスコートで馬車に乗り込んで、劇場に向かう。移動中に、ライアンは演劇の詳細を教えてくれた。この間の劇にも出演していた俳優達が、似たような役や、全く別の役を演じているのも興味深い。相槌を打ちながら、演劇への期待がどんどん膨らんでいった。


 そして演劇も、文句無しに面白かった。問題を抱えたカップル達が、周囲に色々振り回されながらも、最後にはちゃんとハッピーエンド。振り回される様子があまりにも可笑しくて、暫く思い出し笑いしそうだ。


「面白かったわね。笑い過ぎて、お腹が痛くなっちゃったわ」

「喜んでもらえたみたいで、何よりだ」


 劇場を出て、感想を語りながらカフェに入る。新作のスイーツは、秋の味覚が満載だった。色々迷いながらも、大粒の葡萄が沢山乗ったケーキを選ぶ。マロンタルトやアップルパイも美味しそうで気になったから、近いうちにまた来たい。


「うん、美味しい!」

 ケーキの美味しさに幸せを噛み締める。


「良かったな。クリスはどんなケーキが好きなんだ?」

「私? そうね、ケーキは何でも好きだけど、特にフルーツが沢山入っているものが好きだわ。ライアンは?」

「俺? そうだな、俺はチーズケーキが割と好きかな」


 言葉通り、ライアンが食べているのはチーズケーキだ。そう言えば、この前も似たようなケーキを頼んでいたっけ。確か、チーズタルトだったような気がする。


「美味しかったわね。また来たいわ」

 ケーキを食べ終えて、カフェを後にする。


「気に入ってくれて良かった。この後はどうする? もう少し色々見て回るか?」

「そうね……。この前の雑貨屋さんに寄っても良いかしら?」

「勿論」


 と言う訳で、雑貨屋に移動する。こちらも、季節に合わせて紅葉や栗鼠の小物など、秋らしいものが飾ってあった。一通り見て回って、ふと気が付くと、ライアンが何やら難しい顔をしながらお会計をしていた。


「何を買ったの?」

 お店を出た所で尋ねてみると、買ったばかりの紙袋を差し出された。


「その……クリスに、似合うと思って」

「私に?」

 きょとんとしながらも、一応中を確認してみると、金糸で縁取られた赤いリボンの髪飾りが入っていた。


「高価な物じゃないけれど、今日の服とも合うなと思ったら、つい……。」

 確かに、今日の服は赤いドレスだし、リボンの色とも合うけれど。


「気に入らなかったら、捨ててくれても構わない」

「買っておきながら捨てろだなんて、勿体無い事言わないでくれる? あんたのお金をどうしようと、あんたの勝手だけれど、無駄遣いを見るのは気分が悪いわ」

 文句を言いながら、リボンを取り出して、早速髪に着けてみる。


「どう? 似合う?」

「あ……ああ。良く似合っている」

「本当に?」


 似合っている、と言う言葉に反して、ぽかんとしているライアンに、眉を顰めて問い返す。だけど、偶々目に付いたお店のショーケースに映る私は、そんなに悪くは無かった。


「これ、本当に貰ってしまっても良いの?」

「ああ。貰ってくれないと、俺が困る」

「じゃあ、有り難く貰っておくわ。どうもありがとう」

 微笑みながらお礼を言うと、ライアンは嬉しそうに、満面の笑顔になった。


 ……何でプレゼントを貰った私よりも、ライアンの方が嬉しそうな顔をしているんだろう。

 ライアンの笑顔を見ていたら、何だか胸がドキドキしてきて、次第にライアンの顔を見ていられなくなってきてしまった。視線を逸らして、早足で移動してみたけれども、難なく速度を合わせて私の隣に並んで歩くライアンに閉口する。

 今、私の顔は赤くなっているような気がする。ライアンに気付かれていないと良いんだけど。


 何時の間にか日が傾いてきていたので、馬車で帰路に就く。


「ライアン、今日は誘ってくれてありがとう。楽しかったわ」

 お礼を言うと、ライアンは驚いたように目を見開いた。


「そ……そうか、何よりだ」

 嬉しそうな、締まりのない顔を見せるライアンに、私は目を丸くした。


「また、誘っても良いか?」

「ええ。カフェの他の新作スイーツも気になったし」

「じゃあ、また一緒に行こう」

「楽しみにしているわ」


 今日のライアンは上機嫌だ。始終嬉しそうにニコニコしている。私にプレゼントをくれたくらいだし、何か余程良い事でもあったのだろうか?


 首を傾げながらも帰宅すると、リリーが出迎えてくれた。


「あら? お嬢様、新しい髪飾りですか?」

「ええ。ライアン様に頂いたの。どうかしら?」

「とても良くお似合いです! 今日のドレスにもピッタリですわ」

 リリーに褒められて、思わず笑顔になってしまう。


「今日も素敵なデートだったようで、何よりですわ」

「!?」

 楽しげにお茶の用意をするリリーの言葉に、私は硬直した。


 デ……デート!? いや別に、デートって訳じゃ……! た、確かに、演劇は面白かったし、ケーキは美味しかったし、プレゼントは嬉しかったけど……!

 と言うか、前にも似たような事があったような……。こ、今回は、以前よりもとても楽しかったし、変にライアンにドキドキしちゃったし、また行こうって約束しちゃったけど……。やっぱりこれって、デート、になるのかな……?

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