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婚約者とは犬猿の仲!?  作者: 合澤知里


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13/28

13.子供達の捜索

「じゃあ、ガイルおじさんは先に向かったのね」

 山に向かって走りながら、グレンに詳細を教えてもらう。


「ああ。連絡魔石を使っても、子供達と連絡が取れないと分かって、すぐに先発隊が山に入った。今は時間との勝負だからな。だけど流石に人手が足りないから、数人で手分けして声を掛けて回っているんだ。人数が集まり次第、すぐに俺達も捜索に加わる」

「一刻を争う事態なら、人手は多いに越した事はないな。あ、おーいライアン殿!」


 私はギョッとして、お兄様が声を掛けた方向を見た。通りの反対側で、私達に気付いたあの男が、目を丸くしてこちらを見ている。


「君も来て手伝ってくれないか!? 緊急事態なんだ!」

「え!? レオンハルト殿!? クリスにグレン君も……!?」

 唖然とした顔をしながらも、男はすぐさま駆け寄って来て合流してくれた。


「一体何があったんですか?」

「子供達が数人、山に行ったまま帰って来ていないらしいんです。日が暮れる前に捜し出さないと!」

「何だって!?」

 グレンの説明に、事態を把握したらしい男の顔が引き締まった。


「クリス、四人になったから、二人一組に分かれて捜索しよう。お前なら全員の戦力を大体でも把握しているよな? お前が二組に分けてくれ」


 グレンに頼まれて、即座に最適解を導いた私は、一瞬言葉に詰まってしまった。

 この状況では、連絡魔石を持っていて、山に何度も入った事があり、魔獣の知識もある私とグレンは分かれるべきだ。そして魔獣に出くわしてしまった時の為に、攻撃に幅を持たせる為、同属性の魔法適性持ちも分けるのが鉄則である。私の属性は風と雷、お兄様は水と氷、グレンは火。そして男に関してはよく知らないが、少なくとも五年前、魔獣を火だるまにしていたから、火魔法の適性がある筈だ。つまり、グレンとお兄様、私と男、の二組に分かれるのが最適と言える。

 正直、気乗りがしない組み合わせだが、今は緊急事態なのだ。そんな事は言っていられない。


「お兄様はグレンと一緒に捜索をお願い致しますわ。ライアン様は、私と」

「分かった!」

「クリスと一緒が良かったのに……。クリス、くれぐれも気を付けるんだよ! ライアン殿! もしクリスに何かあったら、承知しないからな!」

「分かっています!」


 グレン同様、他に声を掛けて回っていた後発隊とも連絡を取り合い、手分けして捜索を始めた私達は、まず山菜や茸が採れる場所に向かった。ここは麓に近く、昼間であれば魔獣と遭遇しにくいので、腕白な地元の子供達が肝試し感覚で訪れる場所でもある。だけど子供達の手掛かりは何一つ見付けられず、私達はもう少し山の奥に入る事にした。


「グレン、そっちはどう?」

『こっちも駄目だ。他の麓のめぼしい所は、先発隊が粗方捜してくれたらしい。俺達も奥に行ってみる。そっちも気を付けろよ』

「了解」


 既に日は沈みかけている。完全に夜になってしまうと、魔獣と遭遇する危険性が高まるので、捜索は打ち切らざるを得ない。早く見付け出さないと!

 焦りながら山の中を走り回るが、子供達は一向に見付からない。辺りが暗くなり始め、捜索打ち切りの話が出始めた頃、漸く子供達発見の知らせが入った。


「本当!? 良かった……!!」


 グレンからもたらされた全員無事の知らせに、心の底から安堵した。

 子供達は、山菜や茸、果物を見付けて行くうちに調子に乗って、いつもよりも奥に進んだ所で、魔獣と遭遇してしまったらしい。逃げる際に連絡魔石を何処かに落としてしまって、助けを呼べなくなったのだとか。何とか魔獣からは逃げ切れたものの、道に迷って半泣きになりながら彷徨っていた所を、先発隊が見付けてくれたそうだ。


「良かったな。俺達も山を下りよう」

「そうね。もう暗いし、長居は無用だわ」


 連絡を終え、山を下りようとした所で、私は妙な気配に気付いた。私達を遠巻きに、複数の不穏な気配が蠢いている。


「ねえ、気付いている? 私達、囲まれているみたいなんだけど」

「何だって!? くそ、後は帰るだけだってのに……!」


 男が焦って周囲を見回すが、辺りは既に薄暗く、魔獣の姿は確認できない。だけどおそらく向こうからは、私達の姿は丸見えになっている事だろう。これだから夜の山は恐ろしい。今は魔獣が持つ魔石よりも何よりも、生きて無事に帰る事だけを考えなければならない。


「あんた、火魔法は使えるのよね? 敵の数が多くても対応できる?」

「問題ない。俺だって腕は磨いてきた。魔獣の数が多くても、纏めて火あぶりにしてやるよ」


 自信満々の男の返答に多少は心強くなるが、果たしてこの男は何処まで強いんだろうか。私も実戦経験は積んでいるが、魔獣と戦うのは久し振りだ。魔獣達の気配が少しずつ、私達との距離を詰めて来るにつれて、次第に緊張感が増していく。


「俺から離れるなよ、クリス」

「格好付けなくて良いから。来るわよ」

「「「ガオオォォッ!!」」」


 一斉に姿を現した狼の魔獣達が、私達に襲い掛かって来た。男と背中合わせになって迎え撃つ。雷魔法で先頭にいた数匹を黒焦げにした瞬間に、後ろで轟音が響き渡って、驚いた私は思わず振り返った。男の前には、一瞬で火だるまになった魔獣達がのた打ち回っていて、魔獣達の囲いが乱れ、道が開けている。男の火魔法の威力に、私は目を見開いた。


「今だ! 行くぞクリス!」

「え、ええ!」


 驚きながらも、男に手を引かれて、暗い山道を駆け下りる。当然、魔獣達は私達の後を追って来た。振り向き様に、今度は風の刃を放つ。また数匹を倒したものの、走る速さは向こうの方が上だ。忽ち追い付かれそうになった時、今度は男が炎の塊の雨を降らせた。


「「「ギャオォォォッ!」」」


 炎の塊が次々に魔獣達を倒していく光景に、私は目を見張った。

 凄い。この男が、こんなに強かったなんて。


 だけど、数は減ったものの、魔獣達は炎の雨を掻い潜って来る。私も負けてはいられないと、雷魔法と風魔法の合わせ技で迎え撃った。雷を放つ竜巻で魔獣達を薙ぎ倒し、数をかなり減らす事ができて、これなら逃げ切れるかも知れない、と希望が見えてくる。


 だけど、何時の間に回り込んでいたのか、突然横から現れた魔獣が、私目掛けて飛び掛かって来た。


「クリス、危ないッ!!」


 次の瞬間、私と魔獣の間に、太くて逞しい腕が現れて。

 私に襲い掛かって来た魔獣の牙が、私を庇った腕に深々と突き刺さっていく光景が、やけにゆっくりとして見えた。

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