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第01試験科中隊  作者: 津田邦次
第一章 第二次日中戦争
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戦勝パーティ

 「我々第107師団の勝利と新人歓迎を記念して、乾杯!!」

 「「乾杯!!」」

乾杯の挨拶を終えた俺は、下手くそな作り笑いを浮かべながら壇上から降りた。辺りを見渡し、仲間を探す。今から約14時間前、中華共和国の攻撃に対する防衛作戦が成功。今日は本来ならばその日にする予定であった歓迎会も合同でやっており、その乾杯の挨拶に功労者である俺、鶴喰が選ばれたのだ。

 「こういうのはやはり慣れんな」

パーティーは立食形式で、小隊メンバーが多く集まっている会場右側近くに寄りながらそう言った。

 「そうなんですか?結構慣れてそうですけど」

 「隊長、ホントはそういうタイプじゃないのに無理してるからねぇ~」

 「しとらんわ!!」

上守の問いに上野が茶化すようにこちらを見ながら言うのでツッコミを入れた。

 「まずは酒だな。お?大吟醸じゃねぇか!!しかも上玉じゃねぇか!!」

 「立食会があるって聞いた家元が送ってきてくださったんですよ」

鷹司の言葉に、元平民と五摂家の違いに愕然とする。鶴喰家も薩摩藩の武家ではあるが五摂家となると格が違う。それに、養子に行く前はただの平民だったワケで。そんなことを考えていると、視界の端にまた目が眩むものがある。

 「なんだあの肉は!なんて贅沢な!」

 「あ~、家の父が送ってくれたんですよ。なんでも国産黒毛和牛だとか」

 「やっぱ貴族華族はすごいですねぇ」

上守が平民らしい感想を述べた。そんな中で、一人の男がある困難と対峙していた。


 (あのパフェが食べたい!!)

岡田少尉は心の底から叫びたいのを抑えることに大いなる努力を強いられていた。普段は気難しい上に、堅苦しいまでに真面目な自分を装っている岡田だが、その内側は何ともかわいらしいものだった。彼の物欲しさを隠した目は会場の真ん中後方の女性陣へ向けられていた。正確には、そこにいくつか並べられてある一つのパフェが彼の心を掴んで離さなかった。それは先が波打ちながら広がっている透明のグラスの上で、純白のクリームが荘厳にも座っている。そのクリームは豪華絢爛にフルーツで彩られ、見えるだけでもイチゴ、オレンジ、グレープ、サクランボが乗っている。最前線にあるまじきものだが、有力な士族、華族が集まるだけのことはあり、なかなか豪華であった。しかし、岡田は手を出せずにいた!!なぜなら普段の彼は隊長をはじめとする隊員は基本的に個性豊かである上に軍人としての規律が甘い。それの乱れを直すため、岡田は日々生真面目過ぎる程の性格をせざるを得まい状況であった。そんな岡田の本心が乙女チックであなど知られるワケにはいかなかったのだ。

 「どうした、少尉食わんのか?」

 「え?あ、いや、食べます...」

唐突に声をかけられ我に戻る。

 (どうする岡田慎介...ッ!!さり気なく近づいて...いや、ダメだッ。それこそ自殺行為...ッ!!)

悶々としている岡田を差し置いてパーティーは進む。

 (...ッ!?)

酒を飲む手をとめ中央に顔をさり気なく向けると、すでにいくつかあったパフェは残り二つとなっていた。岡田の心を掴んだそれはまだ残っているもののいつ食われてもおかしくない。しかしその時岡田はあるものを見た。それはそのパフェが置いてある豪華に盛り付けられた丸いテーブルの奥、会場正面左側の脇幕から大きなチョコレートタワーが覗いている。

 (これだッ!!これが出れば皆アレの方へ行く!!そのすきに取るしかないッ)

しかし、大きな問題が一つあった。それこそがいつ登場するか分からないことである。しかし岡田、ここは冷静にいつ登場するか知っていそうな人に聞くことにした。

 (この中だと、やはり隊長辺りか...)

「隊長あれって...」

しかし岡田、ここまで言いかけてとあることに気づく。

 (いや、待て岡田ッ!!アレがいつ出るか聞くってことはアレの登場を楽しみにしていると捉えられる可能性があるッ!!それはマズいッ!!対象がパフェからチョコに変わっただけじゃないかッ!!)

 「なんだ岡田?あれ?」

 「ああ、このお酒の銘柄教えてもらえますか!?」

腰までもっていった指の先を隊長が見ようとしたのを持っていたコップに強引に移し、難を免れる。

 「少尉がどの瓶から入れたか知らんから自分に聞いてくれ」

結構辛辣な答えが返ってきたのを受け流し、ちらりとパフェの方を見る。

 「ふぅ、まだあるな...」

小さな安堵の声を漏らす。

 「隊長、ちょっといいですか?」

 「ん?なんだ?」

 「あのちょっと見えてるチョコレートタワーいつ出てくるんですか?」

 (でかしたぞ上野曹長!!)

 「ああ、もうそろそろだな」

会場にかけられた時計をみて隊長がそう答えると同時に会場に設置されていたスピーカーから声が聞こえた。

 「えー、只今より、チョコレートフォンデュファウンテンを始めます。会場前方に設置されますのでしばしお待ちください」

アナウンスが終わる間もなく脇幕から出て来たそれは身長二つ分は有りそうなほど大きいものだった。二人の男がそれぞれその手前に、これまた大きなサービスワゴンを押してきた。ワゴンの上には様々な切り分けられたフルーツが乗っている。

 「まもなく始まりますのでお並びください」

アナウンスの一言で会場中が動き出し、見れば中央の女性陣も並びにいっている。

 「行かんのか?」

 「え、あ、人が少なくなってから行こうかと...」

またしても唐突に隊長に声を掛けられ、苦しい言い訳をしつつ、なるべくさり気なくパフェの下へ向かう。

 (チョコレートフォンデュも食べたいが、今は見られんうちにこれを食ってしまわねば!!)

その一心でパフェの下へ向かう。あと少しで手が夢へ届く。喜びと期待に大胸筋を膨らませる。そしてそれに手が届くあと一歩で届く、というところまで行った時、悲劇は起こった。

 「な...ッ!?」

そう、小隊唯一の女性でもある上野曹長が一歩早くパフェを手に取ったのだ。


 数分前、上野は岡田の視線の先にパフェがあることに気づく。しかし上野これを敢えて取りに行かず、スルー。

 (これは面白そうね)

女性がしていい顔ではない笑顔を見せ、これを見た隊長を心底恐怖させたのは別のお話。そう上野神輿は普段は優しくおおらかで、包容力の高い女性であるものの、時折変な、そう誠に変なタイミングでドS、いや外道を発動することがあるのだ。更に、この時上野は女性陣へ行き、岡田の狙っているパフェが食べられないように死守。更に、岡田がチョコレートフォンデュの時間に狙ってくることも読んでおり、この時を刻一刻と待っていたのだ。

 

 「あら、少尉殿。どうされたんですか?こんなところで」

薄笑いを浮かべた顔から出たその言葉は岡田には致命傷に近かった。

 「い、いや、何でもない。た、たまたま通りかかっただけだ」

余りにもぎこちなく難を逃れようとするが、それももはや意味はないのだろう。パフェにスプーンをさしながら、

 「これが、食べたかったんですよね?」

心の底から愉悦を感じているような顔でそう言った。

 「貴様、本当に上野なのか...?余りにもむごいぞ!!」

普段とは余りにも違い過ぎる上野を見て、二重人格すら疑いたくなる程だった。

 「嘘ですよ。はい」

 「...え?」

 「嘘に決まってるじゃないですか」

 「ほんとに食べていいのか??」

 「ええ」

彼女は何故こんなことをしたのか、そんなことを考える余力は岡田にはなかった。心の中で喜ぶ彼は次の言葉で絶望に叩き落されるとも知らずに。

 「皆さんには黙っててあげますから。これは貸しにしてあげます」

 「....ッ!!??」

 「ま、まさか...」

上野の底知れぬ悪意に触れてしまった岡田はこれからどうなってしまうのか、そんなことしか考えることが出来なかった。


 パーティーが終わり、片付けも一通り終わったころ、アナウンスで俺は石田博士にお呼ばれしていた。

 「どうだった?ワタシのムスコは?」

 「その言い方はよした方がいい。あらぬ誤解を生むぞ」

 「そうかい?で、どうだったのカナ」

 「正直今回のようにはもういかんだろうな。相手が密集していないとあんまり使えん。何より、あれだけで他の武装がほとんど使えなくなるのが辛い」

 「そうだよネ。知ってたヨ」

 「はあぁぁぁぁ」

深々とため息をして、正直な感想をこの不届き者に述べてやる。

 「だろうとは思ってた。だから嫌だったんだよ。説明書を見ればわかる」

そのまま続けて、

 「だいたい、あれ一発にいくらかかってんだ?絶対費用対効果がなってない」 

 「その通りだネ。でも、あれはあくまで実弾装備の場合なんダ」

 「?」

 「つまり、まだまだ進化は止まらないのヨ」

そう言って彼は俺を追い払うように部屋から出した。

 「まったく、呼び出しておいてなんなんだ...」


 同刻、自室のベッドで自身の行為を猛省している人物がいた。

 「どうして私はあんなことしたの~~~~~~」

枕に顔をうずめて、足をバタバタさせている。

 (明日謝らないとなぁ)

被害者の方はもはや生きた心地はしなかったようだが、後日ちゃんと謝られたそうだ。


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