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第01試験科中隊  作者: 津田邦次
第一章 第二次日中戦争
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満浦基地防衛戦 その3

 「基地南東部距離38km地点に敵二個大隊規模の混成部隊の接近を確認。部隊構成は第二世代陸戦機三個中隊、二個装甲部隊、対陸戦機歩兵一個中隊です。おそらく桓仁基地からの部隊だと思われます!」

 「攻撃機と合流後補給を開始、終わり次第次の指令を出す。以上」

 「「了解」」

刑部中佐の指令に従い全機高度を上げ、部隊ごとにまとまりながら合流地点へ向かう。途中、小隊メンバーが、

 「やるなぁ軍曹。初陣で初撃破の上に新型なんて」

 「ほんとだよ!すごいね君!私なんて初陣の時は足損傷してただのお荷物だったのに」

褒められると素直に嬉しいがどうも照れてしまう。それが見えているのか

 「おいおい照れてるのか?愛いやつめ、はっはっはっ」

なんて隊長にからかわれる。

 「言ったでしょう?腕には自信があるって」

照れくささを隠すように言うと、

 「まだ作戦中だ。それに後続も来ている。さっさと補給を終わらせて迎撃するぞ」

クソ真面目に少尉が言ってそれぞれが適当に返事をする。

 「お前ら...」

隊長も含めてまともなのは少尉だけだろうな、なんて考えていたら小さな人影を見つける。それはだんだん大きくなっていき、しまいにはそこらの木と同じぐらいの大きさになる。そこには大きな黒いコンテナを積んだ補給車両もいくつかあり、側面の蓋が開きコンテナの上に左右で前後にずれて搭載されているアームが展開されている。そこで一個小隊分の攻撃機と試験科第三小隊と合流する。高度を落としながら足を前に出し太もものサブブースターでブレーキをかける。速度がほぼ0になり、そのまま着陸する。機体をそれぞれ補給車両の前に移動させると武装の換装が始まる。どうやら補給車両は新型の報告を受けて50㎜突撃砲を寄越したようだ。コックピットハッチを開け、ハッチ横にある逆三角形の取っ手を持ち、引っ張る。逆三角形の一番下の頂点からロープが出てくるのを確認し、少し出して、足に取っ手をかけ、ロープを掴む。すると勝手にロープは下まで下がっていき、あっという間に地面に着く。

 「よお。しかし、なんでまた38㎜なんて使ってたんだ?今じゃそんなもん使わんだろ」

突然話しかけて来たのは整備部の西沢伍長だ。西沢は一緒にここ107師団に配属されたが試験科ではなく陸戦科だった。西沢とは中学時代の同級生だったが士官学校に入ったときに分かれ、久しぶりの再会を果たした。

 「お前はいつも突然話しかけてくるんだな。ほら、慣れない実戦に持っていく武器は弾が多い方がいいだろ?」

 「まぁ、お前の本分は近接格闘戦だもんな。そうだ、あの隊長に射撃を教えてもらえよ、大口径セミオートライフルの達人だそうだ」

 「そうだったのか...」

 (あの隊長がねぇ...そう言えばさっきの戦闘もそんな感じだったような...?)

自分のことで精一杯だった周は気づいていないがあの短期間で二機撃破したのは隊長だけだった。

 「教えてもらおっかな」

ぼそっと空を眺めながら呟いた。

「あっ、ちゃんと腕も直してくれよ!」

 「まかしとき!!」

彼は笑顔でそう言うと車両の後ろへ戻って行った。


 「おい、なんだぁこれ?」

てっきり85㎜突撃砲を受け取れると思い込んでいた俺はコンテナから出て来たブツを見て心底驚いた。かなり長い砲身は折たたまれており、ピストルグリップの先に大きなリボルバーのシリンダーのような物が付いている。そのシリンダーとフレームを繋ぐヨークの先に突出したフォアグリップが付いている。フォアグリップと砲身は離れている。ストックは細長いスライド式のもだ。マウントベースの上に四角前後に長いスコープが付いている。

 「どう見ても両手武器なんだけど、これ」

 「そうだねぇ、このはコなかなかいい出来だケド取り回しは最悪の出来だからネ。でも隊長殿なら扱えるんじゃないかナ?」

 「あのさぁ、俺が得意なの近接砲撃戦だって知ってんだろ?」

 「このコは試製五八式拡散爆式重砲、三尾重工、如月製作所、大東亜重工が開発してたんだケド開発が遅れに遅れ、やっとできたのが昨日届いたから早速使ってもらうヨ♪」

 (博士は人の話なんか聞いちゃいねぇのか...)

 「このコは対軍団兵器の先駆けになるかもしれないから大切に扱ってネ」

 「なぁ、おい。こいつの使い方は?」

 「はい、マニュアル。あとは頑張ってネ」

 「は?」

博士はマニュアルを渡して車に戻っていく。放心状態から戻るのに多少の時間を要したが、はっとしてマニュアルに目を向ける。『試製五八式拡散爆式重砲取り扱い説明書』と書かれたそれをめくり、斜め読みでざっと目を通す。そこに書かれていたのは、対軍団攻撃用兵器の驚異的な威力だった。

 (それはそうと、何しに来たんだ?博士(アイツ)...)


 「ねぇ、隊長。それ、なんですか?」

 「しらん」

上野曹長の問いに素っ気なく隊長が返し、

 「俺はコイツのお守りで前線には出れんが、まぁ頑張ってくれ」

 「それ、なんですか?」

懲りずにもう一度上野曹長が隊長に聞く。

 「なんたらかんたら重砲。すごいやつ」

 (ざっつ!!)

 「まぁ、使えば威力は分かるさ」

隊長機が持っているそのなんたら重砲は全長が機体よりも明らかに長く、シリンダーの大きさから相当の口径の砲弾が出てきそうだ。

 「敵はやはりこの基地を狙っている。侵攻ルートは恐らく二つ。東の山道を通るルートと南の山の麓を通って南西から来るルートだ」

中佐の指令通りに戦術マップに矢印で二つのルートの詳細が出る。山道の場合速度は出せず、一列になり挟撃されやすい。だが、見つかりにくそうだ。南西からなら諸々のデメリットは無いが時間がかかる上に見つかりやすそうだ。敵の予想通りにことが進んでいたらこっちを使っていそうだ。

 「恐らく敵は山道を通って来るだろう。恐らく陸戦機を撤退させたのは全戦力を前に出して一点突破するつもりなのだろうさ。強引な奴だ」

 「我々の作戦はまず、試験科第一、第三小隊を東部に配置、南部を同第二小隊。その他は第一小隊と同行してくれ。山岳部だが帝國陸軍の最新兵器を使用する。その間全力をもって鶴喰中尉の機体を死守しろ。補給が終わり次第航空戦力も投入するが、期待はしないでくれ。敵の先陣を潰せば後は雑魚だ。陸戦機の敵じゃないだろう?」

 「「了解」」

 「しかし、ほんとに来るのか?あんたを疑うわけじゃぁないが、確定事項じゃないだろう?ここは後方で敵の出方を窺った方が賢明だと思うが」

 「少尉、何度も言わせるな!」

小鳥遊中尉の怒声を抑えつつ中佐は、

 「いい。これは私の勘だ。失敗すれば全責任は私が負う」

 「信じていいんだな?」

 「ああ」

 「分かった」

それだけ話すと、「あとは配置につけ」とだけ言ってしゃべらなくなった。なんとも腑に落ちない気持ちになるが、自分の経験の無さ故と理由をつけ、今は考えないようにする。取り敢えず南北で分かれている山の南側の山頂に隊長の護衛として配置される。

 「新兵装の威力、どんなもんなんでしょうね?」

純粋な疑問をモニターの中の隊長に投げかける。隊長はあまり話したがらない感じだったが、答えないのでは空気が悪いと感じたのか、

 「正直、こいつなら俺一人でここを守れるくらいにはある」

 「はっはっ、ソイツは良い冗談ですね」

 「冗談だと思うか?」

 「...いいえ、中尉」

 (まさか、自分が沢山の人命を奪うことを憂えているのか?)

モニターの中の隊長は心底面倒くさそうに深くため息をついて、顔をパシパシと叩いた。

 「いつまでもこうしてるわけにはいかんからな!大隊だろうが師団だろがどんとこいだ!」

急にキリッとした隊長の顔は少しは楽しそうだった。

 「その意気ですよ!隊長!」

 「そこまでだ、来たぞ。首尾よくやれよ」

中佐の声におう、と一声返事をするとどうやら集中しているのか黙ってしまった。

「敵視認!ほんとに来やがった!」

まだ信じてなかったらしい百目鬼少尉の報告に、隊長が詳細を聞いた。

 「敵総数41機。恐らく第三世代機が第二世代機を囲うように配置されてる。装甲部隊はその後ろだろうな。まさかここまで言った通りになるとはな、恐れ入った」

 「そうか、41か...」

そう言いながら隊長機は右膝を地面につけ、左膝を立てて、その上にフォアグリップを握った左腕の肘を乗せる膝撃ちの姿勢をとった。

 「この地形だし敵は密集せざるを得まい。コイツなら瞬きする間に6機は行動不能にできる」

少し聞いたことがあるようなセリフを聞き流し、配置に着く。

 「敵の座標は――」

 「いや、いらん。勘でやる。いつもそうしてきたように」

そうちょっとかっこよく言って、

 「見えた!たぁんとお上がり♡」

今度はおかまっぽくそう言うと隊長はトリガーを引いた。


 ドォン!と轟音を立て、マズルブレーキから灰色のガスを噴射して、新型砲弾は飛んで行った。敵地のど真ん中にいた敵機に綺麗に飛んで行ったそれは、着弾直前に円筒の部分の外側がめくれるように外れた。そこにはおびただしい数の玉がヨトウムシの卵のように付いている。そして、弾頭が敵機にめり込み、信管が起動。直後に、砲弾の倒れる機体からはみ出でていた部分の玉が、爆風と共に四方八方に飛んでいき、いくつかは頭部カメラや、手足の関節、むき出しの脚部履帯などに当たり、それらを無残に破壊した。

 陸戦機は第二世代までと第三世代では大きな差があり、それが顕著に表れているのが脚部だ。第二世代機までの開発コンセプトが『高速移動、高い地形対応能力。高い対空能力。多種多様な武装。厚い装甲』であるのに対し、第三世代機の開発コンセプトは『第二世代機を上回る高速性。高い三次元機動力。高い可動性。近接格闘能力の獲得』であり、第三世代機はそれまでに比べ機動性を重視している。第一、第二世代機は国によって違うが足の裏に履帯型のサスペンションが付いており、足も太くなっている。第三世代機は太ももに固定噴射エンジンを搭載しており、足の裏には履帯の代わりに小さな玉が三つほど付いている。その為第二世代機よりも足が細くなっている。

 ソ連や中華の機体は四脚型を採用しており、これは高い地形対応能力と機動力を兼ね備えた反面、エネルギー効率が悪く機体重量がかさみ重くなる原因になる。この戦闘に参加していた中華の機体は強撃八型で、足先の方は履帯が斜めに付いており先っぽだけが地面に接している。ここに拡散爆式重砲の砲弾から飛び散った玉が当たり、履帯を切断されたことにより被害が増大した。


 「着弾、今!直撃です!」

 「敵の損害は?」

 「撃破3機。大破4機。行動不能12機。期待以上の効果ですね!」

予想よりかなり損害が大きいのは、恐らく敵が密集していたからだろう。しかし、

 「敵第三世代機はどうだ?」

 「恐らく損害なしかと」

やはり肝心の第三世代機には当たらなかったようで、仕方ないので次を撃ち込むことにした。

 「シリンダー内の残弾は3発...か」

初弾は敵が密集していた為効果が顕著に出たが、恐らく散開した状況ではそこまで効果は見込めまい。

 「射角調整、再度砲撃する」

まず敵の右舷に一発、続いて前方に一発、左舷に一発づつ撃ち込む。しかし、

 「敵損害は、大破3機、行動不能6機、内第三世代機は4機です」

 「まあいい。これで敵は13機。俺たちは16機。敵戦車隊含めても圧倒的じゃないか」

 「こちら鶴喰。敵は現在混乱している、この機を逃すてはない!全員突撃!!」

それぞれが吶喊しながら斜面を下りているなかで、俺は悠長に拡散爆式重砲を地面にゆっくり置いて、博士に座標を送る。背面上部の武装保持装置から85㎜突撃砲を取り、横腰部装甲内の短刀を取り出し、砲身下部の着険装置に着剣する。

 「よし、軍曹。俺の後方から援護を頼む」

 「了解!」

元気よく返事が返ってきたのを確認し、

 「敵を一機たりとも逃すなよ!!」

そう言いながら突撃する。遅ればせながら到着すると、一番初めに目に映った約200m先の敵強撃にまっしぐらに突っ込む。敵の、他の味方を撃っていた手が止まりこちらに向き、火を噴いた。しかし、大きく左右に動く大和に敵は弾を当てられずにおり、遂に大和の間合いに入ってしまう。しかし、大和はこれを撃たず、大きくジャンプし、敵の背後に着地後すぐに片足を前に出しブースターの勢いを利用して、急旋回を行う。

 「獲った!!」

そう言いながら振り向く前の敵の背中に銃剣を刺す。銃剣はコックピットに到達し、敵パイロットの体を穿つ。血が滴る銃剣を素早く引き戻し、一気に距離を取り敵機の爆発から逃れる。

 「すげぇ」

軍曹の小並感を聞きつつ、

 「次だ!」

と、周りを見渡すも戦闘はほとんど殲滅戦の様相を呈していた。上野曹長の機体が敵の殲撃を切り裂き、鷹司曹長の機体が、百目鬼少尉の機体が、それぞれ敵を撃破しているのが見えた。既に敵を撃破した味方機が交戦中の味方を援護したりと、勝利は確定していた。

 「鷹司、残りの陸戦機は任せた。岡田、上野、上守は俺についてこい!敵装甲部隊を殲滅する!」

 「「了解」」


 「クソッ...クソッ...どういうことだよ...おかしいだろ!あんなの...」

陆一級軍士長と撤退ていた郝はそう呟くように泣き言を言うしかなかった。

 「仇を討たせてくれ...なあ!行ってくれよ!」

コックピットのなかで陆にそう訴えるが、陆は黙ったままだ。

 「ここで行っても返り討ちに合うだけだ。」

そう静かに言った陆の手は固く握られていた。

 少し前、撤退中の二人は急に減っていくマップの味方アイコンに気づいた。どういう事かを問うために味方との連絡を図るが既に何人かとは繋がらず、やっと繋がったと思えば画面に映ったのは胴を貫かれ血を流す同志で、次の瞬間には通信が途絶したのだ。

 「何も...できないのか?」

無念そうにな郝の問いに、陆は、

 「腕を磨く。いつか、奴らに復讐するんだ。絶対に仇を討つ。それがせめてもの同志への報いだ...」


 同刻、装甲部隊のあらかたの掃討が終わり、部隊には作戦終了と勝利が告げられた。

 「やった!初戦は勝利だ!」

 「生き残ったぞおおお!!」

など、それぞれの声を通信で聞き、急に手から力が抜ける。

 「初陣は突破した...」

 「そうだ、お前は生き残れるだけの能力があるんだ」

隊長にそう言われ、心の中で喜んだ。

 「帰ったら戦勝パーティーですね!あ、歓迎パーティーも一緒にやっちゃいましょう!」

相変わらず元気に上野曹長が言った。

 「そう言えばまだ歓迎パーティーやってなかったな」

こうして帝國は第二次日中戦争、延いては第四次世界大戦の初戦の勝利を飾ったのだった。

  



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