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第01試験科中隊  作者: 津田邦次
第一章 第二次日中戦争
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第二回瀋陽総攻撃 その5

 振り向いた二機のカメラに映った陸戦機―漸撃は二機が特徴的な四脚を高さの違う建物の上に乗せ、もう一機は既に同じ道路の先に、突撃砲の砲口をこちらに向けて、いた。

 『マズい!!』

 二機ともすぐさま後退しつつ、左右に上昇しながら散開。飛び退いた瞬間先ほどまでいた場所に大量の砲弾が浴びせられ、射撃を止めず砲口でマンションらしき建物の陰に隠れるまで追い続ける。着地しながら通信を入れる。

 『ここからは単独で行動!約四十秒で中隊各機と合流。少佐は逃げた機体を追ってくれ!この三機は俺が相手する!!』

 『了解』

 このピンチにも顔色一つ変えずに冷静に対処する当たり相当な手練れだろうな...。

 呑気にそんなことを考えつつも、突撃砲のリロードを終える。と同時に今隠れている逆鉤状に曲がったマンションの先を戦術マップで確認する。建物の先はすぐ目の前にビルがあり、その前を道が通っている。この道は左右にずっと続いている上に先でいくつも小さい道と繋がっている。敵が左右別で隠れていれば挟み撃ちにあってしまう。上空に飛び上がるのもいいが、障害物が無い空ではいずれこの機体の速度に慣れた敵には撃たれてしまう。しかも着地する時に地上に障害物が多すぎて飛び上がっても速度を出せない。大きい道路など、着地できる場所が予測できるから、着地時にそこを狙われてしまう。味方の到着を待ってもいいが、援軍ぐらい予測しているだろうし敵は確実に攻めてくる。

 ならば!!先手必勝!!

 そう覚悟を決め、建物の間から飛び出す。左は無視して右に一気にブーストを噴かして100m先の┤型の交差点まで距離を詰める。すると予想外の行動だったのか、敵が堪らず半身を出して射撃してきた。陸戦機には少し狭いが十分大きい四車線の道路を左右上下に素早く回避運動をとる。まるで付いてこれないように敵機の腕が軌道の跡を追う。

 (こんな機動、戦国でも出来なんぞ!!)

 鵲の凄まじい機動力に感動しつつ、すぐ横まで接近した敵機の左前脚の関節に90㎜突撃砲の一撃を加える。砲撃音と共にけたたましい破砕音を鳴らし四脚の一部が破壊され、足を一本失った機体はバランスを崩し、倒れるように傾く。反撃しようとしたのか急激な姿勢の変化に漸撃のパイロットは対処しきれずに地面に向けて突撃砲を撃っている。

 そこを冷静にコックピットに90㎜徹甲弾を撃ち込む。その一撃で完全にコックピット内部がパイロット諸共破壊され、漸撃に最早戦闘の意思は無くなった。

 『次ィ!!』

 撃破を確認すると同時に一気に前進する。そのすぐ後ろを砲弾が掠め、地面を抉る。

 『やはりな!!』

 味方の異常を察知した敵が援護に戻って来たのだ。そして敵が今いるのは先ほどまで隠れていたマンションの上だった。恐らく敵は、今マンションの上にいる敵が隠れている鶴喰機を攻撃し、うかうか出て来た所を挟み撃ちで撃破しようって寸法だった訳だ。

 直ぐに敵機は一気に距離を詰めようと高くジャンプしながら砲撃する。しかし、鶴喰は後退するのではなく逆にその機体の方向、今まさに空中にいる敵の真下に向かって前進した。陸戦機には、特に四脚機には一部機体を除いて絶対的な死角がある。真上と真下だ。特に前進しながらのジャンプは手前から奥に射撃するにはいいが、奥から手前へは非常に射撃しにくい。そこを突いた行動だった。そして、必然的に落ちてくる敵の背後に回る行動でもあった。地上では高機動である四脚機だが空中では融通が利かず、更に元々その場での旋回能力もそこまで高くなく敵機は着地する頃には見事に敵に背を向ける結果になってしまった。勿論そんな好機を鶴喰が逃すはずもなく、90㎜徹甲弾を叩き込まれて、機能停止。撃破されてしまった。

 『こちら天笠。敵機の撃破を確認。少し手古摺りました』

 『了解』

 手古摺ったと言え、敵機四機の中でもずば抜けて機動力を活かしていた敵だ。かなり速い。しかし、まだ、後一機。

 『敵機確認!!残りはアレだけですね!』

 『いいタイミングだ!よし、やれ!!』

 『了解!!』


 片側三車線の大きな道路から右に入る道に敵はいた。すぐに通信で隊長に連絡し、後ろの上野機と射撃を開始する。

 『くらえや!オラァ!!』

 55㎜徹甲弾を連射し、一気に距離を詰める。敵機も射撃とバックステップで距離を置こうとするが戦国の加速力は四脚の後退速度では振り切れなかった。そして、いつの間にか突撃砲を武装切替補助装置に一時保持させ背部の長刀を装備していた。

 『うぉぉおおおおおおおおお!!』

 雄叫びと共に長刀を振り下ろし、懐まで迫った敵機の右腕を斬り落とす。その勢いのまま肩部から敵機に強烈なタックルをくらわす。突撃を受けた敵機の緩い円錐形の出っ張た胴体に肩部装甲が食い込む。

 「ぐぅ...。痛てて...」

 システムが今の衝撃で一時自己防衛モードに入ったのか、システムが再起中だった。しかし、直ぐにゴーグルに映像が送られ、タックルしたまま止まっていた機体を起こす。右腕部にかなりのダメージがあり、動かせるのも時間の問題のようだ。

 (よくあれで生きていたな...)

 普通なら壊れて動かなくなっていてもおかしくなかったが、肩部装甲は動作に影響が出る可能性が高く、パージした。敵は既に動かなかったが取り敢えず頭部を長刀で破壊した。

 『だ、大丈夫だった...?』

 ちょっと引き気味で安否を尋ねられる。

 『右腕以外は、なんとか...』

 『これは帰ったら整備長に怒られちゃうね』

 そう言って笑うので照れ隠しに、

 『それよりコイツのコックピット剥がすの手伝ってくれ』

 『私がやるわ。これ以上右腕を酷使出来ないものね』

 『ああ、頼んだ』

 そう言って閃雷の腰部装甲に収められている短刀を抜き、コックピットハッチの間にねじ込み、こじ開ける。ギギ...。っと音を立て開き、大きな音を立ててハッチが落ちる。

 『...これ、生きてると思うか?』

 『分からないわ。取り敢えず隊長に...』

 そうの言葉を遮るように、

 『その必要はない。パイロットの武装を調べろ。無ければ捕虜にする。何かしらの情報を持っている可能性がある』

 その指示を受け、コックピット内に戦国のカメラを近づける。

 『女だ!?マジか...』

 支那のエースパイロットに女性がいることに少し驚きつつ。観察する。ピッチリしているパイロットスーツが強調する女性的なラインは胸は程よく細く緩やかな腰回りで艶めかしく、長くきれいな赤い髪もまたそれを強めている。寝顔から見ても整った美しさが見える。

 『...なさそうです』

 『よし、救助の後拘束』

 それから考えるように少し間を置いてから、

 『...上守は先に救助していろ。ただ、右腕をパージしろ。上野機のものと換装する。後方への護送は上野がやれ』

 『『了解』』

 右腕をその場でパージし中腰にさせる、応急処置キットを持ちコックピットハッチを開ける。左腕がハッチの前まで来ているのでそこに乗り中腰になると、機体も自動で地面まで降ろしてくれる。中腰になった機体の換装作業中に救助作業を終わらせる。漸撃をよじ登ってコックピット内を覗くと、カメラ越しに見るよりも綺麗な赤い長い髪を乱れさせ、綺麗に整った俗に美人と呼ばれるような女性が、そこには眠っていた。

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