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第01試験科中隊  作者: 津田邦次
第一章 第二次日中戦争
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前哨基地攻略作戦 その5

 敵の動きを観察していた味方から敵が救助活動を開始するであろう旨の無線が入る。それによると敵陸戦機は3組に分かれ、内一組がこちらに南から進撃中とのことだ。確認された歩兵は六分隊でそれぞれ南と東に二分隊ずつ同じくこちらに進撃中のようだ。更に、進撃中でない陸戦機隊の残りの二隊はどちらにも破損した機体があり、どうも南西側の敵は三機のみで、残りの歩兵に分隊もそれぞれこれの護衛についているようだ。

 「叩くならここだな」

 そう言いながら机の上の地図の南西側の部隊を指さす。

 「罠の可能性もあるが...どのみちここしか叩けない、のか」

 刘の言葉に顾が頷く。

 「俺も概ね賛成だ。8人と残り五基の投射機じゃ他はどうもこうもないしな」

 

 「予想通り敵は罠に掛かりました。恐らく7人全員が南西に向け移動中です」

 第五分隊の報告を受け、小鳥遊中尉は舌なめずりをする。

 「このまま敵を鷹司機から遠ざけつつ大きく弧を描きながら接近する」

 しかし、予想以上に単純な敵だな。

 「敵、予想通りのルートをまっすぐ進行中」

 その間にも第一小隊の救助が始まっていた。

 

 「鷹司曹長!!」

 上野が外部スピーカーで呼びかけるそれには下半身が付いておらず、特徴的な肩部の青は汚れ、背部のミサイルポッドは付け根が折れ曲がり割れて外れてしまっている。力なく地面に横たえるそれが応じないとわかっていても、名前を呼ばずにはいられなかった。

 「クソッ、ハッチが開かねぇ」

 下乗した岡田少尉が箱型のコックピットブロックの上部にあるハッチの非常開閉手順を踏んだがハッチの構造が破損したのか開かなかった。

 「しかたない、陸戦機でこじ開ける。上野曹長、鷹司機を抑えていてくれ」

 指示を受け、上野機が膝つき残った右腕と左膝で千切れた上半身を仰向けに固定し、跨るようにその上に岡田機が乗る。

 「いくぞ、ゴラァ!!」

 ハッチをマニュピレーターで固定し、最大出力で持ち上げる。ギチギチと音を上げハッチが折れ曲がり、ベキッと音をハッチが外れる。

 「よし、上野は応急処置キットをもって出てこい。俺が外に運び出す」

 そう指示し、岡田少尉はコックピットから飛び降り、岡田機の外されたハッチから中に入り、持ち出したライトをつける。そこには口から血を流し、力なくシートの上にもたれる鷹司の姿があった。

 「鷹司!!」

 急いで狭いコックピットに潜り込み中でだらりと垂れ下がった右手を持ち上げ、パイロットスーツの手首の少し手前に取り付けられているバイタルカウンターを確認する。これに表示されるのは脈拍を表すハートマークと呼吸速度を表す肺のマーク、体温を表す簡単な人体のマーク、そして血圧を表す短い折れ線グラフのようなマークだ。カウンター自体は小さく横に長く表示が四等分されている。見ると血圧、脈拍、体温の低下、呼吸もほとんど行われていない。

 「しかし生きている!!おい!まだ生きているぞ!!」

 「容体は?」

 「恐らく高所からの落下での骨折と内出血だろう。シートがクッションの役割を十分果たしたのだろう」

 そう言いながら、コックピットから慎重に引き出す。コックピットから出したら上野曹長に声を掛け、簡易担架で地面まで下す。周囲の警戒は歩兵に任せ、その場で応急処置を開始する。

 「まず、骨折部位を固定しなければな。ギプスを取ってくれ」

 それに応じて、上野曹長が四角く黒いビニールに包まれた板を二枚、応急処置キットから取り出す。黒いビニールをはがすと、中から40㎝×40㎝の白い板が出てくる。これをを一つは臀部に、もう一つは腰部に無理のないように押し当て、形を覚えさせる。このギプスは黒いビニールをはがすと一定時間後に固くなる仕組みで、一つの応急処置キットに四枚入っている。右足の太ももと腕も骨折しており、同じように処置する。体の固定が完了してから、応急処置キットの横の別ポケットから銀色の何重にも折りたたまれたヒートシートを取り出し、鷹司を顔だけ出るようにグルグル巻きにする。

 「よし、何とかこれで持つかな。しかし、どうやって運ぶか...」

 「取り敢えず、あそこの民家にでも入りましょう。外よりはマシでしょうから」

 その言葉にうなずいて担架を二人で抱え、民家に入る。幸いにもドアは開いており、一階にベッドもあった。上野が歩兵部隊に報告している間に、少し気になったことを調べておく。家に入ると、すぐに階段が見えたのだが、少し違和感を覚えたのだ。

 「すこし見てくる」

 横目でうなずく上野を一瞥して二階に上がる階段を見上げる。腰のホルスターから拳銃を抜き、構えながら二階に上がる。恐らく敵がいるならばとっくに襲われているであろうが、待ち伏せしている可能性も考えて出来る限り音を立てずに階段を上がる。感じた違和感をおいておいて、クリアリングを優先する。ゆっくり壁伝いに階段を上がる。階段の先は部屋が手前左側にひとつだけで、そこも扉が開いて部屋の中から光が漏れている。

 「...!!」

 そう、光が漏れているのだ。外から見たときに明かりは灯っていなかった。でなければ入りはしまい。更に、一階の電気は点いていなかった。そこまで気づいて、部屋の外から出来るだけ顔を出さずに部屋の中を見る。中に人はいないようで、しかし死角に隠れている可能性を考えながら銃を構え部屋に勢いよく横転しながら入る。しかし、人はおらず警戒はしながらも銃を下ろし中を見渡す。一番気になっていた窓にはカーテンがされいる。近づいてカーテンを開けるとブラインドが降ろされており、なるほど外から光が見えない訳だ。屋内の安全は確保されていると確信するが、なぜ二階の電気だけ付けられ都合よくブラインドが降ろすしてあったのか。今考えるべき可能性はここに敵が一時的にでもいたかもしれない事実だろう。まだ近くにいるかもしれない。無線では七人が南に移動中とのことだが、まだ確認できていない敵の存在も考慮すべきか。取り敢えず隊長に通信をいれるべく左手首にあるバイタルとは別の画面で隊長の枠を押し、ヘッドセットに手を当てる。

 「あー、あーこちら02。隊長御無事ですか?」

 「こちら01。ああ、丁度敵機を撃破したとこだ」

 「報告します。鷹司は外傷はないものの、内出血及び骨折が酷く応急処置だけではどうにも...直ちに基地への送還を提案します。それと、敵は七人だけではないようですが―――」

 岡田の言葉を鶴喰が遮り、

 「んなこたぁわあってるよ。取り敢えず鷹司は上野機に乗せて百目鬼少尉と撤退させろ。それと敵が馬鹿なら七人でまとまって行動するだろうが、現に鷹司がやられてんだ。そうじゃない、恐らく伏兵が二、三人はいるだろうよ。小鳥遊のやつは敵がまんまと餌に掛かったと思い込んでるだろうさ。俺は今からそいつを探す」

 「了解。通信を終了します」

 

 「さて、どこにいるのかな」

 岡田少尉にああ言った手前、なんとしてでも見つけ出す必要があるが、さっぱり見当がつかん。

 「どうすっかな~」

 呑気なことを言いながらも、敵の動きを考える。自分ならこの状況でどうするか。七人で動くのはどう考えても罠だろう。敵の残りも少ないのは分かっているし、敵がそれでもやる気ということは、そいつらは手足が吹っ飛ぼうと、仲間が死のうと、最早敵を道連れにするしか考えない。どうにかしてでも、どんな手を使っても、一機でも多く道連れにする。そう考えるはずだ。鷹司機を撃破してもなお、敵を葬ろうとまだこの地にいるのだから。

 「で、あるならば...」

 機体の右のモニターに拡大したマップを出す。現在自機は中央の大通りにおり、北西に救助組。救助組と大通りの間に歩兵一分隊。各歩兵分隊はそこから中央ちょい西よりにかけてアーチ状に展開し、南西側を包囲するように詰めていっているはずだ。小鳥遊中尉と獅子王曹長両機は丁度、自機と救助組を直線で結んだ真ん中にいる。狙われるならここだろうな。いや、ここしかない。この二機は自分達が狙われるとすら思っていない。だからこそ、ある程度警戒している救助組には敢えて向かわず、万全であると思っている、思い込みやすい状況で、損害の大きいモノを狙う。俺ならそうする。

 「決まりだな」

 ...そうだ、あいつらには悪いが一役買ってもらうか。

 この時の鶴喰中尉の顔は相当に悪い顔だったそうだ。

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