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第01試験科中隊  作者: 津田邦次
第一章 第二次日中戦争
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前哨基地攻略作戦 その3

 「HAHAHAすまない、聞き間違えたようだ。もう一回言ってくれ」

 現実逃避したいらしい上守が問いただした。

 「ではもう一度言います。敵の援軍が来ます」

 オペレーターは淡々と、しかしさっきよりもはっきりと言った。

 「だよね、聞き間違えなわけないもんね」

 上守も現実を受け入れたらしい。

 「まあ、愛機がくるんだ、構わんだろ?」

 「うぬぬ...」

 どうも腑に落ちない様子だ。それもそうだろう、この作戦わざわざ中途半端な水陸両用機を使わずとも出来る作戦だ。なんせ不安定な試作機だ、使わない方が成功率も高くなるだろう。これも偏に石田のおかげだ。

 「それで、状況は?」

 「はい、敵戦力合計陸戦機二個大隊。北西より一大隊、南西より一大隊。内訳は、両方とも陸戦機二中隊、対陸戦機歩兵一中隊です。接敵まで残り約60分です」

 「そうか。HQ、こちら試験科鶴喰中尉。これより我が試験科中隊は南西よりの敵の対処をする許可を頂きたい」

 「こちらHQ、刑部中佐だ。いいだろう。許可を出す。残りは北西に向ける」

 「了解。現時刻をもって基地の掃討を開始する。どうやら既に味方も上陸しているようだしな」

 ちらりとレーダーを見ると綺麗な編隊を組んで向かっている。後数分で到着するだろう。到着までに掃討を済ませなければ。


  -中華共和国北部戦区第18集団軍第28陸戦科作戦司令部

 「掛かったか...」

 「そのようですね」

 「これが私の最後のチャンスだ...しくじれば首が飛ぶ」

 少将の顔色は今までになく落ち込んでいる。

 「南北に戦力を集中させ中央を薄くし、そこに敵が流れ込んできたのを挟み込む作戦だが...敵は二個大隊の陸戦機をことごとく!!...ことごとく...」

 怒りと混乱に似た感情とで憔悴しきっている。

 「私があの機体に乗って出れば、もしくはこの戦い、勝てるかもしれません」

 「しかし...ソヴィエトのあの胡散臭い機体に乗るのか?」

訝しむように膝に肘をついたままこちらを覗いている。

 「はい」

 「.....好きにするといい...」


 基地内部は散乱とし、それは帝國軍が臨時として置いた司令部の部屋も例外ではなかった。

 「第107師団陸戦科中隊各位只今着任しました!!」

 バッと足を揃え、右手で敬礼を行う。その前には少し汚れた大きなスクリーンがある。そこには刑部中佐が映っている。

 「うむ。それでは今回の任務を説明する。まず今回敵は既に二手に分かれており、合流されると厄介だ。つまり、それぞれの中隊での各個撃破を目的とする。南西組は既に現場へ向かっている。今回は随伴歩兵として機械化重装歩兵一小隊と対陸戦機二小隊を送る。迎撃地点は市街地になっている。歩兵の真価が発揮されやすい地形だ。用心して掛かれ。各位の奮闘を期待する。質問は有るかな?」

 モニター越しに皆の顔を見渡すが、誰も手を挙げないのを見て正面を向く。

 「質問はないな。以上だ」

 真っ暗な画面が映り、何も聞こえなくなる。

 「よし、現場に向かうぞ!!」

 

 迎撃地点は国境沿いのド田舎とだけあって少し町から外れれば田んぼばかりの所だった。町は基本的に建物は民家ばかりで陸戦機が隠れるには場所が限られる。更に町の真ん中には大きな通りがあり、敵はここを通ると予想される。幅は陸戦機二機が並んで通るのが限界だろう。既に勧告が出されたのであろう、人の姿は見えない。数的有利がある分いくらか楽ではあるが、敵歩兵に展開されると非常に厄介だ。真っ先に潰しておきたい。これは隊長も同じことを思っているらしく、それが布陣に出ている。作戦はこうだ。敵を中央通りの真ん中まで前進させ、敵の後ろから俺を除いた第一小隊が飛び出て後方にいるであろう随伴歩兵を壊滅させる。敵陸戦機が後ろを向いたところで、同じく敵の先頭方向から第二小隊が飛び出し道をふさぐ。後はぺちぺち潰すだけ。展開の仕方は民家を踏みつぶしても扇を描くようにし、片側が撃ったら身をかがめ、再装填中に反対側が射撃する感じだ。しかし、俺のこの配置は悪意がるのかないのか...

「ほっんとについてないわ...何でまたこんな奴と組まなきゃならないのよ!!」

 そう、またガルシアと組まされたのだ。俺達は町の最東部にある倉庫から狙撃する役目と、敵を逃がさないように追い詰める役目がある。それとこのうるさい御令嬢の護衛だ。作戦には必要だし、お前にしかできないとか言われたらやるけど...どうも納得できん。第三小隊にやらせればいいではないか。...航空機用に戦力を温存しているらしいが。

 「ついてないのは俺だろ(ボソッ)」

 「聞こえてるわよ!!」

 相変わらずの怒声で耳が痛い。鼓膜が破れたらどうしてくれるんだよ...

 「もし、万が一、私が敵に接近されたらあんたしかいないんだからその時は頼んだわよ」

 珍しく、弱音をはく。

 「まあ、そんなこと万に一つもありませんけどね!!」

 そう思っていた時期が私にもありました。


 「敵、視認可能!!距離2570」

 上野の報告を受け、

 「そうか。そうか。ようしお前ら!スピード違反の奴らの脳天に鉛玉をぶち込んでやれ!!」

 「「了解」」

 男どもの威勢のいい声が聞こえる。

 「今回の作戦、引き付けることが何より大切だ。丁度真ん中だぞ、いいな」


 「しかし、敵はまんまと罠に掛かったらしいじゃないか」

 向かい側に座っている男が車内の皆に笑いながら話しかける。ガタガタ揺れる車内は急ごしらえの対陸戦機用の武装と、寄せ集めの兵士で皆だらけている。

 「俺たちの初陣、最高の戦果を収められそうじゃねぇか!はっはっはっはっ!!」

 「帝國のマヌケどもの顔面に強烈なパンチをお見舞いしてやるぜ!!」

 こいつらはダメだ...敵をナメてはいけない。それは俺が良く知っている。運が悪けりゃ死んでいた。特に陸戦機はな...

 「そう言えばアンタ、歩兵装備で陸戦機を撃破したことがあるんだろう?」

 笑っていた男が急に話を振って来た。

 「あるが...それがどうかしたのか」

 「へへっ、聞いたか皆?歩兵でもやれるぜ!!恐れることは―――」

 ...ッ!?

 「なんだ?」

 急いで頭のすぐ後ろの窓から外を見る。隣の車両が爆発した。しかし、それよりも目に留まったのは、民家の後ろに立っているでかい人影だ。

 「クソッ!!皆、武器をもってすぐに降りろ!!」

 そう言いながらシートベルトを外し脇に置いてある武器を取り、急いで狭い真ん中の道を走り、ドアをこじ開ける。既に車は止まっており、落ちるように車から出る。

 「おい!一体―――」

 その後の言葉は発砲音と着弾時の爆発で聞こえなかった。ダッシュで民家の陰に入り、ちらりと通りを見るが、既に輸送車は無残な姿に成り果て、何とか降りようとしたやつに、運がなく火がつき苦しそうに大声を上げ、暴れ回っている。

 「クッ...」

 聞くに堪えず耳を閉じたくなるが、そうもしていられない。素早く周りを見渡し、状況を確認する。既に輸送車は全滅し、数名の生き残りが、仲間を助けようとしている。

 バララッバララララッ

 「銃声!?敵も随伴歩兵がいるのかッ!?」

 先ほどまで仲間を助けていた味方が撃たれ、それに気づいた更に少なくなった数人が、車の残骸の陰に隠れる。どうやら通り以外には俺しかいないらしい。

 「ん?あれは...」

 丁度向かいの民家の陰に人影を見つける。どうやら俺だけではなかったらしい。しかし、どこか見覚えが....ん?あいつだ、あの笑ってたやつじゃねぇか!!てっきりしんだのかと...取り敢えずコンタクトを取らなければ...


 「奇襲成功。敵の包囲も成功。損害軽微!最高じゃないか!」

 敵は完全に不意を突かれて固まっており、狭い通路でそれぞれ後退し合ってぶつかったり、強行突破して狙撃されたり、大変である。

 「楽な仕事だぜ」

 完全に余裕をかましている。

 「流石に慢心しすぎですよ。隊長」

 「わかってるよぉ、鷹司君。なに、油断はしないさ、追い詰められた人間は何をするかわかったもんじゃない」

 そう言いながらバシバシ敵機に弾を当てていく。

 「06被弾!!右腕をやられた、パージする」

 「04被弾、左肩をやられました。すみません隊長!」

 百目鬼少尉と上野曹長の報告は予想よりも被害が少なく、まだ継戦できそうだ。

 「少し出るタイミングをずらして早めに下がれ」

 「「了解」」

 だが、もう決着はつきそうだな。

 「もう一押しだ!やれ―――ッ!?」

 突然視界の端の鷹司機の下半身が爆発。コックピットがある上半身は無事のようだが、中身が危ない。

 「おい!鷹司!大丈夫か?応答しろ!!!」




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