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第01試験科中隊  作者: 津田邦次
第一章 第二次日中戦争
12/27

前哨基地攻略作戦

 「特殊なスーツって、これほとんど潜水服じゃねーか!」

 上守が黒いビニールの袋を開けて広げたそれは、袋と同じ黒色で厚さは、ラベルによると5㎜らしい。

 「おまけにゴーグルまで付いてるよ...」

 ため息まじりに手に持った左右でレンズが繋がっているゴーグルを見せる。

 「しかし、視界最悪だろこれ」

 今から5分ほど前、18時20分のことだ。もう既にパイロットスーツは更衣室のロッカーに入っているのを石田博士から聞き、鶴喰達は食堂からそのまま更衣室に向かった。

 そこで待ち受けていたのは見るからにスキューバダイビング装備に酷似したものだった。

 「ん?ゴーグルの下に何かあるな...」

 そう言いながら岡田がロッカーの中に手を入れる。自分もゴーグルの元あった場所を見る。確かに手のひらサイズにメモ用紙が置いてあった。

 「なになに、『そのゴーグルには細工がしてあるから安心していいヨ』だと?」

 几帳面に語尾まで再現しおって。しかも恐らく全員分書いたのだろう。なんという無駄な努力。

 「細工って何ですかね?正直あんまり安心できないんすけど...」

 その気持ちは痛いほど分かる。付き合いが長い分碌な目を見ていない。

 「さすがに命が掛かってるんだ安心していいだろう」

 岡田がフォローを入れる。まあ、前科があるが皆同じ装備なら大丈夫だろう。取り敢えず着るしかないわけだし。

 「なあ、上守。お前泳げるのか?」

 そう言ったのは文句の一つも言わずにいつの間にか着替え終わっていた鷹司だった。

 「多分、それなりには出来ると思います」

 「なんだ、曖昧だな」

 こればっかりはしっかり確認しておいて損はない。

 「士官学校時代に潜ったきりで、その時も初めてでそれなりに出来たから多分出来るかなって」

 「適当だな...」

 そうこう言っている間に全員着替え終わったらしい。ゴーグル片手に外へ出て行っている。

 「行くか...」

 ボソッと言って立ち上がる。


 着替え終わり、それぞれ集まりジープで移動する。一台では入り切らないので三台で移動している。まだ見慣れていない景色の中をジープが走っていく。少ししたところで大きな格納庫が見えてきた。格納庫は巨大な縦に横に長い直方体で側面に大きく012と書かれている。

 「着いたぞ」

 ジープは少しコンクリートの出っ張った入口の前で止とまり、隊長が降りる。それを見て皆が続くと、後続の二両からも同じように降りてくる。両開きのガラスのドアを開け入る。

 「おや?今来たのカイ?」

 聞きなれた博士の声がした方を見ると、当たり前のように博士がそこにいる。

 「ああ、今着いた」

 隊長が答える。

 「そうか、じゃあ案内するヨ。必要ないと思うケド」

 ならばと皆で付いていく。廊下を通り、長い階段を二つほど降りたところで、隊長が口を開く。

 「なあ博士。ゴーグルの細工ってなんだ?」

 「ああ、それは機体に乗ってからのお楽しみダヨ。楽しみは多いに越したことはないダロ?」

 「そうだな、くだらん事だったら容赦せんぞ」

 「信用ないナ~。ワタシ何かしたカナ?」

 「前科が多すぎてな」

 「まあまあ、もう着いたヨ」

 話している間に大きな鉄の扉の前に来る。扉の横に付いているセキュリティシステムにカードをかざす。離す間もなくピッと音が鳴り、ゴゴゴゴゴ...と重厚な音が響き、扉が開く。

 「おお、流石に本物を見ると凄いな...こんな機体本当に初めてだ」

 目の前に四機、すぐ横に二機どんぐりのような機体が並んでいる。

 「しかし、見れば見る程実戦に向いてない機体ね」

 前に出て来たガルシアが文句を言う。

 「なに、鶴喰クンの隊員なら使いこなせると思ったんだケド、ちょっと期待しすぎちゃったカナ?」

 「私がこの程度の機体にも乗れないっていうの?上等じゃない、乗ってやるわよ!!」

 ちょろいなぁ。

 「それじゃ、頼んだヨ」


 やはりというか、数人の機体には色が塗られている。もちろん俺の機体には塗られていない。が、黒に近い藍色をしている。この機体今は機体全面のスクリューが取り外されており、ここだけ灰色になっている。そこの真ん中にコックピットハッチがあり、真横に付いているボタンを押す。スッっと音がしてハッチが開き、コックピットへ入る。中は暗く明かりが付いていない。取り敢えずゴーグルを付けながら座席へ座る。

 「うおっ!!」

 座席に座った瞬間、ゴーグル(正確にはゴーグルから見える景色)が緑色に光り、起動中の文字が浮かび上がる。数秒もしないうちに視界が明るくなる。どうやらコックピット内の照明が起動したらしい。

 「おお...」

 まともな細工で安心すると共に、ちょっとした感動を覚えた。

 「起動したカイ?キミが一番ノリだよ上守クン」

 こちらも勝手に起動したらしい無線映像が視界の左上に表示される。

 「あの、これ、一体...」

 思っていたものとは大分違ったので、なかなか言葉が出ない。

 「これは、第二世代機の死因の上位8位だったモニターの破片で死亡を防ぐ為に開発された試製視界同調機ダヨ。使い物になったから早速試してね。多分もう少ししたらこれが一般的になるカラ」

 なるほど。

 「視界同調機ってことは、機体のカメラ映像がそのままこれに来るって解釈でいいですか?」

 「そうだネ。しかも映像の手前に操縦桿やらが実際の位置と同期して表示されるヨ」

 「素晴らしい!!」

 なかなかどうしていい物があるじゃないか!!いやーたまには博士もいい仕事するんやなー。

 謎な関西弁を混ぜつつ、そんなことを考えていると、整備部の人から通信が入る。

 「こちら整備部の西沢です。スクリューと付けるのでハッチを閉めてください。なんて」

 「おお、西沢。こっちに来てたのか」

 「ああ、お前が珍兵器で出るってんで駆けつけたのさ」

 「まったく、お前って奴は」

 戯言を抜かしつつも作業は進んでいき、全機の出撃待機が完了した。


 「時間だ。攻撃地点への輸送を開始する」

 19時ピッタリに通信を入れて来たのは、無論刑部中佐だった。

 「全機、地上へ出せ。大型トレーラーで各機輸送を開始せよ」

 そう言った途端、機体が上に上がる感覚を覚える。どうやら移動が開始したようだ。まだ待機モードの為、サブカメラしか使えず、外の様子は分からない。

 「おお!?」

 突如として機体が傾き始めたように感じたが、どうも自分は正面を向いたままで、座った姿勢のまま寝転がることにはならなさそうだ。そのまま20分ほどゴトゴト揺られていたが、急に止まり、今度は機体が持ち上げられる感覚がする。

 「着いたようだな。今から10分後に攻撃を開始する。それまでに各種装備し、攻撃と同時に河川へ侵入せよ」

 「「了解」」

 通信の後、すぐにトレーラーが機体の入っているコンテナを展開する。コンテナの内部側面には75㎜突撃砲が二門取り付けられている。

 「少し、前へ出てください」

 何もしないでいると整備部から無線で指示される。指示通りに一歩だけ前に出る。すると、コンテナの上の蓋だった二つの壁の隅に取り付けられたアームが武装を機体背部の装置に取り付ける。この装置は水中でマニュピレーターが起動していない際に、背部から上部へ展開し、射撃出来るようになる。もちろん上陸後はマニュピレーターに持ち替える。それぞれの機体も同様の作業を終わらせたらしく、既に待機している。しかし、見回して一機だけ、明らかに他とは違う機体がある。恐らくガルシア機だ。機体全面スクリューの間に大きなスリッパを裏返して細くしたようなフロートが付いている。フロートはかなり長く、前方に視界を遮っているように見える。

 「全機待機完了したな?」

 隊長が通信を開始し、各自がそれに答える。

 「よし、現在地は敵基地南方2㎞地点。砲撃部隊2.5㎞地点だ。今から約5分後砲撃部隊による敵基地への攻撃が始まる。攻撃開始と同時に河川へ進入し、北上。敵基地西部1㎞地点に上陸後二手に分かれて各班、任務を遂行する。くれぐれもしくじるなよ」

 「「了解」」

 帝國の、これから起こる新たな戦争への一歩が踏み出された。


 



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