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月はもう見ない
1年ぶりの食事、1年ぶりの睡眠。全てが私を満たした。それは大きく、深いもので、いつまでも私を包んでくれるかのような優しさがあった。このまま死んでしまっても構わない。そう思ったが、夢はあくまでも夢なのである。
夜が明けぬ前に目が覚めた。クマになっているかもしれないという心配はあったけれど、体は人間のままであった。テントを出ると外にはクマが眠っていた。クマも私と同じく、深い眠りに入っていた。クマは満たされた顔をしていた。ここから始まる絶望も知らずに。
荷物を点検し、テントをしまい、クマ以外のすべてを背負って山を下りた。山の出口に車が止まっていたので、何の躊躇もなく持ってきた鞄に入っていた鍵を差し込む。車のドアが開く。後部座席に荷物を載せ、運転席に座り込む。ふと空を見上げたらそこには月があった。慌てて目を下に向ける。もう二度と月は見ない。そう心に誓って車を進めた。
月はもう見ない。




