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公爵令嬢の壮大な夢

兄であるジェラルドが賛成してくれていたのがよかったのか、将又(はたまた)、ジェラルドの超優秀なプレゼンがよかったのかは考えないことにしておき、本日、なんと、王都を出てウェーブルの町に引っ越すことが決まったのです。やったね。お母様からそのことを聞いたときは思わずガッツポーズをとりそうになった。

まあ向こうの屋敷の手配やらなんやらですぐに引っ越しって訳にはいかなかったけど、まあ王都を出られるのなら万々歳だ。

私は浮かれ気分でお母様の部屋を後にした。

「んふふっふふん」

「今日のお嬢様は何時にもまして楽しそうでいらっしゃいますね」

「わっかるー?やっとお母様とお父様がウェーブル行き許してくれてね」

「ようございましたね」

「そう言えば、エミリアさんはウェーブルの近くの町の出身だったよね」

「はい。ですが、あの辺りはお嬢様のようなご身分の方には、あまり見るものがないように思えますが…」

そう答えたのは私の後をついてくる傍付の侍女のエミリア・クレイマンさんだ。

私よりも五つ年上の現在十一歳であるはずが年齢以上に落ち着きのある優秀な侍女だ。

私が何かを言う前にしたいことを汲んで先回りしてくれるとっても優秀な侍女に私は感謝しかないのだが、どうやら私は嫌われているようで話しかけてもそっけないのが悩みだが、まあ、仕方ないことなのだろう。なんせ私は公爵家きっての我儘令嬢と噂されている主人にしたくないランキングぶっちぎりの一位に君臨している令嬢なのだから。

前世を思い出しお淑やかに慎ましく生活をしている今の状況に使用人たちは嵐の前の静けさのような不安を抱えびくびくと怯えながら仕事をしているのはなんとなくわかるので、私は何も言わずにいる。

「…」

ちらりと振り返り後ろからついてくるエミリアさんを盗み見る。

きっと、エミリアさんも私なんかよりもジェラルドに仕えたかったんだろうな。

まあ、ウェーブルに行くならこの屋敷の使用人はほとんど連れて行かないからいいか。エミリアさんも残してジェラルド付にしてもらえるように頼もう。そうして私は田舎で悠々自適なスローライフを満喫するつもりだ。

「…もふもふスローライフ…」

「何か?」

「うんん。何でもないわ。じゃあエミリアさん。いつもの時間まで好きにしていいわ」

「はい」

エミリアさんにそう言い、私は書庫の扉を開けた。


鼻先をくすぐる本特有の匂いに心が安らぐのを感じながら、私は本棚のたくさん並んだ書庫へ踏み入る。

本棚を縫って歩いていくと足の低いゴシック調のテーブルを挟むように二人掛けのソファーが二つ置かれた場所につく。

ここは私が書庫に居つくようになり、サイラスを連れて連日入り浸るようになってから用意されたものだ。

私もサイラスも本に夢中になると昼食をとるのも忘れてしまうことがあり、食堂に現れない私と昼食を取りに来ないサイラスを心配したジェラルドとフィオルドさんが用意してくれたものでテーブルの上には常に茶器と簡単に摘まめる菓子が置かれている。

私は昨日の読みかけの本を手に取りソファーに腰掛けた。

今日はまだサイラスは来ていないのかな…?

そう思っていたらひょこっと奥の本棚の影からサイラスが顔を出した。

「あ、セナおはよう。今日は遅かったね」

「おはようサイラス。お母様と話をしてたの」

「ああ、ウェーブルに行きたいって言ってたやつ?どうだった?」

「いいって!やっと許してもらえたよ」

興奮気味にそう言えば、サイラスも嬉しそうに笑った。

「良かったねセナ。あ、いつから行くの?」

「まだ決まってないけど、なるべく早めにって言っおいた。できれば夏までに行きたいなー」

「夏までって、もうすぐじゃん」

「えへへ」

なるべく早くウェーブルに行きたいのだ。

ウェーブルは何もないと言われているけれどそんなことはない。

あの町は大きな森に隣接する町で私がこの世界でもっとも会いたい動物たちが暮らしているのだ。

「サイラスも準備しておいてね」

「あ、やっぱり僕もつれていく気だったんだ」

「だってサイラスも見てみたいって言ってたじゃん。聖獣カルラ」

「言ったけどさぁ…」

溜息交じりにそう言うサイラス。

聖獣と呼ばれる魔獣。鮮やかな真紅の羽に七色に輝く尾を持つ神秘の鳥とされるカルラにウェーブルに行ってすぐに会えるなんて私だって思っていない。

簡単に会えるのなら日帰りで行くに決まっている。

私はカルラと仲良くなってその背に乗せてもらえるようになりたいのだ。が、そんな夢を口にすればサイラスにもジェラルドにも止められそうなのでそこは黙っておく。

ゲームの画面越しに見たこの世界にはたくさんの魔獣や聖獣、あの世界では見たことのないような動物がたくさん描かれていた。

だから私はこの世界に転生したと知ったとき、あの夢のような動物たちと出逢えるのかと思い嬉しくなったのに、王都には中型以上の動物は馬しかいなかったのだ。

いや、馬が悪いって言ってるわけじゃない。

可愛いし賢いが、そうじゃないのだ。

ドラゴンとかユニコーンとかグリフォンとかフェンリルとかそういう動物と触れ合いたいのだ私は。

そして書庫で調べた結果、ウェーブルの森には聖獣カルラをはじめ、多くの魔獣と呼ばれる動物が住んでいることがわかった。

「兄さんになんて言えばいいのかなぁー」

「あ、そっか。フィオルドさんの許可がないとサイラス行けないか」

「んー。ま、最悪セナに脅されたって言えば大丈夫かな」

「えっ!?」

「冗談だよ。大丈夫何とかするから」

サイラスの冗談は笑えない。

一瞬ヒヤッとしたじゃないか。ちょっと前の私なら冗談抜きで脅しそうだから。

「…もしかしてサイラス、ウェーブル行きたくない?」

「ん?そんなことないよ?僕だって楽しみにしてるし」

「あの、嫌ならちゃんと嫌って言ってよ?無理やり連れていく気はないから…」

「心配しないでセナ。嫌ならちゃんと言うから」

そう言って私の頭を撫でるサイラスの顔はいつもよりも赤くなっていた。



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