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公爵令嬢と使用人1


サイラスを連れ、私は使用人たちに気付かれないように屋敷に戻った。

あまり使用人が来ないところにいた方がいいかな。

そうなると、エントランス、食堂は論外、兄の部屋は兄と家庭教師がいるし、父の書斎は勝手に入ると怒られるし、サロンには母がいるし、私室にはサイラス連れていけないし、使われていない部屋は施錠されているだろうし、どこかいいところないかな。

「んー…書庫でいいかな」

「書庫?」

「そう。最近私が気に入っているところ」

「ふーん。」

気のない相槌をするサイラスと共に書庫に行くことにした。

「セルティナさま。」

「え?なに?」

いきなり畏まったサイラスの声に、びくりとして振り返る。

「申し訳ありませんでした。オルフェンス公爵令嬢とは知らず、御手を取ってしまい…」

「は?お手?」

「使用人風情が、お嬢様に触れてしまい…」

「ああ、いいよーそんなこと。全然気にしてないし。てか、いきなり畏まんないでよーびっくりするじゃん」

「ですが…」

「さっきまでの喋り方でいてよ。せっかくできた友達に畏まられるとか、私泣くよ?」

貴族から庶民に触れるのは何でもないことなのに、その逆はいけないなんておかしな世だ。

貴族も庶民も同じ人間なのに。

そう言えば、サイラスは驚いたように目を見張った。

「何よ?私変なこと言った?」

「…変っていうか、頭おかしいって思われるよ。そんなこと言ってると」

「意味わかんない」

「そのまんまだよ。あんたって公爵令嬢のくせに変な子」

「また変な子っていう…」

別にそこまで変な子じゃないし。

まあ、記憶戻ってから書庫で調べものしたり、使用人捕まえてこの世界のこと聞いてみたりと、ちょっと、今までよりアクティブになってたとは思うけど、そこまでおかしなことはしていないじゃないか。

「取り敢えず書庫行こ。書庫」

「わかったよ」

呆れたような、どこか嬉しそうな声のサイラスの返事に私はにんまりとし、この世界で初めてできた友達を連れ、書庫へと向かった。



「さすが、公爵家って感じの書庫だね」

「でしょ。無駄にでかいこの家で唯一よかったところだね」

「街の図書館より本あるんじゃない?」

「へー。そこ行ってみたいな」

「ここ見た後じゃ、たいしたことないよ」

「でも、ここにない本あるかも」

「そんなことないって。公爵家で買えない本が街にあるわけないだろ」

「それもそうね」

サイラスはぐるりと書庫を見回し、手近な本棚へ近づいた。

「ねえ。あの本なんて書いてある?」

「え?あ、あの青いやつ?えーっと『竜と騎士の物語』だって」

「その隣は?」

「緑の本は『いばらの城にねむる姫』、金色のは『アルバと七人の盗賊』、その次のは『神獣の森の姫』」

「ふーん。」

指さされた本のタイトルを私が読み上げると、サイラスはどんどん次の本を示していく。

「ちょっと、サイラスだって読めるでしょ?」

「僕庶民だから、字なんて読めないよ」

「見え透いた嘘つかないでよ」

「なんでわかったの?」

「街の図書館見たことがあるって言ったじゃない」

「それだけ?」

「そうだけど。たぶん、サイラスはどこかで勝手に文字学んでそうだなって思ったから」

一緒に過ごした時間はまだほんの少しだけど、サイラスは推定六歳にしては博識な気がした。

「セナって公爵令嬢のくせによく見てるね」

「公爵令嬢の癖にってなによ。」

「…もっと甘やかされて育ってそうだなって思っただけ」

「まあ、そうだね。…我儘な性悪令嬢だったからね」

「今は違うって?」

「…頭の悪い我儘令嬢にはなりたくないって思ったの…」

「随分具体的だね」

「…あー、その、」

自分が将来デットオアデットの悪役令嬢になることを知ったなんて言ったら、また頭のおかしな子にされてしまう。

「ちょっと、変わった夢を見たっていうか…」

「変わった夢?どんな?」

「自分がとんでもない性悪女になってかわいい子虐めてる夢」

「なにそれ。変なの」

そういってサイラスはクスクスと笑った。

「今のセナはいじめられそう」

「そんなことないし。てか、セナって、私のあだ名?」

「セルティナって長いじゃん」

「だからって最初と最後の文字だけって…」

「呼びやすい」

「まあいいや。サイラスの好きに呼べば」

「ありがと、セナ」

にこりと笑ったサイラスに私は小さく狼狽えた。

両親、兄からはセルティナと呼ばれていたし、自分でもセルティナ呼びだったため、私を愛称で呼ぶ人はいなかったので今まで呼ばれたことのない呼び方をされるのは随分とくすぐったい気がした。

ましてやそれが天使のように可愛らしい顔の少年である。

脳内年齢二十数歳。

思わずショタコンの扉が開きかけたことは墓まで持って行くことをここに秘かに誓った瞬間だった。






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