セルティナ・オルフェンスという令嬢
突然だが、私、セルティナ・オルフェンスは前世の記憶がある。
そしてここが前世で死ぬ直前までプレイしていたゲームの世界であることを知ったときの気持ちと言ったら、嬉しいやらやるせないやら、いろんな気持ちが綯交ぜになって、思わずチベットスナギツネみたいな顔になったのは内緒だ。
何故かって?そんなの決まってる。
ゲーム内のセルティナ・オルフェンス令嬢の立ち位置と性格のせいだ。
ゲームでセルティナが「主に」出てくるのは攻略対象が第二王子と王宮騎士候補の時だ。
セルティナの実家は軍部に大きな力の利く公爵家で、第二王子編では軍部の後ろ盾が欲しい彼は軍部に顔の利く彼女と婚約していたので、第二王子篇でのメインライバルキャラとして登場する。
第二王子の異母妹の王女の取り巻きで、選民意識の強い彼女は庶民である主人公を軽蔑していたため、かなり陰湿ないじめを繰り返ししてきた。そのため、ハッピーエンドでは自宅謹慎という名の幽閉で社会から抹消され、バットエンドでは王子と刺し違えて死ぬ。つまりはデットオアデットの悪役令嬢である。
また、王宮騎士候補編では、第二王子の婚約者でありながら騎士に恋をして、主人公と三角関係になり、嫌がらせにいじめ、悪質な罠を繰り返し行ってくる。そしてハッピーエンドでは今までしてきたことが全て明るみに出て公爵家から勘当されて無一文で捨てられ、バットエンドでは騎士と無理心中を図って死ぬ。つまり、デットオアデットである。
ちなみに、どちらのノーマルエンドでも勘当または幽閉だった。
勘当と幽閉なら別にいいじゃないと思うなかれ、生まれたときからお嬢様として蝶よ花よと甘やかされて育ったお嬢様が一文無しで一人で生活できると思うか?ふんわりした白パンを山ほど食べ、着切れない程ドレスを作っていたお嬢様が硬い黒パン一切れと薄い衣服一枚で生きられると思うか?三日で死ぬわ。
そして、プレイ中一番イラつかされたのが、彼女の性格だ。
デットオアデットの未来しか用意されていないのも頷けるぐらいの屑だった。
彼女は、世界は自分を中心に回っていると思っているタイプの人間であった。自分の言葉は全て正しく、自分に歯向かうのなら死ね。というような傲慢な性格を少し垂れた青緑色の瞳の可愛い顔の下に隠していたのだ。婚約破棄されるのも頷ける。王子も騎士もこんなのと結婚しなくて本当によかったな。ナイス主人公。
そんな未来しかない駄目令嬢に転生してしまった私が、この事実に気付いたのは六歳になった先日、帝王学の授業中であった。
「……マジか」
家の書庫でこの国の歴史を調べ上げ、ここがゲームの舞台の世界だと確信する。
「同い年の王子はいるが、水属性に特化した天才騎士見習いはまだいないか…。王子の異母妹の名前はカトリーヌで、ゲームと同じ…極めつけはここ、王立グランフィール魔法学園」
書かれた一文を指でなぞる。
王立グランフィール魔法学園。
その名の通り、魔法を学ぶための学校だ。
この世界には化学はなく、代わりに魔法が存在する。
火、水、風、土、光の属性魔法に無属性魔法と呼ばれる特殊な魔法も存在するのだ。
魔法には興味がある。
なんせ、前世で一度は魔法使いに憧れた者だから。
「でもなあ…」
この学園には行きたくない。
だって、ここはあのゲームのメイン舞台なのだから。
例のセルティナ破滅ゲームの大まかな流れは王道物で、属性魔法の中でも稀な光属性を持った庶民の主人公はそれ故に王侯貴族ばかりのこの学園に入学する。そしてそこで運命の人と出会い恋をするという流れだ。
他のゲームとの違いはこのゲームは恋愛シミュレーションゲームでありながらRPG要素も入っているというところだろうか。
仲良くなった王子や騎士と一緒に魔獣狩りをしたり、お手伝いで薬草を取りに行ったり、旅行先で魔獣に襲われてみたり、ミニゲームでコインを稼いだりと、恋愛度を上げる以外にも自分の魔法レベルを上げないとイベントや次の回に行けないなど、やり込み要素が多いゲームだった。
ちなみに前世の私は魔法レベルがカンストした。
王子や騎士など数人の恋愛度を同じくらいにしておくと三人で一緒に狩りに行くことができるので、それを利用し、ガンガン狩りまくった結果が、カンストだ。
前衛の騎士、後衛の王子、超回復の主人公、理想の組み合わせだ。とても戦いやすかったのを覚えている。
「てか、セルティナの魔法ってなんだったけ?」
邪魔ばかりするのでいつも飛ばし読みをしていたので記憶が薄い。
それに嫌がらせは大体物理で魔法での嫌がらせはしていなかった気がする。
「まさか、魔法使えないとか?いやいや、魔法学園にいるんだから魔法使えないとかはないでしょ…」
王立魔法学園は魔法が使えるものは皆、庶民だろうが貴族だろうが全員通うことが義務付けられていて、入学時に職員に魔法を見せなければならない。
「取り敢えず、なんか出ないかやってみよう!」
試しにやってみようと決め、私は歴史書を棚に戻し、庭へ行くことにした。