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令嬢は町民と仲良くなる

仕留めた魔獣の換金を行う場所は主に二つだ。

一つは冒険者ギルドだ。

この世界の冒険者ギルドもファンタジーではおなじみの物とそう変わりなく、依頼者と請負人の中間窓口のような役割で運営されている。

そして今私たちがいるのはもう一つの方、国営の換金所である「役所」と呼ばれる場所だ。

冒険者ギルドは大陸の全国各地に支店が展開されているが支店があるのは王都や地方都市と言った多くの人が集まる街だけで、ウェーブルのような地方のド田舎の町には支店がない。

そんな地方の田舎町で捕れた魔獣や薬草などを換金する場所がこの役所なのだ。

大概この役所を利用するのはその町に住んでいる地元民で、この場所で換金できる額は一律で市場価格となっている。

なので冒険者や偶々採取できたレア物など高値での取引を望むものなどはこの場所ではなく、少し離れていても大きな街に出て冒険者ギルドで換金するのだそうだ。

「町の人は大きな町に行って換金しようとは思わないの?」

「よっぽど珍しいものじゃなきゃ、町から出て帰ってくるまでの旅費やらなんやらで換金した額なんてすっ飛んじまうからな。行くだけ無駄なのさ」

「それに何日も家を空けていられんしな」

「あーなるほど」

移動手段が基本徒歩と馬と言う世界、平民の年収では馬を持つこともできないし、馬借で馬を借りようにも乗り方を知らないので普通の人は乗れない。

辻馬車や乗り合い馬車が出ているのは大きな街だけで、辺鄙な町に来る馬車といえば行商人の馬車ぐらいだそうだ。

運よく行商人の馬車に乗ることができても、帰りも運よく馬車が捕まるとは限らないので、日々の生活で必要なお金を得るぐらいならギルドに行くよりも役所で換金した方が手っ取り早いのだそうだ。

「この町ってお店とかないの?」

「いや、普通にあるぞ。ただ品揃えは悪いな。基本的に扱うものは日持ちするものだけだし、大体値段が高い」

「売ってる物なんて酒ぐらいじゃねえか?」

「それはてめぇが行く店だけだろうが」

ゲラゲラと笑うおじさん達に私は首を傾げる。

「この町の生産品とかはどうやって持って行くの?」

「生産品?」

「うん。綿とか絹とかやってないの?町で作った物を大きな街に売りに行ったりはしないの?」

「うーん。そういったものはしていないな。この町は基本自給自足だし、町民同士では金より物々交換が主流だからな」

「ガゼット爺さんが加工した魔石も行商人が買うぐらいで、町から出て売りに行く奴はいねえな」

「うわ、原始的」

「王都とは全然違うだろ」

「そうだね」

「うん」

私とサイラスの質問に、おじさんをはじめ、集まった人たちが次々に答えてくれる。

「なあなあ嬢ちゃん」

「ん?」

「王都ってどうな感じ?こことは全然違うんだろ?」

「そうだねー」

比較的若い青年が私に聞いてくる。

私は覚えている範囲で王都のことを話すが、如何せん、公爵家の敷地から出た記憶がないのであまり詳しくは話せない。

「ここよりも人も物もずっと多いし、何時も忙しなく動いてるって感じかな」

「へー」

そんな他愛もない話をしているうちに役所の役人がお金の用意ができたと声をかけてきた。

「赤猪の買取、金貨三十五枚です」

「さんじゅうご」

「きんかさんじゅうごまい」

いまいちその額にピンとこない私とサイラスが首を傾げながら、おじさんが手続するのを眺めた。

公爵家にいた頃は基本欲しい物は現物支給だったし、自分で買い物なんて行ったこともなかったのでこの金額がどれほどの物なのかよく分からないが、周りのおじさんたちの反応を見る限りかなりの大金なのだろう。

金額を聞いた瞬間、おじさんたちの間で沸き起こる歓喜にそんなことを考える。

「自分のお金にならないのに何でおじさんたちが喜ぶの?」

「さあ?」

まるで自分たちの事のように喜んでいるおじさん達に首を傾げていると、役人が徐に聞いてきた。

「あの、あの赤猪、どうやって仕留めたんですか?」

「あー…」

「毛皮に切り傷はないですし、肉質や牙の損傷もないのでギルドでの買取だともっと高値になったと思うので、よろしければ参考までにどうやって仕留めたのか聞いても?」

役人がおじさんに聞くと、おじさんはこちらに視線を向け話してもいいのかどうか迷ったように唸った。

「十万ボルトで感電死」

「じゅうまんぼると?」

「かんでんし?」

私の簡潔な一言に、役人も集まったおじさんも首を傾げる。

私は、私の肩に乗っているテトに声をかける。

「テト」

「キュイ?」

「集電できる?」

「キュイ!」

私が声をかけるとテトは自身の額にある三本の角の先に雷を発生させ、ビー玉ぐらいの球体にし、いつでも放電できるような体勢になる。

「んーなんか的になるものないかな…」

「実践しなくてもいいと思うよセナ」

「あ、そうなの?」

「テトが雷見せた時点でみんな腰抜かしてるから」

「そっかー。テトもういいよ。ありがとうね」

「キュイ」

サイラスの一言に私はテトが集めた雷を解くように言って、役人や腰を抜かしているおじさん達を見回した。

「こんな感じで雷でドーンと」

「雷獣は雷魔法を操ることができるので、この子の能力であの赤猪は仕留めました」

サイラスの補足説明で若干青い顔をしながら、みんな納得したようだ。

そうして私たちは金貨三十五枚を持って役所を出た。



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