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公爵令嬢と狩人と

「俺の名前は、ジギル。この町で狩人をしている」

「僕はサイラス」

「セルティナです」

「キュイ!」

「この子はテト」

よろしくねと言えば、森で出会った男性、ジギルさんは小さく頷いた。



私たちがウェーブルについて数日。

探検と称し、サイラスを連れて家の周囲を見て回り、少しずつ森に入ってみた今日この頃。

鬱蒼としている森の奥には行かないように気を付けながら、私とサイラスは家の見える範囲で森の中を探索して珍しい草木や動物を観察したりしていた。

私たちがフィオくんやエミリアに内緒で森に入っているのは、この町に来た第一の目的、聖獣カルラを探すためだ。

実家の書庫で見つけた図鑑に載っていた鮮やかな挿絵に心惹かれ、実物を見るためにこの町に引っ越してきたが、やはりこんな近場ではお目にかかれるはずもない。

そう結論付けた私たちは、少しだけ森の奥には行ってみることにしたのだが、運の悪いことに巨大な魔獣、赤猪と遭遇してしまったのだ。

突然現れた赤猪にテトが驚き、感電死させてしまった巨大な魔獣をどうするのか、サイラスと二人で悩んでいた時にテトが見つけた人間が彼だった。

フィオくんたちに自慢したいけど持ち帰ったら絶対怒られるし、てか、それ以前にこんな大きな魔獣を子供の私たちには持ち運ぶことができない。

だからと言ってここに捨て置くのは如何なものか。

不本意ではあったが奪ってしまった命。供養もせず捨て置いて化けて出られても困る。ないとは思うけど…。

そんな安易な気持ちから彼にこの魔獣を貰ってもらおうと話を持ち掛けたのだが、あっさりと断られてしまった。

貰ってはくれないけど、この魔獣を託せるところには案内してくれるそうだ。

なんていい人だ。

タダで貰えるんだったら貰ってしまえばいいのに。

おじさんの話ではこの魔獣は結構いい値で取引されるそうだ。

タダで大金が手に入るというのにそうしないとは、随分と真面目と言うか、お堅い人だなと思いながら、私は赤猪の前で何やら悩んでいるおじさんの背中を眺める。

「どうしたんですか?」

「あ、いやな…この魔獣を町までどうやって運ぼうかと思ってな」

「普通はどうやって運ぶんですか?」

「普通、赤猪を狩るのには数人必要だから、仕留めたら全員で水場とか解体できる安全な所に運んでそこで解体して必要な部位だけ持ち帰るんだが…」

サイラスの質問に答えながらおじさんは私たちを見回す。

私とサイラスは六歳児とどう見てもこの魔獣を運ぶことはできないし、テトは雷獣でもまだ子供で大きさもちょっと大きな猫ぐらいと、赤猪とは比べ物にならないくらい小さいので運ぶことは不可能。

今いる人間と魔獣ではおじさん以外で赤猪を運べる者はいないが、おじさんとて一人で赤猪を持ち上げるのは不可能、だからと言ってこの場で解体しては血の匂いに誘われて余計なものまで出て来そうなのでこの場での解体は却下。

水魔法が使えれば別なんだろうけど、あいにく私が使えるのは風と雷だけだし、サイラスもおじさんも魔法は使えない。

「んー…どうしようかね」

「そうだな。あまりここに留まっていると他の魔獣が来そうだしな…」

「んー…」

三人で悩む。

「あ、セナ」

「ん?」

「セナの風魔法でこれ、持ち上げる事ってできない?」

「あ、そうか。やってみる」

サイラスの言葉に私は自分を浮かせることができる魔法があったことを思い出す。

赤猪を持ち上げるイメージをしながら魔法を構築する。

「よっと!」

「あ!?」

「!?」

赤猪を持ち上げようと魔法を放ったところまでは良かったのだが、うまく持ち上がらなかったのでちょっと多めの魔力を放出してみたところ、今度は思った以上に魔力が強かったようで赤猪の巨体が勢いよく空へと飛び上がった。

けたたましい音を立てながら木々の枝をへし折り宙に放り出される巨体。

空中で一瞬止まり、力が抜けたように地面に戻ってこようとするのを私は慌てて風魔法で包み、そのまま空中で待機させる。

「びっくりした―」

「それはこっちの台詞だから」

「…」

私に呆れるサイラスと宙に浮く赤猪を見上げたまま開いた口が閉じないおじさん。

この魔法、自分自身で使う分には問題なく使えるのだが、自分以外に掛けるにはかなり繊細な魔力調整が必要なようだ。


「…驚いた。嬢ちゃんは魔法が使えるのか」

「多少ね」

「こいつも魔法で仕留めたのか?」

「んーううん。テトが吃驚して感電死させちゃっただけ」

恐る恐る聞いてきたおじさんに私はありのままを話す。

突然現れた赤猪を一瞬で感電死させてテトの魔力には恐れ入ったね。

まるで有名な某黄色いデンキネズミのモンスターような攻撃だった。

「テトかっこよかったよね」

「テトだけは敵にしたくないね。あんな攻撃されたら僕なんて一瞬で丸焦げだね」

「キュイ!」

褒める私と赤猪に攻撃をした瞬間を思い出して身震いするサイラスに誇らし気にテトが鳴いて答える。

その顔がドヤ顔っぽくてかわいい。

何この子。本当可愛い。

誇らしそうな顔してるところがたまらない。

ドヤ顔をきめているテトを微笑ましく見ていると、おじさんが一つ咳払いして話を戻した。

「その雷獣の子が見た目以上に過激で高い攻撃力を持ってることは分かったから、嬢ちゃんはその雷獣が町で暴れないように気を付けてくれ」

「テトはそんなことしないよ」

「念のためだ。言葉もわかるぐらい賢いのは見ていて分かったが、町に行ったらそんなこと分からない奴がちょっかいをかけてくるかもしれないだろ?その時に驚いて感電死させちゃいましたじゃ洒落にならんからな」

「そうね。テトが人殺しになっちゃ困るからね。死なない程度に火力を調整しなきゃだね」

「「……((そこじゃない))」」

おじさんとサイラスが呆れていることなど露知らず、私はテトの火力調整をどうやって行うかを考えることにした。

「…坊主、嬢ちゃんと雷獣が暴走しないようにしっかりと見張っておけ?」

「なんで僕が…って言えないんだよなぁ……仕方ないかぁ…」

ものの数分でサイラスがお目付け役であることを理解したおじさんの切実な願いにサイラスは諦めたように溜息を吐いた。



* * *


赤猪を宙に浮かべたまま森から出ると、どうやら私たちが入った場所から大分移動してしまっていたようで、別荘から大分離れた所から出た。

「私たちの家ってどっち?」

「右だな。この道が町の中で一番大きい道で、右に真っ直ぐ行くと嬢ちゃんたちの住んでる別荘が見えてくる」

「反対は?」

「街道に続いてる。町に行くにはこの道を行く」

おじさんはそう言って私たちの家の方向とは逆に伸びる道を指さした。

「やっぱり、家があるところって町から少し離れてるんだね」

「みたいだね」

「公爵様もなんで町から離れたあんな森の中に別荘なんて建てたんだろうな」

「さあ?暇だったからじゃな?」

森の端に建つ別荘、町から少し離れているので若干の不便は感じるが、人目のないところで過ごすにはよさそうな物件だ。

きっと建てたお父様も、人目のない暮らしを望んであそこに建てたんだと思うけど、一度も使っていないとなるとなんで建てたのか甚だ疑問だ。

おじさんの疑問に適当に返しながら、私たちは町へと向かった。


「おお!!赤猪か!!」

「こりゃあ大物だな!!」

「魔法使いはどっちのガキだ!?」

「おい雷獣の子供もいるじゃねえか!!」

町に入ると一瞬で私たちの周りには人だかりができた。

若い人は少ないが体格のいいおじさん達が次々とやってきて赤猪を取り囲む。

「凄いな。皮が全然傷付いてねえぞ。どうやって仕留めたんだ?」

「牙も立派だし、こりゃあ久々の高値が出るぞ」

「おいジギル!どうやったんだ!?」

「ああ!うるせえな!散った散った!!役所で説明するからそれまで黙ってろ」

集まってきた人たちをおじさんが蹴散らしながら進む、その陰に隠れる様に私たちも付いていくがそんな私たちに集まった人たちは無遠慮に声をかけてくる。

「坊主が仕留めたのか!?」

「その雷獣見せてくんねえか!?」

「「!?」」

自分よりも大きな人たちに囲まれるのって、すごく怖い。

テトも怖かったのか、私の足にくっつくように歩いている。

知らない人たちに寄って集った声を掛けられ囲まれる。幼心に恐怖心が生まれ、緊張した途端、赤猪にかけていた魔法が解けて赤猪が落下する。

「「ひえぇぇぇ!!」」

「ばっかやろう!怖がらせるんじゃねえよ!」

頭上に浮いていた赤猪が突然落ちて来たことに集まった人たちが悲鳴を上げて避ける。

周りの人たちから私とサイラスを庇うようにおじさんが声を張る。

赤猪の突然の落下に恐怖したのか、将又おじさんの一言に反省したのかしんっと静まり返った場で、おじさんは大きく息を吐いた。

「役所で説明する。それまで静かにしてくれ」

一言一言はっきりと言うおじさん。

説明は一度に。きっとどこでも同じ質問をされるのは目に見えているのでそれを避けるためにおじさんはそう言って、赤猪を再び持ち上げる様に私に小声で言った。

「嬢ちゃん大丈夫かい?」

「う、うん。だいじょーぶ…ちょっと圧にびっくりしただけ…」

「あつ?」

「なんでもない」

私は小さく首を横に振り、今度はゆっくりと赤猪を持ち上げるように魔法を構築した。



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