表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

ウェーブル、到着

途中で目線が変わります。



見渡す限り森、森、森!

人工物がほとんどなく、右を見ても左を見ても緑の森と言う、まさにド田舎。

「んー!着いたー!!ウェーブル!!」

馬車から飛び降りぐっと背筋を伸ばす。

「はー。やっと着いたね」

「サイラス見て見て!草!木!石!!」

「見ればわかるよ」

「うわ!変な虫いる!!」

「お嬢様それは魔物の一種ですから無闇に触ってはいけません!」

「あははは!!」

なんか楽しい。

もう見るもの全てが新鮮で、今ならスプーンが落ちただけでも笑えるぐらいだ。気分がいい。

「お嬢様。お部屋の用意が整うまで馬車でお待ちください」

「森行ってていい?」

「駄目です」

「川行っていい?」

「却下です」

「魔獣探していい?」

「アウトです」

私の提案をことごとく否定しながらもテキパキと荷物を下ろすエミリア。

そんなエミリアを傍目に、私はサイラスの手を取り声を張る。

「サイラス連れて探検してくるね!」

「遠くに行かないでくださいよ!!」

「サイラス!お嬢様から目を離さないように!!」

荷ほどきから手の離せないエミリアとフィオくんの忠告を背に私とサイラスはこのド田舎の町の探索を開始する。

テト?もちろん私と一緒にいるよ。

王都からウェーブルまでの旅の間に、どうやら私の使用人たちは私の扱いに慣れたようで私が一人でフラフラするよりかはサイラスと言うお目付け役を連れまわしさせ、程よく遊ばせておくことを覚えたようだ。

いい傾向で放置気味になってきている。このままのんびりとした田舎町で公爵令嬢という身分を捨て気ままな人生を送れるんじゃないのかな。そんなことを考えながら、私は新たな家の周囲を探索することにした。



* * *



ウェーブルの町の中心地から少し離れた森の中に建つ一軒の別荘。

手入れはされていたようだったが人の気配はなく、持ち主も訪れないそんな忘れられたような別荘に身なりのいい少女を中心とした一行がやってきた。

夫婦と思しき男女に清楚で動きやすい衣服の少女と執事服を纏った顔のいい青年、青年とよく似た少年と珍獣とされる雷獣の子供を連れた身なりも顔もいい少女。

彼らは何者なのか、彼らを目撃した住人の間で憶測が飛び交う。

手入れを任されていた町長に、あの別荘はどこの貴族の物かと問えばあっさりとオルフェンス公爵家の物であることを明かした。

どうも公爵が娘をこの別荘に送るという話があったらしく、あの身なりのいい少女は公爵の隠し子か庶子ではないのかという結論になった。

町に食料などを買いに来る侍女と思しい少女や執事服の青年にそれとなく尋ねてみても彼らは一切の無駄口を聞かず目的だけを果たし去って行ってしまう。

そんな口の堅い彼らを見ればなおのこと、別荘にやってきた少女は隠さなければならないような子供なのであろう。住人たちはそう思っていた。

そう思っていたのだが、この光景は一体どうしたものだろう。

この町で狩りで生計を立てていた男は目の前の光景に息を飲んだ。

「でっかいね」

「そうだね」

「どうやって持って行く?」

「持って帰る気だったの?」

「せっかく捕まえたんだし自慢したいじゃん」

「怒られるよ。それにセナ、森には行ってること兄さんたちに黙ってるんじゃなかったの?」

「あ、そうだった」

赤い毛皮の大猪、赤猪レットボアという森の魔物を前に二人の少年と少女が話をしている。

赤猪は決して弱い魔獣ではない。むしろこの辺ではかなり強い魔獣だ。齢十歳にも満たない少年少女だけでどうにかできる魔獣ではない。

彼らは何者で、なぜ赤猪の前で平然としていられるのか。男は息を殺して様子を窺っていた。

「キュイ!」

「!?」

不意に真横から甲高い鳴き声がして男は慌てて距離を取った。

先ほどまで男がいた所の傍に一頭の魔獣。そう、あの少女が連れていた雷獣がこちらを見ていた。

「…」

いつの間にそこにいた?

狩人として長くやってきたが、隣に魔獣が近付いたことに気付かなかったなどあったためしがない。

いくら赤猪と子供たちに集中していたとしても雷獣ほどの魔獣の気配に気づけないはずがない。

そう思いたいが、実際は鳴き声が聞こえるまで隣にいたことに気づけなかったのだ。

「あれテトどうしたの?」

男が雷獣と対峙していると、その間に割り込むようにあの少女がか顔を出した。

「キュー!」

「ん?あ、人間!!」

男を見て指さす少女。

「サイラス人間いた!」

「セナ。僕らも人間だから」

少女に続き、少年もこちらに来る。

「連れが煩くてすみません」

「あ、いや…」

落ち着いた声の少年は小さく頭を下げる。

冷静にこちらを観察するような態度に男はこの少年がただの少年でないことを悟る。

「ね、ね。この人にこれ持って行ってもらおうよ」

「ちゃんと交渉しないとしてもらえないよ」

「そっか。じゃあよろしく」

「…自分ではしないんだね」

「向いてない気がするから任せる」

少女はあっさりと少年にそう言うと男に興味がなくなったのか雷獣を撫で始めた。

「はぁ…本当やりたい放題なんだから…」

少年は仕方ないと言いたげに溜息を吐いて男に向き合った。

「おじさんはこの辺りで狩人をしている方であっていますか?」

「嗚呼」

「これ、いりませんか?」

「は?」

巨大な魔獣を指し示しそう言った少年の言葉に男は眉を寄せる。

この少年は今なんと言った?

「僕らにはこれは必要ないので、おじさん貰ってくれませんか?」

「え?いらない?」

もう一度言われた言葉の真意が読めない。

せっかくとった獲物をあっさりと手放すなど、この子供たちはいったい何者なのか。

「…少し質問してもいいか?」

「ええ。構いませんよ」

「これを仕留めたのは坊主、お前か?」

もともと死んでいたものを見つけたとい訳ではないと思うが、見た感じ大きな外傷、致命傷となる傷がないのが不思議でたまらない。

こうも綺麗な狩り方を男は知らない。

「いいえ」

「…赤猪はこの辺ではかなり高価な魔獣として取引される。それを知っていて手放すのか?」

赤猪は肉もそこそこ美味いし、毛皮や牙などは加工品としていい値で取引されるので、一頭でも捕れば纏まった金を得られる魔獣だ。

それゆえ狙うものは多いが、赤猪は好戦的でかなり気の荒い魔獣なので下手な狩人や素人が手を出せば逆に死ぬリスクもあるそんな魔獣だ。

「へ―…そうなんですか。それは知りませんでした」

「気が変わったか?」

「んー…セナ」

少年が少女を呼ぶ。

「何?」

「これ、結構いい値で取引されるらしいけど、あげちゃっていいのかだって?」

「へ―…そうなんだ。でもこれ持って帰れないし」

「そこだよね」

どうやらこの子供たちはこの魔獣を持ち帰れない事情があるらしく、それゆえ偶々あった男に譲ろうとしているようだ。

「ちなみになぜ、持ち帰れなのに仕留めた?」

「襲ってきたから」

「…」

少女のシンプルな答えに男は絶句した。

「いきなり突進してきたんだもん。返り討ちにされても文句なくない?ねぇ?」

「キュイ!!」

当たり前のように返した少女は同意を求める様に雷獣に振ると、雷獣も言葉を理解しているのか一声鳴く。

いきなり現れた巨大な魔獣をあっさりと倒す、この少女は何なのだ。

「……ただで貰う訳にはいかない」

「…」

「…」

二人を見ながらそう口にする。

この二人に興味が湧く。

「町で買い取りができるとこに案内をする。それでは駄目か?」

「え?なんで?」

「この魔獣の倒し方を聞かれたら答えられないから。俺はこんなに綺麗に赤猪を狩ることできない」

小さな町なので男の狩人としての腕は知られているし、男が使用している武器の傷でないことなど一目瞭然なので、持ち帰ればきっと聞かれる。どうやって仕留めたのかを。それに答えられなければ男は他人の獲物を横取りしたずるい奴と陰口を叩きかれない。

「何もしていない俺が、偶然会っただけでこんないい獲物をただで貰っていいはずがない」

「…真面目なんだね」

「適当に拾ったとでも言えばいいのにね。おじさん真面目過ぎて融通きかないタイプ?」

「なんとでも言え」

二人はそう言ってクスクスと笑った。

「いい人にあったね」

「だね」

「…お前たち、俺を試したのか?」

「ううん。あげるって言ったのは本気」

「簡単に頷くようだったらさっさと離れようと思ってただけ」

笑いながらそう言う二人に、男は少しだけ肩の力を抜いた。

「…お前たちは一体何なんだ」

「ごく普通の小娘とその友達」

「規格外の令嬢とそれに振り回されてる哀れな付き人です」

男の呟きに二人は揃って答える。



これがウェーブルで一番森と魔獣に詳しい狩人と突然やってきた公爵令嬢と彼女の従者との出会いとなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ