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いざ、ウェーブルへ

青い空。白い雲。

どこまでも続く道。

いざ行かん!ウェーブルへ!!


パカパカと走る馬車の中、私は窓から流れる風景を見つめる。


人工物ばかりだった景色も王都を囲う城壁を出れば一変し、緑と土の自然な風景に変わっていく。


王都へ向かう商人の荷馬車、遠くの村々を通りいろいろな人を乗せた乗り合い馬車。

そういったものを馬車の窓から眺めながら私はこれから行くウェーブルへ思いをはせる。



*  *  *



馬車の御者台に乗り馬を動かしているのは公爵家の庭師だったマルクス爺ちゃん。

その隣でマルクス爺ちゃんの操縦を見ているのはサイラス。

馬車の中には私と専属の侍女のエミリアさんと庭師のおじいちゃんの奥さんで私の家庭教師予定のフレデリカさん。

馬車の護衛のため一人馬に騎乗するフィオくんと馬車の屋根で優雅に昼寝をするテト。

私を除いて五人と一匹。魔獣だから一体?まあいいや。テトは小柄だし匹で数えた方が言いやすい。彼ら五人と一匹は私がウェーブルへ行くにあたって私に付けられた使用人と私のペットだ。

「…」

公爵家の令嬢なのにこんなに少ない使用人なのはなせがって?そんなの決まってるじゃないか。私が減らしたんだよ!あと二十人ぐらい付くらしかったんだけど、そんなにいらんと我が儘言いました。たくさん言って何とか五人まで減らしました。ちょ-がんばった!凄く渋られたけどね。

いや、だってね。私ド田舎にお嬢様しに行くわけじゃないし。人目の少ない田舎で思う存分モフモフライフを満喫したい訳よ私は。それなのに実家と同じような生活するわけないじゃん。

住むとこだけ用意してもらって一人で行ってもいいかなって思ったんだけど、さすがにね、腐っても公爵令嬢。一人での外出は認められませんなので、五人で妥協したのだ。これ以上の我儘は流石に無理そうだったしね。あんまり無理言ってこの話がなくなったら嫌だしね。

「そういえば、フレデリカさん」

「フレデリカでいいですよ。お嬢様」

「え、じゃあ、フレデリカ。一つ聞いてもいいかしら?」

「はい」

「フレデリカはその、王宮で家庭教師をしたこともある凄い人だって兄さまに聞いたんですが、なぜ私の家庭教師を引き受けたのですか?」

私の家庭教師は言っちゃ悪いが最悪らしいぞ。給金はいいが我儘令嬢の家庭教師だ。もう何人も辞めている。それなので今までの私は気が向いたときに兄の授業にお邪魔していたのだ。

私がウェーブルに発つ直前に彼女が家庭教師になることが決まったので急遽、彼女と旦那さんのマルクス爺ちゃんが私に付いていくことになったのだ。

「確かにわたくしは王宮にて前国王陛下の妹王女の一人に仕えていたことはありますが、今はオルフェンス公爵の侍女の一人にすぎません。旦那様の命令であればどこへでも行く所存ですので」

「そうですか」

「たとえお嬢様が嫌がろうとわたくしは付いていき、立派な公爵令嬢にして見せますので」

「…お、お手柔らかにお願いします…」

うぉ…どんな問題児だろうと教育して見せますってか、教師の鑑みたいな人だな…。

まあ、家庭教師がついてくれるんなら有難いね。自分で調べるだけじゃ出来ないこともあるし、ダンスとか宮廷作法とか習っとかないといけないことも結構あったし。

習えることはみんなやっておいて損はないだろう。

「よろしくねフレデリカ」

「はい」



* * *


王都を出て数日。

私たち一行は大きな問題も起こることなく順調にウェーブルへ向かっていた。


「ねえねえ。フィオくん。」

「なんですかお嬢様。…というか、その呼び方やめないんですね」

「言いやすい。じゃなくて、私も馬に乗ってみたい」

「淑女の乗り方でですか?」

「ううん。違う。普通の乗り方で」

淑女の乗り方って。あんな危ない乗り方あるんですね。滑り落ちそうだよあれじゃあ。

普通に跨って乗ってみたいのだが。

「駄目です」

「なぜ」

「今の服装では乗れないからです」

フィオくんの指摘に自分の服装を見下ろして唇を噛む。

クリノリンは入っていないが、今日着ているドレスはさほど足の開けるものではなかった。これでは普通の乗馬をしたら足首が見えてしまう。

私は別に平気なのだが、足首をさらすことははしたないらしく一度サイラスの前で足首を見せることがあったのだが物凄く怒られた。真っ赤な顔で。

「くっ…そうだった…初めから動きやすいの衣装で来ればよかった」

「乗馬はまたの機会で。今は馬車でゆっくりとしていてください」

微かに苦笑いを含んた声でフィオくんはそう窘める。

そんなフィオくんに私は窓枠からだれる様に顔を出して口答えする。

「ただ座ってるってつまらないのよね」

「話し相手ならフレデリカさんとエミリアがいるでしょう」

「二人とも寝てる」

「え?主人を差し置いてですか?」

「フレデリカもエミリアも慣れない旅で疲れができたみたいだったから紅茶に睡眠薬混ぜたらあっという間に寝ちゃったよ」

「何やってるんですかお嬢様…」

呆れるフィオくんに私はにまりと笑う。

「私調合の才能あるみたい」

「お嬢様がそんな物騒な才能持たないでくださいよ…」

「ははは…」

書庫で調べてやってみたくなったことは多々あるがそれを言えばきっとフィオくんは呆れるだろうから私は何も言わず笑ってごまかした。

「やっぱりそっちに行っちゃダメ?」

「駄目といいたいところですが、一人で危ない遊びをされても困りますからね…仕方ありません。一緒に乗りますか?」

「やったね」

「ちょっ!?窓から出ないでください!!」

「いいじゃん。こっちの方が早い」

窓枠に足を掛け、ふわりと馬車から出る。

風魔法の扱いに慣れて来たので自分を浮かせてふわふわと浮遊することもできるようになったのだ。

「お嬢様、それは風魔法ですか?」

「うん?そうだと思うよ。魔法ってね、こうしたいなぁーとか、こういうふうにできるといいなーって思いながらするとできるの」

「そういう物なのですか…私は魔力がないので魔法は扱えないのでよく分かりませんが、お嬢様の魔法は私が見てきたどの魔導士とも違いますね」

フィオくんの鞍の前に座った私を見ながらフィオくんは感心したように言った。

「フィオくんの見てきた魔導士ってどんな人たち?」

「剣に炎を纏わせる人もいれば、何もない空間に水の玉を出す人、じっと祈るような姿勢で周りの人の怪我を治していく人などたくさん見てきました」

フィオくん手綱を持ち直しながらどこか遠くを見るようにそう言った。

「フィオくんは騎士団にいたの?」

「そうですよ?第二騎士団に所属していましたが訳あって旦那様に拾ってもらい、こうして公爵家の執事見習いになりました」

「騎士って、魔法が使えない人でもなれるの?」

「第二騎士団のほとんどは魔法が使えませんよ。魔法も剣技もできる優秀な人は第一騎士団、魔法が得意な人は魔導士団といったように振り分けられているのです」

第一騎士団は魔法も剣技もできるエリート集団で、魔法に特化した遠距離攻撃タイプと治癒魔法が使える魔導士は魔導士団に、剣技だけで伸上れるのが第二騎士団という訳か。

「知らなかったな…」

「第三騎士団以外は遠征や訓練は一緒に行っているので、所属は分かれていてもあまり気にしてはいなのです」

「なんで第三騎士団は一緒じゃないの?」

「あそこは他の騎士団とは違ってかなり特殊な所なので一緒に訓練をすることができないのです」

「へ―…」

騎士団の内部事情を初めて知ったわ。

それにしても第三騎士団だけ爪弾きにされているみたいだけど、それでいいのかしら?

「どうしました?」

「ん?ううん。なんでもない。ちょっとだけ第三騎士団がどんなところなのかなって思っただけ」

「先ほどの説明ではそこだけ爪弾きにされているような表現でしたね。失礼しました。第三騎士団は通称竜騎士団と呼ばれていると言えばなぜだかわかりますか?」

「もしかして、飛竜がいるの??」

「正解です。第三騎士団は飛竜に乗ることができる人だけしか所属していないので人数も他の騎士団よりも圧倒的に少なく、本拠地にしているところが王都から離れているため他とは一緒に訓練することはできませんし、飛竜と人の脚では移動速度が違い過ぎて一緒に遠征ということができないので、第三騎士団は遊撃機動部隊として個々に活動しているのです」

「へ―…」

飛竜か…。いいな。

いいな。飛竜。飛竜っていう響きだけでも素晴らしい。

にまにまと笑みを深める私をフィオくんはどう思ったのか、なんとも言い難い空気が私の背後に広がったが私は気にせず、飛竜に夢を馳せるのだった。



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