~報告(エスカレーション)~
人間というものは、アイデアが思いつくとすぐにそれが素晴らしいものだと思い込む。
自身には世界を変える力があると過信し、手順すら考えぬままに行動に移す。
その習性は、僕にも当てはまるようだった。
「……あれ?これ、”変数”が使えない」
そう気づいたのは、繰り返し文について決心した日の翌日、朝だった。
繰り返し文は、特徴としてある条件を満たすか、一定の回数処理を行うことで停止する。
だが、物質の生成での停止条件など、僕には思いつかない。
繰り返し文を試しに書いてみるだけでもとてもリスクのある行動だというのに、変数宣言まで勘で書くというのは……。
出来なくはないが、全くもって動く気がしない。
まあ、繰り返し文という概念と、変数については既に紙にまとめたことだし、少女にでも相談してみることにしよう。
ベッドから体を起こし、身だしなみを整える。
長い廊下を通って少女の寝室へと向かう。
ドアを2回ノックする。
すると、力の抜けた声で「どうぞ」と聞こえる。
早く自身の発見を説明したい気持ちから、勢いよく扉を開く。
目の前にいたのは、一糸纏わぬ……わけではなかったが、下着姿の少女だった。
初めて会った時にも思ったが、やはり美しい。
純白の下着が白い肌にマッチしていて、絹のように滑らかだ。
ふと、少女の方を見ると、顔を赤く染め、怒りを露にしていた。
「貴方だったんですか!?どういうつもりですか突然、というか早く出て行ってください」
少女は大分取り乱しているようだ。
「落ち着いてください。僕はただ、設計書について報告を…….」
「い・い・か・ら、早く出て行ってください!というかむしろ死んでください!見ないでください!!!」
そういう少女の圧に押され、ドアを開く。
「本当にごめん」
そんな一言を発しながら、ドアの外に目を向けた瞬間、鬼の形相の男と目が合った。
結局、誤解は解けたが、真剣を向けられるというものは、いつだって命の危険を感じるものだ。
しかも、今回は急ごしらえの刺突剣ではなく、しっかりと暴漢撃退用の剣だった。
暴漢撃退ように真剣を持ち出すとは、野蛮すぎる。
などとも考えたが、娘の部屋から悲鳴が聞こえたとあれば、当然のことかもしれない。
騒動を起こしてしまったせいで結局話はできず、午後の時間に回すことになった。