~仲間入り(エンプロイド)~
「もう朝か」
窓の外から聞こえる鶏の鳴き声に目を覚ます。
昨晩はよく寝た。
曰く、使用人向けの”普通”のベッドらしいが、これほどまでに寝心地がいいとは。
昨日の精神・身体的疲労がすべて吹き飛んだ気がする。
むしろ、自分の置かれた状況が何一つ分からず混乱していた昨日よりも、調子が良いくらいかもしれない。
結局、図書館を出た後、少女は王族の(つまり少女の家族の)食卓に案内しようとしていたが、途中の廊下で少女の父親に睨みを効かされたこともあり、同席するのは遠慮しておいた。
その代わりに、1時間ほど後に行われた使用人たちの食事会に参加させてもらった。
突然押しかけて一番迷惑を被っているはずだったが、案外優しく受け入れてくれた。
勿論、屋敷中の使用人がそっくり食事に出る訳にはいかないので、何人かには挨拶をし損ねてしまったようだが。
少しだけ図々しいことを言うならば、この城の(使用人用のものだけかもしれないが)食事は、当たり外れが大きいように感じた。
不味いというわけではないのだが、味に刺激がほとんどない上に、量を食べても全然腹が満ちない料理があり、とても残念に思った。
逆に、海老や蟹など、海鮮を使った料理は素材の味が活きていて、とても美味しかった。
特に、蟹の殻を使ったみそ汁などは、飲むだけで転んだ時にできた(と思われる)擦過傷などの痛みを忘れられたほどだ。
こんなに美味い飯を食ったのは初めてだ。
と思った僕は、隣に座っていた女性に問いかけた。
「あの、皆さんは毎日こんなに豪華な食事を?」
「そうよ、ウチは設計書もあるし、財産的には大分裕福な家だから。まあ、その辺の町民よりはいいものを食べている自覚はあるわ」
そう答えた彼女は、実はこの中で一番偉い、侍女長らしかった。
何故それが分かったのかといえば、侍女長とは逆隣りに座っていた泥酔の青年が、
「いきなりアリアさんに話しかけるなんて凄いですねえ。アリアさん、ああ見えてもこの中で一番偉いんですよ」
と、絡んできたからなのだが。
ついでにその青年は、
「この蟹、美味しいですよね。これ、実は天然モノなんですよ」
とも言っていた。
「そうなんですか!?」と、侍女長の方を見ると、多分面倒だなという顔をしながらこう言った。
「そうね。この蟹と、あとあの辺の魚なんかは天然よ。そこの飲んだくれの”シェフ”君がもっと腕が立つなら、全部創造物でも満足できて食費も浮くのにね」
そんな毒を吐きながら、彼女は答える。
そうか、この男が城のシェフなのか。
この食事会にもありとあらゆる使用人が集まっているようだし、ここで少しでもいい印象を残せば、後々雇ってもらえる……なんてことがあるかもしれない。
そんな気持ちで過ごした食事会であったが、食材のよさか使用人達の人のよさか、とても楽しい時間を過ごすことが出来た。
そう言えば、今日は朝から呼び出されていたのだっけ。
場所は図書館といっていたことだし、終端の使い方講座の続きでもやるのかな。
そんなことを考えながら、部屋を出た。