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~初心者入門(チュートリアル)~

小説初投稿です。

拙い文章ですが、ぜひ批評していただきたいです。

「うう……なんだ……?」

段々と濃くなる意識の中、視界に飛び込む中世の街に、僕はただ、呆然とするしかなかった。

先に見える広場では出店の類が並んでいる。

雲が抜け、直角に差し込んだ日差しに、目を細めた瞬間——―

「あの、こんにちは?です……」

金髪の彼女は、顔を覗き込んでそう言った。

心なしか心配そうなその声は、しかし彼女だけではないらしく、僕の周りには小さな人だかりができてしまっていた。

活気あふれる通りに、一瞬の静寂と、騒めきを引き連れてきたのは、僕なのだと気がつく。

恥ずかしさがこみあげてきて、体温が上がるのが分かる。

頼むから集まってこないでくれ。

そんな気持ちで顔を上げる。

僕をのぞき込んでいた少女は、透き通るような肌に、ふわりとした金髪で、その可憐さに、思わず見とれてしまった。

「大丈夫ですか?」

そう投げかけられた問いに、宙に浮いていたような意識が戻ってくる。

「うわっ。すみません。僕……あれ?ここは?」

中世……中世だと思ったのか?僕は。

今いる場所が、自分の記憶にあるものとは大きくかけ離れているかのような違和感に気が付く。

石畳の街、走る馬車、商店街の喧騒。

それらが僕の”知らない”ものであることに、驚きを隠せなかった。

何も覚えていない。

その確信はあるにも関わらず、ここが自分の居場所ではないという感覚が備わっているのだ。

「あのっ、大丈夫ですか?」

再び問いかけられたことで、やっと会話へと意識が向く。

「ああ、すみません。ところで、ここはどこですか?」

今の僕には、そう問いかけるのがやっとだった。

実のところを言うと、意識を失う以前の記憶が、はっきりとしないのだ。

それも、直近どころか、生まれてから今までの記憶が。

「どこって、ここは国の中心街、実行所(エクスキュート)ですよ?もしかして、山かどこかから攫われてでも来たんですか?」

彼女は冗談交じりにそう尋ねたが、それが冗談では済まないかもしれない。というところが、笑えない。

「あはは、そうなのかもしれませんね。ちょっと暑さにやられちゃったみたいで、あんまり頭が回っていないんですよ」

失礼のないようにと気を配りながら、差し伸べられた手を掴む。

立ち上がったところで、これからの当てもないが、このまま呆けているわけにもいかないだろう。

それに、このままじりじりと照り付ける日光を浴びていれば、また気を失ってしまうかもしれない。

「僕、今までここで何をしていたか覚えていないんですよ。誰かさきほどまで僕が何をしていたかわかる方はいませんが?」

そう、周りの人だかりに向かって問いかける。

この街が僕の住んでいた場所ではないにせよ、現に今ここに立っているということは、先ほどまで何かをしていた筈なのだ。

「さあ。私はちょうどいま、倒れていることに気が付きましたので……」

目の前の少女は言う。

喧騒からも、「さあねぇ……」「そういやぁ倒れたところは見てないなぁ……」といった声が聞こえる。

「まあ、そんな事を気にしていても仕方ないですね。お家が分からないというのなら、おまわりさんに聞きに行けばいいんですよ」

そう言って少女は手を引く。

おまわりさんって、子供じゃああるまいし……。

などと思いながら彼女について行く。

交番という概念に、違和感を覚えなかったことにすら気が付かずに。

「そういえば、今日はどうしてあそこに?」

黙々と歩くことが嫌で、少女に話しかける。

「この通りを通るのに、大きな理由はいらないと思うんですが……。まあいいですね。設計書(スフェシフィック)を買いに来たんですよ」

「設計書?」

訊いたことのない言葉だ。

彼女の口ぶりからすると、当たり前に普及している物らしいが。

「あなた本当に何にも覚えていなんですか?設計書はすべてのモノの型組。あれが無ければ、私たちは野菜の一つだって作ることはできないんですよ?」

設計書とやらがあれば野菜が作れるのか。

まくしたてられるも、その程度の感想しか湧いてこない。

よく意味が分からなかったが、きっととてもすごいものなのだろう。

……僕は野菜は土から生えてくるものだとばかりに思っていたが。

そうこうしているうちに一人の男性が前に立つ建物へとたどり着いた。

創造していた何倍もの屈強な男性が立っていたことに少し震えつつ、尋ねる。

「ここが、交番……ですか?」

「そうですよ。ささ、おまわりさんに聞いてみましょうよ」

少し躊躇うが、そう促されるままに男性に話しかける。

「あの、こんにちは。僕、自分の家が分からないみたいで……。なにか手掛かりはありませんかね?」

簡潔に説明しようとして、訳の分からないことを言ってしまった気がする。

“おまわりさん”にも、とても怪訝そうな顔をされた。

当たり前だろう。いきなり記憶消失の男が目の前に現れたら、僕だってそうなる。

結局、僕が来ていた服が、この国のモノではなかったらしいこともあり、交番の住所録から自分の家が見つかることはなかった。

申し訳なさそうな顔をしたおまわりさんは大分優しくて、人は見た目じゃないんだななどと考える。

扉を開き道に出るも、この先行く場所があるわけでもない。

「どうしたもんかな……」

憂鬱な気分が広がる。

そもそも、憂鬱などとと考えている僕も、ずいぶん気楽なものだ。

今日明日の寝床すら定かではないというのに。

そんなことを考えながら、ただ茫然と街を眺めていると、彼女が唐突に声を上げる。

「そうですよ。記憶が戻るまで、私の家に住めばいいんですよ」

思いついたように、彼女はそう言った。

なんともぶっ飛んだ話だ。少なくとも年頃の女性がしていい発想ではない。

だが、彼女は、これは名案だとばかりに顔を輝かせている。

「その、いや、とても魅力的な提案なのだけれど、それはちょっとマズいんじゃないかな?」

彼女の立場的にも、貞操的にも。

「大丈夫ですよ。家、広いですから」

そんな的外れな回答によって、僕の気遣いは無駄なものになってしまった。

その後も説得を試みたが、結局本日の宿泊場所は彼女の家に決まってしまったのだった。


彼女の家に向かっている間に、いくらかこの街のことについて聞くことができた。

彼女によると、この街は、国で一番活気のある町なんだそうな。

さっきの通りの喧騒も、それを象徴しているのだと。

なんでも、神の贈り物・終端(ターミナル)が設置されているお陰なんだとか。

終端という名がついているのは、かつて神が最期に降り立った場所がこの街だからだという。

「それで、終端って何なのですか?」

彼女の口から繰り返し零れる単語に、疑問を覚えた。

何かしらの建造物だということは理解したが、全くもってイメージができない。

「終端っていうのはですね。野菜とか、剣とか、家とかを造る場所ですよ」

僕の理解を平然と超えていく世界の仕組みは、いまだに僕を放してはくれないようだった。

この国では、野菜や、剣や、家なんかは、終端(ターミナル)と呼ばれる装置によって造られているらしい。

もちろん、土に植えた種は立派に成長するし、石を研げば刃物にはなるらしい。

しかし、この国では、ほとんどのモノを終端によって造るのが当たり前なんだそうだ。

「その、ターミナルっていうのは、どうやって使うんですか?」

その、終端と呼ばれる製造施設に興味が湧く。

素人の僕でも触れるようなものなのであれば、ぜひ使ってみたい。

「やっぱり、本当に何も知らないんですね」

そんな好奇心に踊る僕とは対照的に、彼女はあきれ顔でそう言う。

「基本的には、設計書を読み込むんですよ。まあ、そのためには設計書を書かなければいけないんですけど……」

「その設計書っていうのはどうやって書くんだい?」

書式(フォーマット)にそって、必要な要素(パラメータ) を書き込んでいくんですよ。生産なら、創造(クリエイト)、新しくものを発明するなら定義(デファイン)の設計書に書き込むといいんですよ。」

なるほど分からん。

聞いたことがあるような、ないような、頭が理解を拒否するような単語がつらつらと羅列される。

まあ今度……がいつになるのかは分からないが、実際にその終端とやらを使っているところを見れば、わかるのかもしれない。

そんなことを思っていると、目の前には大きな壁が広がっていた。

「ここは?」

彼女が向かっていた場所がこの城壁なのかと疑問を抱きつつ、そう問う。

目の前の大きな壁には、それに見合った大きな扉があり、甲冑を着た2人の衛兵がそれを守るように立っていた。

「ここが、私の家ですよ。お家が見つかるまでは、あなたも」

当然のように応えた彼女は、当たり前のように近衛兵に話しかける。

まさか、こんな大きな城が彼女の家だったとは。

……ということは、この少女も、いわゆる”お姫様”というやつなのではないのか?

関わってはいけない人に助けられてしまったのではないか。

そんな不安に駆られながら後を追う。

少女に耳打ちされ門を開けた衛兵に、会釈をしながら門を抜ける。

「姫様はまた奇特な拾い物を……」

といった衛兵たちの陰口は、彼女には聞こえていないらしく、機嫌がよさそうなまま城の中へと入っていく。

その時、城の玄関扉が開き、初老の男性が姿を現した。

「おお、やっと帰ってきたか。私は心配で心配で……」

そう言いながら少女を抱擁したところを見るに、あの男性は少女の父親か何かだろう。

当の少女は、「大丈夫って言ったじゃないですか」「離してください。お父様」などといいながらもがいていた。

「ところで、私は今日娘にお使いを頼んだ。が、使用人の買い付けなど頼んだ覚えはないのだがな」

少し厳しい顔つきになりながらそう言い、男はこちらを睨む。

先ほど少女に向けていたものとは打って変わった、冷たい視線だった。

「そこの男、まさか娘を誑かしたのではあるまいな。事と次第によっては、ここで切り捨てるぞ」

そう言いながら男は、懐からある紙を取りだす。

その紙は、彼女が購入した設計書とやらによく似ていた。

彼はそのまま、紙を左手にある装置のようなものに押し入れた。

紙が消失すると同時に、彼の手の中には細く長い刺突剣(レイピア)が握られていた。

突然目前で行われた創造に、命の危機を感じる。

「ああいや、その、僕は……」

そんなひ弱な声を出している間にも、男性は僕に近づいてくる。

そして、彼は僕の顔に、その剣先を突き付けた。

腰が引ける。

怖い。

と、言うかもう手遅れだろう。

きっとどのように言い逃れをしても、いや、逃れる事すらできないだろう。

やっぱり、記憶喪失の男になど、世界は優しくないのだ。

ああ、終わった。嫌な予感にはおとなしく従っておければよかった。

「娘を誑かす害虫は、この私が赦さん」

そう言って剣を構えたその時―――

「お父様、止めてください!」

そう言って少女が、男に後ろから抱き着いた。

「だが、お前はこの男に……」

「お父様が想像しているようなことは一切ありませんよ!それに、彼は家がないそうで」

「家がない!?そのような身分の男が」

「最後まで話を聞いてください。彼が街で倒れているところを、わ・た・し・が助けたんですよ?」

一度は怒りを強めた男であったが、少女の剣幕に押されてか少し冷静さを取り戻したようだ。

「本当……なのか?お前は、この男に誑かされたわけではないのだな?」

「さっきからそう言っていますよね。話も聞かず剣を抜くだなんて。お父様は最低です」

娘から放たれた最低という言葉に、男は落ち込んだ様子を見せる

娘からの言葉に相当応えたのだろう。彼はとても落ち込んだ様子だ。

「……本日は、僭越ながら、御令嬢の行為に甘え、一晩泊めていただきたく、ここへ参りました」

なるべくはっきりと、ただ、震えた声でそう告げる。

すると、少女の父親は、まだ何かぶつぶつ言ってはいたが、城の奥へと歩いて行った。

追いかける少女の後を追い、玄関をくぐって廊下を歩く。

黄色い石造りの城に敷かれた、赤い絨毯がいいコントラストになっていて、とても美しい。

城のような家といい、剣を持っているところといい、彼女はもしかしたら貴族、いや、王族の――――――

やめよう。

そんなことを考えたところで、今更泊まるのを辞退するわけにもいかないのだから。

ただ、成り行きとはいえ泊めてもらえることになったのだ。

働かざるもの食うべからずというように、提供されるのが宿だったとしても、何かしらの働きはするべきだろう。

「あの、お父様……」

睨まれた。

これは失言だった。

「私はお前の父などではない」とかなんとか言って、また切りかかられるかもしれない。

「間違えまてしまいました。すみません」

消え入るような声で、訂正する。

自分もなかなかに図太くなったなと思う。

きっと先ほどから連続で襲ってくる驚きに、何かが吹っ切れてしまったのかもしれない。

多分悪い方にしか作用しないと思うが。

バツの悪い気持になりながら、廊下を歩く。

「あの……」

数分程間をあけてからそう声を開ける。

「何か?」

怒り気味に返された。

やはりまだ、先ほどの件を怒っているのだろう。

娘が突然連れてきた浮浪者だしな。

仕方がないといえば仕方がないのだろう。

ただ、この関係を改善するためにも、提案はせねばなるまい。

「やはり宿をお借りするのですし、なにか雑務など、お手伝いさせていただけることはありませんでしょうか」

まあ、これでイメージ回復にでもなればな……という希望的観測を胸に、本題へ移る。

意気込みは伝わったようだが、やれやれといった顔で男性は答える。

「ほう、これは殊勝な心掛けだな。だが君、聞くところによると、終端に関する知識が、全くないらしいではないか。まあ、我々王族以外で、技術を持っているのは、専門職の者ぐらいではあるが……」

ほう、やっぱり彼らは王族らしい。

そしてあのお嬢様、他人に「知らないんですか?」などと煽ってきた割に、一般常識でもなんでもなかったみたいだ。

隣を歩く少女に少し呆れる。

そして、少女と目が合った瞬間、交番を出たときにしたようなキラキラとした目で、彼女はいった。

「じゃあお父様、彼にも設計書の使い方を教えて差し上げましょうよ。想像もしなかったような才能を持っているかもしれませんよ?」

結論から言って、その一言は的中することとなった。


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