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最終回
単独行動をしている時、怒声が聞こえたので俺は怒声とは反対の方向に早歩きで逃げることにした。もし、俺が本当に小説の主人公になっていたのなら逃げずに怒声に向かっていったのかもしれない。
橙色のランプだけが暗い部屋をほんの少し色付け、鉛筆の芯が擦れる音と男の定期的なため息が窓を打つ大雨とともに彼にとってのBGMとなっていた。
「だが俺は主人公になることは出来なかった。それどころか他の本来成功する未来の主人公のストーリーを狂わせて楽しむようになっていた。もはやこの小説に書き始めの頃の可愛さは なくなってしまった。今ではただ俺の願望と妬みが殴り書きされているだけの駄作になってしまっている。 」
彼は鉛筆を右手から転がし原稿用紙を何度も何度も無言で破った。そしてボイスレコーダーの録音ボタンを押した。発する声は年齢とは裏腹に嗄れて今にも途切れてしまいそうであった。
「私は小説の主人公になることは出来なかったようだ。私の物書きとしての人生はなんだったのだろうな。」
彼は再度ボイスレコーダーのボタンを押した。
後日、役所の年間の死亡者のカウントが一つ増えていた。
ここまで読んでくださった読者の皆様
心より感謝申し上げます
本当に本当にありがとうございました。




