まさかのミステリーゲームの世界でした
「嫌よ、こんなところで一晩明かすなんて、冗談じゃないわ。私は、部屋へ戻…。」
電波が入らず、何の役にも立たないスマホを床に叩きつけ、山荘にいるメンバーを睨みつけヒステリックに叫んだ途端、デジャブを感じ、眩暈を起こした。
あれ?このシーン、知ってる…。
ランダムに流れてきたのは、ゲームの画面。
転がる死体。
泣き叫ぶ人々。
嵐の中の山荘。
その画面は男子高校生が主人公の、ミステリーゲーム。
確か題名は…。
「僕たちの長い夜」
主人公は進学校のミステリークラブの一員。
部活で、日本各地の伝承的な話を研究している。
数ヶ月に一回の割合で合宿と称して現地に赴いているのだが、お約束として、その先で殺人事件が起こり、それを解き明かすゲームだ。
主人公がとる行動により、犯人役が変更したり、全滅したりしていた。
ミステリー自体は全て書き尽くされた話のようだが、ラノベチックな演出として、その名も桃色パートというものがあり、仲間の女の子たちの入浴シーンや、寝起きシーンなど、サービスシーンが多く取り入れられていた。
お目当の女の子の好感度をマックスにすれば、一緒に朝を迎えられるらしい。
殺人犯がいる場所でお前ら何やってるんだと当時の私は思ったが。
確か、第1章は、嵐の山荘。
町へ降りる為の道は、土砂崩れで塞がれ、帰れない。
先程、山荘の近くに雷が落ち、停電した。
嵐が止むまで復旧の目処は立たない。
勿論、スマホも使えない。
そして、極め付けのお約束。
停電前に見ていた報道ニュースで、連続殺人犯がこの山荘の近くで、目撃…。
そう、ここが今まさにその状況だった。
孤立された場所で起こるミステリー。
何度も使い回された設定だが、未だに需要はあるらしい。
誰がみても危険なのに、1人になりたがるなんて、狙ってくれと言わんばかりの、死亡フラグをガンガン立てる最初の被害者。
…私、だよね?これ。
このままだと、死んじゃう役…。
周りを見渡し、鏡で自分の顔を確認する。
…気が強そうな顔をしているのに、今は不安で瞳が揺れている、ツインテールの女の子が写っていた。
うん、最初の被害者だ。間違いない。
翌朝、鍵のかかった部屋で死体で発見される子だ…。
殺人犯がいるかもしれないのに、1人になりたがるなんてバカだなぁと思ってたけど、よもや自分だとは…。
どうせ転生するなら、乙女ゲームの世界が良かったよ。
何故にミステリーゲームの第一被害者…解せぬ。
と言うか、冗談じゃない!
私は、生き残る!!
じっちゃんの名にかけ…げふん、げふん。
「ミサちゃん、部屋で1人なんて危ないよ。心配だよ。」
鏡を見ながら、生き残る決心をしたところで、主人公の探偵役の子が話しかけてきた。
よし、私の命は君の推理にかかっているのだよ。
だから…。
「取り乱して、ごめんなさい。でも、怖いの。お願い、心配なら、ミサと一緒にいて?」
私の肩に置かれた主人公の手をぎゅっと両手で握りしめ、潤んだ瞳で上目遣いに見つめてやった。
主人公のハーレム要員じゃないけど、物語開始直後にすぐ死んじゃう系けど、むしろ私きっかけで物語はじまるけど。
私もあざとい系の美少女なのだ。
あざとい系ツインテール美少女が頼めば、主役と言えども世の男子高校生なら、嫌と言えまい。
「うん、わかった。ミサちゃんは僕が守るよ。だから…2人で、2人っきりで朝まで一緒に過ごそうね。」
期待通り、簡単に頷いてくれた。
若干、鼻息が荒くなったのが気になるけど。
でもこれで、朝まで私の死亡フラグは無くなった!
その先も、君にひっついて、生き残ってみせるよ!!
そう浮かれていた私はこの後、最終章まで、1人でラッキースケベ桃色パートを担当。
それどころか、好感度マックスコースになるなんて、知らなかった。