八 救難信号受信
それは、ブラウン・ベアーズが任務遂行中の時だった。
「艦長、不鮮明ですが音波を受信しています」
主任通信士の言葉だった。
「何の音波かわかるか?」
艦長の問いに通信士が耳を凝らす。
「……S…………S」
よく聞き取れない。
そして通信画面を注視した。
聞き取った音声を自動変換して通信画面に表示する仕組みになっているためである。
「……S、……O、…S! SOS! 救難信号です!」
この宙域は以前宇宙海賊が出た注意宙域である。
その声を聞いて、艦長はすぐさま指示を出す。
「通信士、信号発信場所を特定しろ。航宙士、その宙域への進路計算。他の者は救助に当たる準備をしろ!」
宇宙海賊の出現かと一瞬ざわりとしたが、すぐにクルーは命令を実行に移す。
さすが実習船に選ばれるだけのことはある、速攻指示に従う船の乗組員達だった。
「救難信号受信、本艦はただちに救助に向かう。繰り返す。救難信号受信、本艦はただちに救助に向かう」
艦長の放送の声に、任務外のクルーも任務に当たるべくそれぞれの部屋を出てゆく。
プランキッシュ・ゲリラ、ライトニング・ブルーの面々は、それぞれ割り当てられた部屋で顔を上げる。
が、手伝いには出なかった。
「足手まといの俺たちが行ってもねぇ」
下手をすればお荷物だ。それならば、はじめから手を出さなければいい。そんな考えだった。
救出部隊のクルーは息をのむ速さで事に当たっていた。
「おい、実習中のお客さんはどうした?」
「出てこないみたいですよ」
「……いい判断だ。さすがだな」
乗組員たちの間では、こんな会話がなされていた。
彼らの判断は正解だったらしい。
救難信号を光学信号でも読み取れる距離まで近づき、救助活動は本格化した。
「妊婦が二人いるって言ってきていますが、どうしましょう」
「もちろん救助だ。すぐに対応できるよう、医療スタッフに連絡しろ」
艦長が指示を出した。
船医が救助の準備をする。
救命ポッドが船に近づいてくる。
宇宙服を着こんだ船員たちが救命ポッドを固定し収容ドックへ引き入れる。
二艇の救命ポッド。
もう一艇の救命ポッドを誘導し、航宙艦に固定して、艦内に救助者を保護したとき、悲劇は起こった。
妊婦の腹から出てきたのは、大きなお腹ではなく……銃火器だった。
「静かにしてもらおうか。この船は占拠した」
――悪夢の始まりだった。