四 一難去ってまた一難
ジーン・アルファイド。
現在十八歳。
連邦航宙士中央養成学校三回生後期課程在籍。
航宙士課程、火器管制課程専攻。
チーム、プランキッシュ・ゲリラ所属。
歩くグレネード(手榴弾)の異名を持つ。
そして、不本意ながら、アカデミーで一番ついてない男パート2と噂される。
この男、ついている時はとことんついているが、悪い時はとことんついてない、両極端の噂通りの男である。
――その男にまた厄災が降りかかった。
「キャー、痴漢よ、痴漢!」
そんな声がすぐ近くから上がった。
その声に、本を読んでいたジーンは顔を上げた。
今日は外出許可を取って、一般居住区のモールにある書店へ来ていたのである。
叫んだ女子生徒が指さしていた男は――
自分だった。
何故に? と思う間もなく、自分は痴漢の犯人に仕立て上げられていた。
「ち、ちょっと!」
そういうジーンだったが……。
「君、話を聞こうか」
こういう場合、男の立場は弱いものである。
問答無用で警備員室に連れていかれた。
「なんで俺が痴漢犯なんですか」
「それは彼女の申告と、その方向にいた男性は君だけだったからだよ」
「安易すぎませんか? 俺は両手で抱えないと読めない書籍読んでたんですが」
「そう言っても、最有力容疑者が君なんだ?」
「そんな理由だけで、俺は拘束されたんですか?」
ジーンは納得がいかない。自分は無実だからだ。
自分はやっていない!
「距離だって一メートル以上離れていたんですよ。どう解釈すればそうなるんですか」
「逮捕時は確かにそうだったが、犯行時は近くにいた可能性もある」
「何ですか、それは。無茶苦茶じゃないですか!」
ジーンは頭を抱えた。
これでは前の事件の二の舞だ。
そう感じたジーンは、腐れ縁の仲間に救助を求めた。
「――助けてくれ、また事件に巻き込まれた」
話を聞いたグレイスは脱力感に襲われていた。
「何であいつはこうも……」
言葉が続かない。
「あいつが痴漢常習者だったら、グレイス、お前がまず襲われているよな」
「後が怖いけれどね」
プランキッシュ・ゲリラの面々は言葉を続ける。
「彼が、痴漢? ありえない。どこをどうすればそうなるの?」
「まあ、一般常識からすると、彼も一応男性なわけで。そういう衝動もあることは否定できない、でしょ?」
「ジーンの場合ありえない」
「俺達には『ありえない』が常識なんだが、他のメンツからすればそうではないということ」
「……で、どうするよ」
「助けないわけにはいかないでしょ。仲間よ」
「だよなぁ」
プランキッシュ・ゲリラの面々はジーンの無実を証明するため、またもや走り回る羽目になった。
「なんであいつはこうも事件に巻き込まれるの?」
「それは、勿論『アカデミーで一番ついてない男パート2』だからだろ」
「それで納得したくないんだけど」
「事実だろ?」
「無事解放されたら一発蹴り入れてもいい?」
「だれも止めないよ」
今回もカイルが書店にある防犯カメラの映像をすべて借り受けて検証している。
「被害を受けた彼女と距離があるのは事実」
ジーンを除くプランキッシュ・ゲリラの面々の目は映像に注がれる。
「ジーンの証言通り、距離は一メートル以上あるぜ。どうやって彼女に触る。無理だろ」
モニターを見て、グレイスが指示を出す。
「彼女が騒ぎ出す前の画像を出して」
タイムラインから、フレッドが映像として出した。
「直前、彼女は別の本を取ろうとしてジーン側に寄ったのね。そのとき彼女の後ろを通った男がいるわね。こいつが真犯人?」
「可能性は高いな」
するりと男は被害者の彼女とすれ違って現場から姿を消した。
その画像を、前回と同じように3D画面に起こす。
彼女の背後にいる男が邪魔をして彼女に近づくことは出来ない。
どう考えてもジーンの犯行は無理だ。
「これ、証拠として提出する?」
「もちろん」
グレイスはさっそく書店の治安責任者に画像を提出した。
ジーンはこのおかげで無罪放免で釈放された。
痴漢にあった被害者というと……。
「ごめんなさい」
頭を下げて謝ってきた。
これでは苦情を言うわけにもいかず……。
「気にしないで、こういうことはよくあることだから」
よくあることなのか? と思うプランキッシュ・ゲリラの面々を無視して会話は続く。
「君、可愛いから、狙われやすいんだろう。……護身術でも習った方がいいかもね」
「はい、そうします。今日は本当に申し訳ありませんでした」
彼女が頭を下げてきた。ジーンは片手を上げてその場を去った。
――二年後、護身術の大会で入賞するとも知らずに。
これでジーンはチームメイトに頭が上がらなくなる。
これにより『アカデミーで一番ついてない男パート2』がより定着することになった。
なお、余談であるが、ジーンはグレイスからしっかりと鳩尾に蹴りを入れられたらしい。