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三 真実は何処へ

 警察から解放されたジーンは、グレイスと弁護士のファイドとともに、アカデミーの情報解析室に赴いた。

 そこで、ジーンは、残りのチームメイト三人に、熱烈な歓迎? を受けた。

「よう、災難だったな、警察の椅子の座り心地はどうだった?」

「茶化すなよ、くたびれてんだから」

 頭と肩、それに腰と、ポンポンポンと挨拶を受ける。

「まあ。今日が土曜でよかったな、日曜だったら動きの取りようがなくて、目も当てられなかったぜ。ほら、お前の無実証明、手伝ってやる。当時のこと、思い出せ」

「そうそう、私の首も懸かってるんだから、ちゃんと思い出してよね」

「お前の首? どういうことだ?」

「成り行き上、あなたの無罪に私の首を賭けた。だから何としてでも無罪放免にするわよ」

「おい、グレイス、お前……」

 二人が言い合っている時、ファイドが隣から口を挟んだ。

「でも、いいタイミングで相手を怒らせてくれたわね。あれで警察がどの程度のことを把握しているのか大体目星はついたし……わざとだった?」

「当然」

 それを聞いて、周りの連中は「怖え」と思った。

「さて、当時のことを思い出してみろ」

 そう言われて、ジーンはその時のことを思い出した。


 ――内容はこうだった。

 久々の外出許可で、街を散策していた。

 早めに昼食をとり、緑の光を浴びていると、大勢の人がある方向へ移動するのが目に入った。

 興味本位でその列についていくと、広場に出た。

 なにかイベントがあるらしい。

 ぼへっと様子を見ていたところ、後ろから来た男と体が当たった。

 黒いコートを着た茶髪の男だった。

 その男がぶつかった衝撃で薬包を落としたが、男は気付いていなかった。

 ジーンが薬包を拾ったところ、警察に囲まれ逮捕された。

 ……こんな内容だった。


「端折らずに、細かく情報を言え。逮捕の時、警察は何か言わなかったか?」

 そう言われ眉を顰めるジーン。

「うーんっと……確か、十三時五分、現認、逮捕。そう言った」

「十三時五分だな、よし、その時間にタイムスタンプのエンドを合わせて……」

 フレッドたちの作業が続く。

「お前は、その格好で行ったんだな、よし」

 ジーンが映っている映像を探してゆく。

 しばらくすると、八十二ある映像のうち、十一の映像にジーンが映っているのが分かった。

 目が疲れたのか、眉間をほぐしながらフレッドが言った。

「……だめだこりゃ。ぶつかってきた男とジーンが一緒に映った映像があるが、男が薬包を落としてジーンがその薬包を拾ったと証明できる映像がないぞ。他はジーンの後ろ姿だけだったり、拾い上げる手だけの映像とか、部分部分の映像だけだ。どうする?」

 ファイドはふーんと聞いている。

 警察が強気になるはずである。

 そこで、グレイスが提案した。

「それらの映像を合成して、3D映像にできない?」

「それやったら、映像に手を加えたとのことで証拠能力なくならないか?」

 その言葉に、グレイスはこう答えた。

「映像に手を加えたのではなく、証拠映像から新たな映像を起こした。この場合証拠能力に支障はない」

 現在進行形の弁護士、ファイドも頷いてグレイスの言葉を肯定した。

「分かった。こりゃ面倒で長い作業になるな。お前たちは仮眠でも取っていてくれ。……どれどれ、やってみますか」

 指をパキパキ鳴らしながら、フレッドとウォンはモニター画面を睨む。

二人の無言の作業が続く。

カタカタカタカタ

キーボードをたたく音が部屋に響いていた。


 ――東の空がうっすらと明るくなった時、キーボードを叩く操作音が止まった。

「出来たぜ」

 その声で仮眠を取っていた四人は起き上がる。

六人の目が、再現された3D映像を捉えた。

 確かにジーンの後ろから来た男が肩をぶつけて薬包を落とし、その薬包をジーンが拾った、そのシーンが映し出されていた。

「なによ、しっかり映っているじゃないの。州警察はいったい何をしているの? 映像の解析も満足にできない連中なわけ? これからすると……完全に誤認逮捕じゃないの。……これで、あの嫌味なオヤジに一発食らわせられるわね。これ、州警察に提出するわ。元になった他の十一の映像ももらえるかしら」

フレッドは出来上がった映像と元データを、弁護士のファイドに渡した。

「こいつの無実、証明してください」

「わかった、任せておいて。ここからは私の仕事よ。……ところでミス・九条、あの刑事の警察バッジどうする?」

「今度同じようなことがあったら、内部査察部に通告するって脅しておいて下さい。」

「分かったわ! 行ってくる」

 そう言って、ファイド弁護士は颯爽とアカデミーを後にし、州警察へと向かった。


「でもこのくらいのこと、警察がやろうと思えば俺らより簡単に出来る筈だぜ。映像の担当部署だってあるだろうし。それに警察権ある訳だから、映像も俺達よりも楽に入手できたはずだろ? なんでやらない?」

 その言葉にグレイスが言った。

「州警察の映像には詳細は映っていなかった。警察で設置したカメラによほど自信があった。無罪はないと見込んで強制的に逮捕したのね。この件はジーンを容疑者にして事件解決。特別行政府への介入の今後の足掛かりになる。それ狙ったんでしょ。ジーンはいいカモだったってわけ」

 ジーンががっくりと肩を落とした。

「……他にも冤罪者がいないことを祈るぜ」

 州警察はファイド女史から決定的な証拠を突き付けられたため、物的証拠しかなかったこともあり、ジーンを無罪放免開放することとなった。

 ノーマン刑事はグレイスの言葉で、首の皮が何とかつながったようである。

 特別行政府に対し、もっと反感を持ったようだが……。


 蛇足だが、警察にも良識派がおり、ジーンの証言の裏付けを取ろうとしていた者もいた。

 が、後手に回ってしまい、真実を明らかにする前にファイド女史に証拠データを突き付けられたらしい。


 こうしてこの一件は終息し、ジーンは「アカデミーで一番ついてない男パート2」として存在することとなる。



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