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二 四人は走る、ジーンのために

 プランキッシュ・ゲリラの面々は、すぐさま外出許可を申請し、自由に動けるよう状態を作り、各々が出来ることを探し、ジーンのために走り回っていた。

 

 グレイスは弁護士の元へ――

 ジーンを保釈させるため、知人の弁護士に掛け合っていた。

 グレイスは法務課程生であるが、まだ学生の身分のため、司法試験には合格しているが、弁護士活動は出来ない。

 が、連邦法曹界にはすでに実力がじわじわと知れ渡っていて、顔が広い。

(一回生の時、連邦大学の名教授を胃潰瘍で入院させたことが大きな要因らしい)

 アカデミー卒業生の中から、主に冤罪事件を担当している弁護士を探し出し、承諾を得てジーンの弁護を引き受けてもらったのはさすがだった。


 カイルは販売店の元へ――

 事件の現場となった広場に面した各店舗は防犯用にカメラを設置している。

 警察に連行された頃合いのデータをもらいに店舗を一軒一軒回り、頭を下げ、防犯カメラのデータのコピーを確保していった。

 販売店に協力を仰いだのは、理由がある。州警察が強気でいるのは、州警察が設置している防犯用カメラにはその時の映像が記録されていない、記録されていてもジーンの主張が通らない内容、その可能性が高いと思われたためである。

 販売店の映像には、何か記録されているはず。

 カイルは膨大な量のデータコピーを確保し、アカデミーに持ち帰った。


 ウォンとフレッドは情報解析室へ――

 二人は、アカデミー内にある情報解析室を文字通り占拠した。

 カイルから持ち込まれた膨大な量のデータを解析し、必要データを確保するためである。

 これは、科学技術・技術管理課程の二人に任された。

 一つ一つデータを見ては、次へ進んでゆく。

 根気のいる作業だった。


「ジーン・アルファイド君、返してもらえるかしら?」

 この件に関し、グレイスから案件を持ち込まれ担当弁護士になったサクラ・ファイド女史が州警察に赴き言った。

 もちろん、グレイスも同行していた。

 その頃、ジーンの尋問はいったん休止し、刑事達は取調室を離れていた。

「なんだ? ねーちゃん、寝言は他所で言ってくれ」

 そのセリフを言ったのは、今回の担当刑事であるノーマン刑事。

 これを聞いて、ピキッときたのはファイド女史だった。

「ねーちゃん? 相手を言ってみていただけるかしら。私は主に連邦関係で冤罪事件の弁護を請け負って扱っているファイドと申します。今回の担当弁護士ですわ。彼を開放していただけるかしら?」

 それを聞いて、ノーマン刑事はこうのたまった。

「ねーちゃんじゃなくて弁護士さんか。こりゃ失礼。おばさんと言うべきだったな。冤罪事件担当? これは冤罪じゃなく事実の事件だ。物的証拠もある。既に特別行政府担当のチームも立ち上げるところだ。帰ってくんな、おばさん」

 これにはファイド女史が切れた。感情的ではなく、冷静に。

 そして、それ以上に切れたのがグレイスだった。

 この二人を怒らせると怖いということをノーマン刑事は理解していなかった。

「おばさんですって? 弁護士で、主に連邦案件を扱っているこの私に? 相手を見て物を言えっていうのはそちらでしょ! 名誉棄損で訴えさせてもらうことにしましょうか。ここには大勢の証人が居ることですし」

 ファイド女史はじろりと睨むように部屋を見渡した。

 他の刑事達は流石にまずいと思い始めていた。ノーマン刑事をたしなめるようそれぞれが動いていた。

「アルファイド君は無実です。薬包を拾ったという彼の証言を正当な証言として扱う人物はここには居ないのですか? これではまともな捜査ができているとは言えないのでは? 公平な捜査を望みます。弁護士がついたのですから、彼は返していただきましょう」

「できない相談だな。あいつは最有力容疑者だ。どこから薬を手に入れ、どこに売ろうとしていたか、じっくりと話を聞きたいんでねぇ。そんな奴を返せるか!」

 それを聞いていたグレイスがこう言い切った。

「寝ぼけてんのはそっちでしょうが。おじさん。それともお爺さんとでも呼びましょうか。仮にも刑事なら事実を良く見ることね。あなた達はたまたま麻薬を持ってたジーンを現認しただけでしょうが。その事実だけで犯人? 笑わせるんじゃないわよ。呆け老人」

「生意気な小娘だな、俺もバカじゃねえ。そこまで言うんだ、自分の首賭けられるんだろうな?」

「私の首? いいでしょう、賭けましょう。彼は無実。絶対にね」

「バカな女だな、他人に自分の首をかけるとは。そこまで信頼できるもんかね、他人を」

「信頼できなきゃ、アカデミーでチームは組めないわ。こっちは首を賭けるといっているんだ。そっちもそれ相応のものを賭けてもらいましょうか……。そうね、その警察バッジ、頂くわ」

 警察バッジが賭けられるとなって、ノーマン刑事は慌てた。

「警察バッジが賭けだと? どういうつもりだ?」

「こっちは士官候補生の首を賭けるといっている。当たり前のことでしょう。それ相応、見合ったものが対象でないと。それとも何ですか? 警察バッジが賭けられないような内容で彼は拘束されたんですか?」

 売られた喧嘩は高く買い、さらに高値で売り付けろ! を地で行く会話だった。

 その言葉を聞き、他の刑事はジーンの開放に動き出した。

「おい!」

 ノーマンは引き止める。だが、従う者はいなかった。

「弁護士がついたので、彼は釈放させるべきです。アルファイドは自分の所持品ではないと一貫してその事を貫き通している。証言を翻す様子はない。逃亡の可能性も低い。開放すべきでしょう」

 ぐうう、と唸りながらノーマンは釈放に同意した。


「ジーン!」

 グレイスのその言葉に、取調室から解放されたジーンは、苦笑いを浮かべていた。

 少し疲れを見せたジーンは、大きく息を吸い込み、グレイスの横に立つ女性に気が付いた。

「グレイス、こちらの方は?」

「そうそう、紹介するわね。こちらはあなたの弁護士を勤めてくれるサクラ・ファイド氏」

「弁護士?」

 頭の中で『? ? ?』を繰り返すジーン。

 自分は弁護士を雇った覚えはなかった。

「後輩が窮地に立たされているとなれば、黙っちゃいられないわ。よろしく。アカデミー出身の弁護士、サクラ・ファイドよ。あなたの無実、証明しましょう」

 そう言って差し出された手をジーンは握り返し、二人は握手を行った。

「さあ、私たちの庭に帰りましょ」

 グレイスはそう言って二人を促し、アカデミーへと帰っていった。




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