十九 苦手な問題
どのチームにも、得意不得意分野はある訳で。
プランキッシュ・ゲリラの面々もそれに当てはまっていた。
苦手な問題……。
頭を使う問題ではなく、体を使う問題でもない。『口』を使う問題。
要は、早口言葉だった。
第十八チェックポイントは、中央棟七階の会議室に設けられていた。
何とか階段を登り切り、チェック表にスタンプをもらい、設問を見たとき――
グレイス達は気が抜け、会議室にへたり込んでしまった。
お茶目な教官がいたらしく、難しい問題かと思いきや、なんと早口言葉が問題と出されていたのである。
チーム員一人につき一つの問題。
問題は各自くじを引いて決める。運にも左右されるのだ。
グレイスの問題は「隣の客はよく柿食う客だ」
ジーンは「赤パジャマ黄パジャマ茶パジャマ」
カイルは「青巻紙赤巻紙黄巻紙」
フレッドは「かえるぴょこぴょこ3ぴょこぴょこ あわせてぴょこぴょこ6ぴょこぴょこ」
ウォンは「ジャズ歌手シャンソン歌手」
がそれぞれ与えられた。
「俺たちはアナウンサーになる訳じゃないぞ」
と言った学生の声があったが、教官はばっさり一言。
「滑舌が悪くて命令が聞き取れなかった部下がいたら大変でしょうね」
こう言われてしまえばやらないわけにはいかない。
会議室のあちこちでぶつぶつ練習する学生達。
ある意味異様な光景が広がっていた。
「何だ何だ、葬式みたいに暗い雰囲気じゃないか。ブツブツ言ってお経読んでいるわけじゃないだろうな」
「サエキ教官」
サエキがそう言って会議室に入ってきた。
大勢の学生が詰まっていると聞いて様子を見に来たのだ。
「ははっ、早口言葉か。……成程な。みんな真面目にやれよ。さて俺も判定員やるか!」
そう言って会議室の椅子に座りこんだ。
それを見て、グレイスが一言。
「よっしゃー、やってくる」
プランキッシュ・ゲリラの第一陣としてグレイスは先陣を切っていった。
「いきます!『隣の客はよく柿食う客だ』!」
一気に喋り切った。サエキは合格点を出した。
「他の奴らもさっさと乗り切っちまえ」
そう言われ挑戦するも、なかなか難しい。
グレイスは他のメンバーが終わるのを会議室の片隅で待っていた。
「グレイス、いいか、聞いてくれ」
そう言ったのはジーン。
「いくぜ!『赤パジャマ黄パジャマ茶パジャマ』! 噛んでないよな?」
それを聞いてグレイスは合格点を出した。
「ほら、本番、行って来て!」
ジーンも何とか合格。グレイスと一緒に他の学生達を見ていた。
「何か、結構、情けない姿をしていないか? 俺たち」
「情けない、結構じゃない。今しかできないんだから、今のうちに恥かいとけばいいのよ」
確かに、卒業したら部下の前で恥はかけない。自分達は卒業したら幹部候補生だ。恥をかけるのは学生の身分である今のうちだけなのだ。
そうしていると、そこにライトニング・ブルーの面々がやってきた。
異様な雰囲気に少し押されているようだ。
「よう、そっちはどうだ?」
「二人終わった」
「二人?」
まだ問題を見ていなかったのである。
問題を見た四人は、プランキッシュ・ゲリラの面々同じく、力が抜けてへたり込んだ。
「……早口言葉かよ」
「なんか醜態さらしそうだな」
それぞれがくじを引いて問題ゲットした。
内容を見て更にへこんだようだ。
与えられた問題は……。
「除雪車除雪作業中」
「うちのつりびんは つぶれぬつりびん 隣のつりびんはつぶれるつりびん」
「マグマ大使のママ マママグマ大使」
「第一著者 第二著者 第三著者」
「なんつー問題だぁ」
とロバートが騒いでいるうちに、カイルとウォンも合格を出した。
「ふーっ、何とかクリアしたぜ」
「練習では随分噛んだ」
プランキッシュ・ゲリラでは残りはフレッド。
彼は、見た目は元モデルの男前のくせに、姿に似合わず半泣き状態になっていた。
「あー、あいつの課題って、俺でもやだな、嚙みまくりだぜ。文章長いし」
「でも彼がクリアしてくれないと、私達次に進めないのよね」
そう言っている間にフレッドがやってきた。
「グレイス、聞いてくれ」
深く息を吸い込んで一気に言った。
「かえるぴょこぴょこ3(み)ぴょこぴょこ あわせてぴょこぴょこ6(む)ぴょこぴょこ! 噛んでないよな?」
「言えたじゃない」
グレイスは素直にそう褒めた。
が、プランキッシュ・ゲリラの男性陣とライトニング・ブルーの面々は男の外見と話の内容の矛盾があまりにも面白かったようで、笑って涙目になっていた。
「……笑い事じゃないぞ」
「分かっている。早くクリアしてきてくれ。次の問題行こうぜ」
その言葉に背を押され、フレッドは試験官の元へといった。
「いきます!『かえるぴょこぴょこ3ぴょこぴょこ あわせてぴょこぴょこ6ぴょこぴょこ』!」
フレッドの声は通る。
練習中の学生達が練習をやめ、一斉にフレッドを見た。
終わった瞬間……。
爆発したような笑い声が会議室内に響いた。
「そんなに笑わなくても……」
大きな図体を小さくしてフレッドが言った。
「よかったじゃない、合格よ。……今笑った奴らもすぐ合格できるとは限らないし」
グレイスのその言葉で、会議室は一気に静まり返った。
「さあ、私達は次に移動よ。急ぎましょう」
「じゃあね、お先~」
「こんちくしょー」
そう言って、第三チェックポイントと同じ対応でグレイス達はライトニング・ブルーの面々と別れた。
プランキッシュ・ゲリラの面々は次のチェックポイントへと向かっていった。




