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十一 爆弾低気圧

 換気ダクトを匍匐前進で物音を立てずに無言で進む。

 ジーンが無言で右手を上げたとき、人員は一斉に動作をやめた。

 多目的室の換気口に着いたことを意味する。

 ジーンはじっと多目的室の天井に置かれた換気口から室内を観察する。

 テロリストは人質を縛り、銃を持って脅している。

 彼らはうろうろと動いていた。

 ジーンは、その人の動きが換気口の下まで来るのを待っていた。

 じりじりとその時を待つ。

 我慢との根競べだった。


 ――そしてついにその時が来た。換気口の真下に男の頭がある。

 ジーンは、ばっと換気口を開け、見張りの男に飛びかかると銃を叩き落し、背後から羽交い絞めしてカッターナイフを喉元にあて、身動きが取れないようにした。

 その隙に次にグレイスが換気口から飛び降り、対処に迷っているもう一人の男の股間を思い切り蹴り上げた。

 ――チーン

 そんな音がどこかで聞こえたような……

 蹴り飛ばされた男は白目をむいて泡を吹いて気絶していた。

 男性陣はその光景を見て思った。

 ――あいつを敵にしなくてよかった。

 グレイスは男性ではないため、自分の蹴りがどのような影響を与えるのか分かっていない。男の急所である股間を力任せに思い切り蹴り上げていた。

 男性陣は、思わずテロリストに同情したという。


 フレッドや、ライトニング・ブルーのロバート達は、さらにもう一人のテロリストの対処をした。動けないよう体を拘束した後、両手の親指を一つにまとめセロハンテープでぐるぐる巻きにし、さらにガムテープで両手首から肘までと、両足首を巻き上げた。

 これではテロリストは何もできまい。

 多目的室で拘束を解かれたクルーをテロリストの見張り役とし、プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーの実働部隊はブリッジへと足を進めた。

 クルーの中にも格闘経験のある者もいたが、人数が多いとかえって動きが取れなくなる。

 彼らはテロリストが持っていた銃器を預かり、自らテロリストの見張りを買って出て、ブリッジの開放をグレイス達に任せた。


 ブリッジに着くまでもテロリストが居なかったわけではない。

 遭遇するたびにジーンが相手の口を押え喉元にカッターナイフを置いて問答無用の状態にし、相手が硬直している間に他の者が親指同士をセロハンテープで止めさらに両手首から肘まで、両足首をガムテープで縛る、その繰り返しをして進んでいったのであった。

 勿論、口をガムテープで塞ぐことも忘れはしなかった。


 一方、ブリッジにいるテロリスト達は、拘束したクルーの見張り役と連絡がつかず、イライラとしていた。

 様子を見に行かせに数人をブリッジから多目的室へ派遣する。

 それを見たグレイス達が脇の通路に引きずり込んで手早くテロリストを拘束する。

 その繰り返しだった。

 どんどんブリッジにいるテロリストが少なくなってゆく。

 ブリッジにいるテロリストが三人になったとき、流石におかしいことにリーダー格の男が気付いた。

「……まさか、拘束できなかった乗務員がいたのか?」

 その呟きを聞いた艦長が隠れて笑みを浮かべた。

 グレイス達が動き回っていることを感じ取ったのである。

 艦長は聞いていた。教官であるサエキから。『あいつらは今までにない悪ガキだ。ちょっと目を離すと何をするかわかったもんじゃねぇ。悪い方の何をするかじゃないところが更に質が悪い。そこんとこ理解して監督してくれや、よろしく』と。

 まさかテロリスト相手に行動を起こすとは思っていなかったが、彼らが動いているとなるとこの状況も頷ける。

 ブリッジにいるテロリスト集団は焦った。

「艦内の乗務員に告ぐ。艦長の命が惜しかったらおとなしく出頭せよ」

 艦内に放送を流した。が、この言葉に反応するグレイス達ではなかった。

「艦長の命が惜しくないのか」

 艦長の命を奪ったら、この船からの情報の引き出しは出来なくなる。そのような行動には出ないと踏んでいた。

 グレイス達は、二手に分かれて一気にブリッジを制圧する行動に出ることにした。

 ジーンとグレイスは換気口へ、フレッドとロバートは正面入り口に配置し、突撃の時期を伺っていた。

「……GO!」

 それぞれが持っている通信機能付き腕時計を利用して、グレイスの指示により突入を始めた。

正面入り口の突入に合わせ、換気口からも突入する。

 二方向からの至近距離の攻撃にテロリストは焦った。

 ――銃を構える暇もなく、ろくに抵抗もできず、テロリスト達はグレイス達の手に落ちていった。


 テロリスト十二名は全員捉えられ、ガムテープとセロハンテープで拘束されていた。

 日用品でも拘束具として代用できるものである。

 テロリストの持っていた銃器は押収され、逆に彼らの拘束に使っていた。

 そして、プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーの面々には、艦長の怒りの鉄拳が待っていた。

 ゴンゴンゴン……と順に九人の頭の上に拳骨が落ちていた。

「学生の身分で艦長の指示を待たず、独自に行動するとは何事だ!」

 とのこと。

 今回は良い方に結果が進んでいったが、そうでないことも当然考えねばならず。

 場合によっては、彼らがあの世へ行っていたことも否定できない。

「無茶しやがって、自ら棺桶に足突っ込んだ行動だったと分かっているのか!」

 艦長は思わず彼らにそう言った。

 だが、グレイスは屈しなかった。

「我々のできる行動はあれしかなかったと思います。それ以外に対処の方法が考えられませんでした。テロリストの拘束とブリッジの奪取を選択したことによる叱責は甘んじて受けますが、自分達が捕虜として拘束されない方法を取ったことに対しての叱責は、受けかねます」

確かに、彼らの初動がこの危機を救ったと言える。艦長はそれ以上のことが言えなかった。そして、教官のサエキが言っていたことを身に染みて感じていた。

――確かにいい意味での悪ガキだ。

「全員、反省文提出! いいな!」

「……」

 これは甘んじて受けねばならない。


 テロリストを拘束捕虜とした英雄達は、反省文の渦に巻き込まれた。

 そして、この船で起こった局所的爆弾低気圧は、沈静化していった。




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