九 緊急事態(スクランブル)
グレイスははじめ耳を疑った。
「スクランブル、スクランブル、第一級警戒態勢発動」
と、緊急事態を知らせる放送が入った後に、
「この船は我々ギャラクシーステートが占拠した」
そう艦内放送が流れたからである。
――ギャラクシーステート。
銀河連邦でも過激なテロ組織である。
そして次に起こした行動は……。
報告書を書いていた机の上をきれいに整頓し、個人的な物はベッドの下に隠し、部屋の上にある換気ダクトに椅子を使わず、ジャンプ力と腕力、腹筋と背筋を使って入り込むことだった。
それは他のメンバーも同じようだったようで……
プランキッシュ・ゲリラの面々は、報告書の下書きの途中で顔を跳ね上げ……
ライトニング・ブルーのメンバーは就寝中のところを飛び起き……。
――現在に至る。
この面々が凄いのは、それぞれが割り当てられた部屋には人物がはじめから居なかったよう繕った後、正面のドアから出入りせず、グレイスと同じくこの換気ダクトを利用した点である。
彼らは、乗艦したその日に、艦の造りを把握していた。
もちろん換気ダクトがどのように設置され、どの部屋にどのように繋がっているのか理解した上での行動であった。
「よお!」
「よっ!」
小声でのやり取りが始まった。
「全員そろっているか?」
「プランキッシュ・ゲリラは全員いるぜ」
「ライトニング・ブルーも揃っているぜ」
こそこそ、こそこそと話す。
「まず、落ち着いて話せる場所に行こう」
細長い換気ダクトの中では、意思の疎通を図るのが難しかった。
そこで小柄なグレイスを先頭に、匍匐前進をして、船の端の方にある備蓄品の格納倉庫へ出た。
すんなりと移動できたわけではない。
気配に敏いグレイスが人の気配を感じると、腕を上げて停止の合図をし、人物が過ぎ去るとまた前進を開始する。この繰り返しだった。
格納倉庫につき、見張りがいないか確認して一息ついた後、それぞれの意見交換が始まった。
「どうするよ?」
「どうするも何も、テロリストをどうにかしないと実習もできないし、そもそも生きて帰れないでしょ?」
「そりゃそうだが、そのテロリストをどうする?」
任務外だったクルーは、救助補助にでていたため、運悪く全員が拘束されている。自由に動けるのはテロリストに見つかっていない自分たちだけだった。
はっきり言って、この件は実習前に検討したトラブルの予想範囲を超えていた。
対処方法は全く白紙の状態だった。
だが、分かっていることが一つ。それは……。
「俺たちが動くしかないだろ? 今の俺たちは実習生というおまけ的な存在で、はっきり言って航行作業には戦力外的な存在だ。拘束されている先輩方の力がないと、実習できないし、操船ができない。実際、艦長が即座にスクランブル放送のあと航行停止の対処をしたようだしな。艦長の再起動航行命令がなされなければこの船はここから動かない。……つまりだ。戦力外の俺たちがゲリラ活動して、計算外の俺たちで反撃! だろうな。プランキッシュ・ゲリラが本当のゲリラになる訳だ。面白いじゃないか?」
「面白いで済む問題か!」
ライトニング・ブルーのメンバーは頭を抱えた。
プランキッシュ・ゲリラの面々のテンションについていけない。
だが、このまま手をこまねいている訳にもいかず、彼らの主張が正論であるのも事実。
うーん、と唸りながらも了承した。
「フレッド、状況はどう?」
フレッドは備蓄品の中にあった携帯端末で艦内の情報をキャッチしている。
艦内に設置してあるカメラの内容をハッキングしていた。
「主要幹部はブリッジ、他のクルーは多目的室に集められて見張られているなぁ。見張りは廊下にもちょこちょこと」
映像を元にフレッドが言った。
「見るか?」
そう言って渡された端末から、画面に映ったテロリストの容姿を見てグレイスは容疑者の名を即座に連ねた。
つらつらと読み上げられる名前。
十二人中十人が連邦航空局の指定犯罪者に該当した。
「これ、捕まえるしかないだろうね、厳しいけど。俺たちが生き延びるためにもさ」
どうもそうなるらしい。
それしか、対処方法は無いようだ。
もうどうにでもなれと、思わず天井を見上げたライトニング・ブルーの面々だった。




