#01プロローグ
大きな溜息とともに帰路に着く。
朝、眠い目をこすり、仕事に向かう、くたくたになってまた帰路に着く。
この繰り替えしを社会人になり、まだ四年の俺はすでにうんざりしていた。
新入社員として大きな夢を持ち希望をもってアニメの制作進行という仕事に就職した。
きつい仕事ということは、ネットやSNSを見ればすぐにわかったが、好きなことを仕事にしたいと、俺はこの仕事を選んだ。
入社して配属された班はかなり問題を抱えたグループで、納品すら危ぶまれるスケジュール、上司が逃げ新人が辞めていき、人手が足りない現場。
家に帰れず何度目かの三徹を乗り越えたころには、ある程度要領良く仕事をこなせるようになっていた。
仕事に面白みをあまり感じなくなったが、仕事は仕事、給料をもらっているからには、最低でもその分はこなしていこうという気持ちと、いい作品を作れたときのささやかなうれしさだけで俺は続けていた。
午前三時、眠たい目をこすり帰路を歩く、携帯に次々とくる仕事のメールを見つつ、青に変わった信号を確認して進む、ライトをつけていない黒い車が見えた時には、俺の体は空中に舞っていた。
ぼそぼそと声が聞こえる。
「やべぇやべぇって俺の人生が終わる……こんなの……」
もたもたしてないで早く救急車を呼んでくれと思っていた俺は、うめき声をあげながら手を伸ばそうとしたが、腕があがらない。
「深夜だし、あんだけの音でだれもここに来ないってことは誰にも見られてない……のか……」
ゴクリと唾液を飲み込む音が男から聞こえる。
そして俺は意識が遠のいていった。
次に気がついたときには樹が密接しているような場所、おそらく山であろう場所の、なぜかあいている穴に入っていて土をかけられているところだった。
声を上げたいがすでに痛みで身動きも取れず、声も上げられず、呼吸すらもまともにできない。
走馬灯のようにいままで生きてきた二十五年の月日が頭の中で流れていく。
まだまだしたいことがいっぱいあった。
買って楽しみにしているマンガや小説を読みたかった。
好きなアニメをもっと見たかった。
友達ともっと遊びたかった。
姉と妹に生まれた子供を見に行きたかった。
父ともっと呑みに行きたかった。
母に親孝行してやりたかった。
もっと……生きていたかった……
そして俺は人知れず社会から姿を消した。