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どうやら俺は最終話でも変わらないらしい

前回のテンプレポイント

脱衣からの覗きしながらラッキースケベ炎系ツンデレお姫様をおいしいと感じる味覚の持ち主と決闘、主人公最弱私の炎は華氏3000度わーんぱん!推理ものでさいらすを解こうじゃないかからの崖に追い込まれたころんびあ!

 勇者と従者。それはこの学園に入学した時点で明確に格付けされる。いや、もしかしたら生まれた時点から運命は決まっているのかもしれない。

 従者がどれだけ頑張ろうとも勇者にはなれず、彼の者の後を付いていくことを決定付けられているのだ。

 ほんでからえーっと…それが世間一般での常識だ。えー…だが果たして本当だろう…か?


「なあ、なにこれ?」

「プロローグです。入学編で入れるのを忘れたので、今読んでもらいました」

「忘れたならそのままでいいだろ!」


 台本みたいな冊子を地面に叩きつける。

 なんで妥協しまくるくせにこういうところはこだわるんだよ。全体的に力入れるところ間違ってるんだよ…(諦め)

 あ、お陰さまで不合格は取り消しとなり、無事入学することができました。

 …『従者コース』としてな!

 さっきのプロローグ(?)だが、まったくもってその通りだと思う。特に『従者がどれだけ頑張ろうとも勇者にはなれず、彼の者の後を付いていくことを決定付けられているのだ』の部分が。

 果たして本当だろうか?…本当に決まってるだろうが!じゃないと、ハルやアイアが好き放題やるのを渋々付き合うだけとかありえないだろ!(泣)


「あっ!レイタ…と、あんたもいたのね、ハル」

「おはようございます、フィア」


 ハルとアホみたいなことをやっていると、フィア(クゥフィアがそう呼んで欲しいと言ってた)がやってきた。

 2人が顔を合わせるとフィアが一方的にギスギスした雰囲気を放って、ハルがさらりと受け流す。ここまでが一連の流れになっていた。お互いに愛称で呼んでるしだいぶ打ち解けてきているみたいだ。


「あんたたちっていつも一緒にいるわよね。その…つ、付き合ってたりするわけ?」

「いえ、私はレイタのサポート兼ハーレム役ですが?」

「ふ、ふうん…そんな軽々しい関係なんて既に越えてるとでも言いたいわけね…上等じゃない…」


 いや、お前ハーレム役じゃないだろ。デレたことないだろお前。傍にいるだけでハーレム要員にカウントされるとか、俺は絶対に認めないからなお前!秘書だ秘書!それも一切色気のないやつな!


「…ああ、レイタとイチャつきたいのならどうぞ。甘酸っぱい展開は望ましいので」

「くぅ~!なにその余裕!

べ、別に…い、イチャつきたいとか、そそそ、そんなんじゃないわよ!ちょっとお喋りしたいとか、一緒に学園へ行きたいとか、そんな風に思ってるわけないんだから!」


 フーッ!と獣みたいな威嚇をするフィア。どういうわけか髪を逆立てて、炎こそ出てないが彼女が生み出す熱で周りの空気が歪んで見える。

 やばそうな雰囲気に俺は慌てて話題を転換する。


「そうだ!近々大会があるんだって?武道大会。フィアも出場するのか?」

「いいえ、私達五天七星が出ちゃったら出来レースになっちゃうでしょ?だから私達以外でトーナメントを争ってもらって、上位者が私達と戦う権利を得られるの。そこで勝てば代替わり、という感じね。

ここは強さに重きを置いているから、五天七星に入ると特別な権限を持つことが許されるの。もっと言えばその中でも上位5位、五天七星の五天の方ね。そっちは更に大きな権限を与えられるのよ。

因みに私もその五天の1人なんだから!」

「ドヤ顔でそんなこと説明されてもなあ…なんだか凄いことは分かった」

「感想それだけ!?」


 五天七星とかいうのは初耳だったが、武道大会というのは鼻息を荒くしたハルに説明されて知っていた。なんでも、学園ものに武道大会は外せないらしい。何が外せないんだろうな意味が分からない。

 それがもうすぐ開催されるのだ。編入試験といい、大会といい、(ハルにとって)都合よすぎだろと思わなくもなかったが、そういうのを探し当てるのがハルとアイアの役割だから仕方ないのかもしれない。


「さて、近々と言ってもまだ日にちがありますし、特に大したこともない相手との戦闘描写は無駄でもあります。グダグダやらずに、ここからはダイジェスト版のごとくサクサクいきましょう」

「基本いつでもグダグダだけどな!」


◆ ◆ ◆


 さて、それではこれより武道大会の内容をダイジェストでお送りします。

 一回戦、対するはサイモン・なんとかかんとか。


「ハッハァー!あんた補欠合格なんだって?それも『従者コース』の!ぶははっ!だせえ!超だせえ!よくそんなんで大会に出られたな!ファメア姫と戦って、どこかに頭ぶつふぉおおおおおおおおお!」


 おっと、レイタ選手対戦相手の口上を聞き終わる前にドロップキックで吹き飛ばしました。彼はあらゆる耐性を会得していますが、煽り耐性だけはなかった模様です。

 続いて二回戦、お相手はジャガイモっぽい人。


「ふん、どうやら運よく勝ちを拾えたようだな。俺は前大会ベスト4を記録したジョン・ドゥ!そう何度もまぐれが起こると思うなよ!

ぐはあああああああ!」


 今度もドロップキックであっさり吹き飛ばしました。まさに破竹の勢いです。

 三回戦、痴女っぽい人が対戦相手です。


「まさかジョンを破るなんてね。皇女様と渡り合えたのもただのまぐれではないのかしら?

フフッ…アタシ、強い男に目がないの。力を隠しているのならアタシが丸裸にしてあげる!

…きゃあっ!」


 またしてもドロップキックで瞬殺だー。まさかドロップキック1本で勝ち進んでいくつもりなのでしょうか?そして先程の悩む素振りはなんだったんでしょうか?

 ここで思わぬ出来事が起こりました。先程の2名を破ったことで、棄権する者が続出しております。よってレイタ選手は準決勝まで勝ち進むこととなりました。その中にアイア選手がいるのはどういうことなんでしょうか。


 準決勝、相手はイヴァン・ホルヴァト選手です。


「クハハハ…なかなごふっ!」



「――初戦の勢いそのままに、ドロップキック1本で勝ち上がってきたレイタ選手。対するは、圧倒的な力を見せ付けて対戦相手を完封してきた私こと、ハルキゲニア選手です。どうなるか見ものですね」

「なあ、やりたかったって言ってるくせに随分雑すぎねえか?」

「仕方ないです。まさかトップランカーが参加しないとは思いもしませんでした。レイタには並み居る強敵をボコボコにしながら勝ち進んでもらいたかったのに」


 少し残念そうな顔を浮かべるハル。テンプレ厨な彼女からすれば、これは本当に残念なのだろう。ちょっとは同情もしたく…ならないな。なんだよさっきのダイジェストもどき!投げやりすぎだろ!むしろこの大会の出場者全員への申し訳なさで一杯だよ!


「もはやこれも消化試合ですね。すぐ終わらせましょうか」

『がんばろーねっ!』

「そうだな…一応賞金も出るらしいが、どっちが優勝しても同じだし…なっ!」


 競技場の床を踏み抜くくらいの勢いで切りかかるが、空中にフワリと浮かんで避けられてしまった。


「………おいおい、なんで避けるんだよ」

「………なんとなくです」


 ハルが手を前に突き出す。すると、背後に幾つもの魔方陣が現れて光弾を打ちだしてきた。着弾地点から大きく跳ぶことで回避する。


「………レイタこそ、避ける必要はなかったでしょう。早く終わらせませんか?」

「俺だって早く終わらせたいと思ってるよ。ただし、俺の勝利でなっ!」


 『次元断』を併用して刀を振り回す。俺が刀を振る度に空間に亀裂が走りすぐ戻るを繰り返す。クゥフィアとの戦いの時は炎が邪魔で見え辛かったせいで、『次元断』の効果を今初めて知ることになった。次元を斬ったらこうなるんだーすげーと驚きもしたが、所詮は当たらなければどうということはないらしい。ヒラリヒラリと避けられ、彼女の背後に従えた魔方陣で反撃してくる。

 意外なことに彼女は負けず嫌いなようだ。さっさと終わらせたいとか言いつつ、負けようとする気配すらない。

 因みに俺は負けず嫌いというか、なんかハルに負けるのがシャクだったもんでムキになっているだけだ。


「そんなに勝ちたいんですか?子供ですね、レイタ」

「お前に言われたかねえよ。そんなこと言うならお前が負けろ!」

「それは却下します…バーン・イン・ヘル」


 ぽっかりと黒い穴が開き、そこから炎が漏れ出してくる。フィアの炎なんて比じゃないくらいのそれは、ガソリンをぶちまけたように地面へ燃え広がった。

 …さすがにこれはやばそうだ。念のため取ったはいいものの、今まで使うことのなかった『危機感知』のスキルが目を覚まし頭の中で鳴り響く。

 『浮遊』スキルで空中へ避難した。多分、そのままあそこにいたら継続ダメージでジリ貧だっただろう。厭らしい手を使ってくる奴だ。


「お前最初に言ったよな?最終的に選択するのは俺だって。なら俺に勝たせろよ」

「そんな細かい選択肢まで面倒見切れません。早く終わらせたいならあなたが負けてください」

「それがサポーターのすることか!」

「知らなかったのですか?私達にもそれなりの裁量が認められているんです」

「いや、お前の場合『それなり』じゃないだろ!」


 言葉の応酬と共に魔法の応酬が始まる。ウマい。以前、かっこいいと思って取った雷系統の魔法スキルを軸に魔法を放つ。幾本もの雷に別れて攻撃するものや、大きな雷の槍、相手に近づき四散する雷の球。

 それに対しハルは魔法の障壁で防いだり、無数の氷のつぶてで迎え撃つ。と思いきや地面からは炎の柱を噴出し、不意を突くように俺の背後から雷撃が飛んでくる。それでいて、魔方陣からは光弾を射出し続けているんだから手に負えない。

 …悔しいが、魔法の扱いは彼女に一日の長があるようだ。


「お、おいおいなんだよこれ…これは本当に人間の戦いなのかよ?」

「そんなこと俺が知るかよ…それに片方は『従者コース』の補充欠員なんだろ?なんでこんな戦いができるんだよ」

「ちょ、ちょっと待て!あそこにヒビみたいなものが見えるんだが…この結界、マジでやばいんじゃないか?」


 …周りの雑音が煩いな。もっと集中しないと。

 『集中』スキルを最大レベルまで振る。すると余計な情報が遮断されていくのに周囲の状況(前だけでなく後ろの方まで)が、手に取るように分かるという奇妙な感覚に包まれる。それは決して不快でも慣れない感覚でもなく、元からそうであるかのような気すらする。いいスキルだ。『浮遊』スキルは未だに慣れないんだけどな。


 魔法から近接戦闘に戻す。魔法はスキルで全自動化して障壁を作り続けてもらいながら接近する。

 …慣れない『浮遊』スキルのせいでどうしても直線的な動きになってしまうな。どうにかする必要がありそうだ。

 ありきたりだが、障壁を水平に作り出して足場にしてみる。…うん、思った通りいけそうだ。


 ――スキル・空中歩法を編み出しました!

 ――スキル・高機動術を編み出しました!


 …え、なんか、新しいスキルができちゃったんだけど…とりあえず即ポチした。

 するとフワフワと心もとない不安定さがなくなり、地面の上に立っているような感覚が足から伝わってきた。

 突貫。ヒラリと避けられるが空間を蹴って追いすがる。どこでも足場に出来るから一気に方向転換ができるな。もう1つのスキルのお陰か、急に止まったり動いたり無茶な制動、加速がやりやすくなっている。

 ジグザグに曲がりながら、時にはフェイントをかけて背後に回りこみ斬撃。刀の刃先から数メートル先までの空間がぱっくり割れた。ぎりぎり躱されたが、ハルの方も余裕はなくなっているようだ。


「…まさかスキルを編み出すとは思いませんでした。負けず嫌いここに極まれりですね。ちょっとは譲歩したらどうですか?」

「いや、かなり譲歩してただろ!」

「ではここでも勝ちを譲ってください」

「嫌だ!いつもいつも俺の意見を無視しやがって!抵抗できるチャンスがあるんだから、ガッツリ抵抗してやる!!」


 力んでいたせいか、予想以上に大きな声が出てしまう。ハルも若干ではあるが、切れ長の目を大きく見開いていた。なんか恥ずかしいな。


「そ、そっちこそなんでそんなに拘るんだよ!ここまで粘るとか、幾らなんでも負けず嫌いの範疇を越えてるだろ!ここまで頑固だとは思わなかったよ!!」


 いや、負けず嫌いだからここまで粘るのか?よく分からんが恥ずかしさを紛らわぜたくて更に大きな声を張り上げた。

 対するハルは黙って聞いているのみだ。


「だいたい、俺かハルかってなったら優勝するのは俺の方がいいだろ、テンプレ的に考えて!なんでそんなムキになってるんだよ!テンプレ厨なクセにこういうところで変なことかますから微妙な感じになってるんだろうが!」


 黙ってるのをいいことに追撃とばかりに今まで溜め込んできたものを吐き出した。

 ハルの方はといえば、黙ったまま俯きプルプル震えているようにも見える。

 や、やば…言い過ぎて怒らせたか…?


「私だって…私だって、頭ではあなたが優勝した方がいいって分かってますよ!でも、勝たせたくないんです!」


 びっくりした。いつもはクールなハルにあるまじき言動だ。彼女がこんなにも感情を爆発させたことなんて見たことがなかったし、そもそも感情を表に出さないキャラだと思っていた。

 なんで急にそんなこと言い出したのか分からなかったが、今までの口論を引きずった俺はますますヒートアップしてしまう。


「なっ…!な、なんでそうなるんだよ!テンプレはどうした!?」

「そんなの知りません!だってあなたが優勝したらまた女の子とイチャイチャするんでしょ!?」

「知るかっ!知らんけど、ハーレムはお前の望むところじゃなかったのかよ!?」

「その通りですよ!でも嫌なんです!私をのけ者にしてハーレムを作られても、ちっとも嬉しくなんかないんです!

私だって、アイアみたいにナデナデして欲しかったのに!褒めてもらいたかったのに!あなたはっ…いつも私を否定するじゃないですか!」

『ハルぅ…』


 彼女の言ってることは無茶苦茶で、だけど切実で…普段なら『いや、ただのワガママかよ』とか、口をついて出てくるツッコミが、今は何故か出てこない。


「そんなの言ってくれなきゃわかんねーだろうが!」


 変わりに出たのはそんな最低な言葉だった。言ってから後悔する。ハルの怯んで身を竦めた様子を見て更に激しく後悔する。今のは苦し紛れにしてもよくない。


「そんなの…っ!そんなの察してくださいよ!ばかぁっ!」


 彼女の悲痛な叫びが胸に突き刺さる。

 確かに俺は彼女のことを雑に扱ってきたと思う。別にこれくらい気にしないよな、と彼女の無表情さに甘えていた。だけどそうやって俺がハルを軽んじて、アイアに癒しを求める度に鉄の仮面の下で泣いていたのかと思うと、胸がズキズキ痛む。仮面の下は、ただの女の子だったんだって今更ながら思い至る。


 だけどさ、どうしろって言うんだよ。情けない話だけど、今まで見たことないような美人が傍にいて、照れ隠しに厳しくあたってしまうような童貞だぞ?彼女の残念さに付け込んで平静を保とうとするようなガキだぞ?

 彼女の頬に流れる雫を見てしまって、返す言葉を見失ってしまう。

 泣くなよ…ラノベや漫画の主人公みたいに、女の子の涙を止める術すら知らないで何が主人公だよ。そもそもが人選ミスだったんだよ。

 こういう時に言い訳ばかり出てくる自分の浅ましさに嫌気がさす。

 こんな俺にできることなんて――


「挙句の果てにはファメアにまで優しい笑顔を向けて!最初はあれだけ警戒していたくせに!」


 ヒーローになんかなれない俺にできることなんて、ハルの全力の攻撃を受けきること位しか思い付かない。なんでそうなるんだと心のどこかでつっこんでいる俺がいる。

 うるせえな、俺だってこんなことでハルの気持ちが収まるとか思ってないわ。彼女に全力を出し切ってもらったらちょっとはすっきりしてくれるんじゃねえの?くらいの効果しかないだろう。だから、これはただの自己満足だよ。

 ここの肉体ダメージを精神ダメージに変換するという結界は、ハルの気持ちを受け止めようとする俺たちにとってありがたいものだった。

 全自動化させていた魔法の障壁を全て消す。それと、こんな子供じみた喧嘩にアイアを巻き込むのも可哀想だ。瞬間移動とかで避難してもらおうとして、待ったがかかる。


「わたしも、ハルの気持ちをうけとめなきゃいけない気がするの!」


 アイアはアイアなりに、何か思うところがあったんだろう。変身を解いて攻撃に備えている。かっこいい奴だ。

 まだ多少のためらいがあったが、彼女の行動を見てようやく踏ん切りがついた。


 彼女の周りに展開していた魔方陣が寄り集まっていく。互いに混ざり合ってより大きな魔方陣へと形を変える。元は拳大の大きさだったものは、彼女がすっぽりと隠れるくらいにまで大きくなる。それが5枚。

 『危機感知』スキルが頭の中でガンガン鳴り響いている。早まったかなーと及び腰になるが、全く動じた様子もないアイアの姿を見て勇気付けられた。ただ、ちょっとパッシブの防御スキルとか取ってもいいよね…?


「このロリコン!変態!鈍感男!」


 5枚の魔方陣が一直線に並びこちらを向く。一番奥の魔方陣が輝きだし極太の光が射出された。


「ぐっ…うおおおおおおお!」


 激しい輝きに目を潰されそうになるのと同時に、鈍い衝撃や鋭い痛み、ヒリつくような熱さなど、ありとあらゆる痛覚が俺を襲う。

 異世界に来てから初めて味わう激痛だ。前に怪我したような気もするが、それは大したことなかったからノーカンな。

 攻撃はすぐに止んだが体感では何十秒も光に殴られ、刺され、炙られたような気分だ。


「ぐぅ…っ!いってえ!やっぱめちゃくちゃ痛い!

大丈夫か、アイア!?」

「けほっ…!けほっ…!………うん、だいじょうぶだよ」


 激痛が全身を走る。見ると体のあちこちが焼け焦げていて、『自然回復』スキルによって徐々に治っていってるところだった。

 …ん?自分で言っててあれなんだが、焼け焦げるっておかしくないか?結界はどうした、結界は。

 疑問に思い周囲の様子を確認する。そういえば戦闘に集中しすぎて周囲の確認とかしてなかったなあ。見るの嫌だなあ…


「………うげ」


 思わずうめき声を上げてしまった。確か俺たちは立派な競技場の施設内で戦っていたはずなんだけどな。確か施設の周りにはきちんと舗装された道路とか、綺麗に剪定された木や植え込みが並んでいたはずなのになあ…今は何もない更地になっていた。おかしいな、こんなはずでは。

 緑で一杯だった外の様子が黒とか灰色とかあとちょっとの白しか色がない。不毛の大地ってこのことを言うんだなあ、と現実逃避してしまいそうになる。ああ、空が青いなあ…(現実逃避)


「不毛の大地ってこのことを言うんですね」


 更地に変えた張本人その2も現実逃避していた。

 ふと地面を見ると、ある部分が急に盛り上がったのに気付く。土を掻き分けぷはっと出てきたのはファメアだった。

 急いで降下して半分埋まった体を持ち上げてやる。


「おいおい、巻き込まれたのか!怪我はないか!?」

「あうあう………あ、ありがとう…大丈夫でひゅ…」


 土を被った姿が恥ずかしいのか、顔を赤くさせるファメア。

 彼女の言うことによれば、ハルが癇癪を起こしたあたりで結界は壊れていて、彼女が防御魔法を使いながら全員を避難させたらしい。他の人の防御魔法は戦いの余波だけであっさり壊されてしまって、彼女1人で奮闘してたんだと。魔王の娘なくせにいい子すぎる。


「じゃあファメアは逃げ遅れて土の中に埋まってたのか?」

「いいえ。私にも関係ある話だと思ったので残りました。お2人のように正面から向かえる自信はなかったので隅っこの方で…

その、関係あるとかは思い過ごしで本当は全く関係なかったのかもしれませんが…

でもっ!なんだか逃げちゃいけないような気がしたんです!」


 関係ないとか、そんなことないと思うけどな。遅れてやってきたハルをちらりと盗み見る。ついさっきまで激情に駆られていたのが嘘だったかのようにもうすっかり無表情だった。

 と思ったんだが目が合った途端そっぽ向かれた。まだ怒ってらっしゃるようだ。


「その…なんだ、俺も悪い所はあったと思うよ。だけどそろそろ機嫌直してくれないか?」


 ただまあなんというか…いつもの調子に戻ってくれたお陰か、ちょっとだけ声は掛けやすくなった気がする。ヒステリー起こされるよりもこっちの可愛げのない方が落ち着く?いや、うーん…?とにかく、変わらないのっていいことだな!


「機嫌?別に悪くもなんともないです。鈍感でロリコンなレイタが何か気付けるとも思いませんね。きっと白昼夢でしょう」


 怒ってる…それ絶対怒ってるだろ!こんな辛辣な言葉を投げかけるキャラだったか!?

 依然として目を合わせてくれず、変な空気が流れる。ファメアはオロオロと俺とハルを見比べるだけで頼のも酷だろう。アイアは…まあ、うん………ちびっ子達に頼るんじゃなくて、俺がなんとかしなくちゃな!

 と言ってもどうしたもんか…一応、ハルの言い分とかを考えたらこれかな?っていうのはあるんだけど…ちょっと恥ずかしいし、間違ってたらイタすぎるだろ…

 ううっ………このままなあなあで済ましちゃうか!?…いや、それはそれで違う気がする。

 ………………よ、よし、やろう。間違っててもその時からかわれて終わりだ。きっとそのはず。念願の『ええい、ままよ!』も使ってみたかったし、ピエロにでも何にでもなってやるわ!

 よ、よし…ええい、ままよ!


 俺の手が動き出し急上昇を開始する。アイアの頭の高さを追い越し更に空へ。まだまだ上昇はできるが余裕を残し水平移動へ移行する。

 …なんて、アホなこと考えないと気恥ずかしくてやってられねえ。とりあえず俺の手を彼女の頭に置くことは成功した。よ、よし、撫でるぞ…緊張でガチガチになった手がぎこちなく動く。美女の頭を撫でるという場違い感が、余計に気恥ずかしさを掻きたてる。


「…なにしてるんですか。へんたい。人を呼びますよ」


 頭に手を置いた瞬間、ジロリと睨んでくる。なんだよ、やっぱ間違ってたのかよ。

 ただ振り払おうとする素振りは見せず、睨んでくるだけだ。おっ、これは当たり引いたか?


「そ、そんなに嫌なら振り払えばいいじゃねえか」


 睨まれて怯みそうになるが、俺の意固地な部分に火がともってギリギリ踏ん張れた。ナイス意固地。

 ハルは俺の返答にしばらく黙った後、またそっぽを向いた。…おい、なんか返してくれよ。


「い、嫌がられてるって思うならそっちが手を離せばいいじゃないですか」


 向こうも意固地になってた。変なところで似てるな、と思うと胸の奥から温かいものが湧き上がってくる。


「いーや、俺は嫌がらせがしたいんだ。満足するまで離してやらねえ」

「まったく、最低な人ですね。ならそうしていればいいじゃないですか。私は別に何とも思いませんから」

「ああ、そうさせてもらう」

「…ロリコンじゃなかったんですか、ばか」

「なんだと?」


 何故か言い合いになってる。俺のそうあってほしい願望も混ざってるのか、言い合いをしているハルの横顔はどこか満足げで、見蕩れてしまうほどに綺麗だった。


◆ ◆ ◆


「…で、どうすっかこれ?」


 ひと悶着も終え、現実に帰った俺たちは不毛の大地を見つめる。学園のほんの一部で止まっているのは不幸中の幸いだが、この、100年先まで草木も生えなさそうなヤバ気な土地はどうにかしないとまずいだろう。


「どうやら結界を生み出す魔法陣もダメになっているみたいですね」

「………………………………

………………………

………………え、それで終わり!?ここからどうにかするんじゃねえの!?」

「は…?さすがにこれは無理でしょう。便利なスキルがあるとは言っても限度というものがありますよ?」


 な、なんかその物言いムカツク…!

 でもまあ確かに、こんな焦土と化してしまった場所をどうにかできる方法なんて思いつかない。…時間がなんとかしてくれるでしょ!


「さて、ここはもう十分でしょう。次はどこへ行きましょうか?」

「ここから学園のトップとやりあうんじゃないのかよ!なんの為の大会だったんだよ!」

「テンプレの為ですが?私達の目的は大会に出場することだけですよ。学園の上位陣がやってきてくれると尚よかったのですが」


 そうだよな、テンプレ大好きだもんな。それ以外のことなんてどうでもいいもんな。テンプレの為なら出がらしのお茶くらい内容が薄くなっても気にしないもんな(諦め)。


「えっとね…あっちーっ!次はあっちだよ!」


 アイアが可愛らしく指を差す。何か忘れてる気もするが、彼女に急かされて思考を打ち切る。まあ大した用事でもないだろう。そんなことよりさっさとずらかった方がよさそうだ。

 ああ、今度はどんなパク…テンプレが俺を待ってるんだろうな。

今回のテンプレポイント

プロローグ…3点

五天七星がすごいっぽい…4点

唐突な戦闘シーン…1点

ええい、ままよ!…0点

全体的なまとまりのなさ…-10000点


総評:最終回にしてはテンプレ項目の少なさが目立ちますね。『終わりよければ全てよし』という言葉もありますし、詰め込めるだけ詰め込んでみてはどうでしょうか?

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