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どうやら俺は入学するらしい

これまでのテンカツ(テンプレ活動)

ロリコンをワンパン

 魔王(あとロリコン)と戦ったあと、アイアに引っ張られるまま各地を転々とした。

 例えば飲食店の経営…は先立つものがないから無理なので従業員として働くことで解決した。あんまり活躍できなかった。なんでも、店の経営に関わることで内政的なあれやこれやもクリアしたことになるらしい。なんのこっちゃ。

 次に戦記ものをするために戦場に駆り出された。様々なテンプレ要素を1つ1つしていたらキリがないとのことで、『SF』的な近未来感ある武器を使って『ほのぼの』しながら『奴隷』開放のための『戦争』をすることになった。これはもう意味が分からなかった。因みに戦争は一瞬で終わり平和になった。

 悪役っぽい令嬢を陰でプロデュースもした。ここには成り上がりだとか、他のテンプレ要素を詰め込めることができると興奮気味に語ってくれた。若干怖かった。ただ、悪役っぽい令嬢を地道に更正していくのは時間がかかりすぎるという理由から『洗脳』スキルを使って性格を180度ひん曲げ、誰もが憧れる完璧超人に仕立て上げた。何よりも俺達が悪役っぽかった。


 そんな感じで色々やらかした俺達が次に向かったのは、とある国の首都(正確には王都と呼ぶらしい)にある教育機関だった。正式名は確か…ザなんとかアンドほにゃららエンター…いや、エントロピーだったかな?とにかくそんな厨二臭がする無駄に長ったらしい名前だったはず。

 まあそんな長い名前を覚えられるはずもなく、街の人はこう呼んでいるらしい。

 ――勇者学園と。


◆ ◆ ◆


 各地で色々やらかしてきた(主にハルとアイアが)俺達は、視界一杯に広がる背の高い壁を見上げていた。遠くまで続く壁を見て、ハルはほう、とため息を吐く。


「巨人に蹴り破られそうな壁ですね」


 絶対言うと思った。そんなことはどうでもいいので、俺の質問に答えてもらおう。

 

「一応聞いておくな。なんでここなんだ?」

「何を今更。学園ものはテンプレ中のテンプレですよ。この学園は身分の高い貴族の子供も多く在籍しています。つまり、お嬢様学校に庶民サンプルとして拉致されたと仮定して話を進めることができるのです」

「できるのですって、ドヤ顔で言われてもなあ…」


 ハルは無表情なせいで感情の起伏が平坦だと思っていたが、最近ではなんとなく表情の違いが分かってきてそうではないと気付けるようになった。

 …まあそれは、嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しくないこともないと認めてやらなくもない。けどな、その力技でなんとかしようとするのやめてもらえませんかねえ。この人達の力技って基本的に碌でもないことするからなあ…


「それにここを選んだ理由はもう1つあります。それは――」

「なんだお前達。ここから先は関係者以外立ち入り禁止だぞ?用がないなら帰った帰った!」

「ふむ、部外者お断りなら仕方ないよな。いやー困った困った。けど無理なものは無理だし、今回ばかりは仕方がない」


 ハルが何か言い終わる前に、警備員っぽい人が俺達の前に立ちふさがるようにやってきた。

 ここぞとばかりに帰ろうとしたのだが、ハルに腕をがっちり掴まれて逃げられそうにない。ですよねー。


「えっとね、ここににゅうがくしたくてやってきたの!」


 いつでも元気一杯のアイアが今回も物怖じせずに返答した。警備員は天真爛漫な彼女に相好を崩すが、すぐに顔を引き締めた。


「いやいや、入学って言ったって入学金とか授業料とかいくらするんだよ。俺達にそんな金あるわけないから無理だろ」


 飲食店の経営をしようって話になった時も、そのせいで断念してバイトで妥協することになったんだ。その後も生活費を稼ぐだけで手一杯で、全員が入学できるような余裕なんてあるわけがなかった。

 だと言うのに、ハルは妙に自信満々な表情をしている。


「抜かりはないです。ここは入学試験に3つのコースがありまして、その中の『勇者コース』に合格すれば在学中にかかる費用は全額国が負担してくれます。いわば、特待生のようなものですね」

「勇者コースぅ?

おいおいお嬢ちゃん、悪いことは言わねえ。入学したいならそのコースは止めときな」


 彼女の言葉に再び訝しげな顔をする警備員。

 何でも『勇者コース』とは本当に狭き門で、合格率は100人に1人―それも、武術や魔術に秀でた者100人という意味だ―という難関で、毎年10人程度しかその門を潜れていないらしい。

しかも、それはあくまでも『勇者のたまご』として認められただけで、殻を破れるのはその中でもほんの一握りだそうだ。


「問題ないでしょう」


 試験がいかに難しいか滔々と語ってくれたのに対して、一言で切り捨てるハル。ばっさり過ぎて清々しいほどだ。


「ファメアはいいのか?その、勇者なんだぞ?

やっぱ色々まずいだろ。きっとそうに違いない。そうだと言ってくれ!」


 ここに来てからずっと黙っていた女の子、ファメアに一縷の望みをかけて訊ねる。この子は魔王城でロリコンに襲われそうになっていた、魔王の娘だ。

 覚えているだろうか、ハルが魔王と約束したことを。魔王が死んだことで遺言レベルにまで拘束力が強まった約束を守るため、彼女は俺達の旅に同行することを決めたのだ。

 ハルはハーレム要員が増えたとか言って喜んでる風だったし、アイアはよく分かってなさそうだったけどとりあえず楽しそうにしていた。

 でもよく考えてほしい。彼女の父親は魔王で、それを倒したのは俺だ。加えて彼女の口ぶりから察するに、どうやら父親が殺される瞬間を見ていた可能性もある。そんな親の仇同然の奴に恨みこそすれ、好意を寄せることなどあり得ないだろう。

 ハーレムとか言っておきながら実際はこの様だ。テンプレの願望を叶えるためなら力技でごり押しするくせに、こういう根本的なところを解決できずに妥協するからどこか中途半端で残念な感じになるんだよなー…(遠い目)


 さて、愚痴はこれくらいにしておいて彼女の話に戻る。そういう経緯で俺たちのことを恨んでいるかもとか思ってたんだが、ここまでの旅でギクシャクした雰囲気はない。思い切って聞いてみたことあったが『覚悟は出来ていたから気にしていない』とのことだった。その時くらいかな?胸のつかえが取れたようになって普通に接することができるようになった。


 さて(2回目)、これ以上長々と彼女の説明をするとさっきの質問の内容を忘れてしまいそうになるのでここまでにしよう。

 俺が危惧したのは、勇者という魔王の天敵みたいな奴が集まるところに行くのは嫌なんじゃないかと思ったからだ。ついでに彼女の意見を盾になんとかこの中には入らない方向へ持っていこう。


「いえ、私自身にはこれと言って悪感情はないので大丈夫です。気遣ってくれて、嬉しい…です」

「う、うん。大丈夫そうで安心したよ…」


 ファメアからの感謝の言葉に良心がチクチク痛む。ごめんよ、気遣いから言ったんじゃなくてごめんよ………俺はなんて汚いやつなんだ!将来、こんな人間にはなりたくないと思っていたのに!


「問題なさそうですね。ではとっとと試験会場へ向かいましょう」

「ごーごーれっつごー!」

「お前らはほんっとブレないな!」


 目的のためなら何だってする(妥協も可)彼女達に引っ張られるままに足を運ぶ。何も起こらなかったらいいんだけどなあ…


◆ ◆ ◆


 私は、運命を呪います――


「――その心臓はさぞ立派なアイテムとして私の役に立ってくれるでしょう!」


 彼の謀反を知り、私は死を覚悟しました。魔王の娘としてそれらしいことは出来なかった私ですが、そして、裏切り者と敵しかいない場所でしたが、せめてみっともない姿は見せないでいようと潔く死を受け入れました。


「――さっさとその子から離れろ」


 しかし死の運命は、私の前に現れた王子様によって切り払われました。あの時の彼の凛々しい声や精悍な立ち姿は、今でも目蓋を閉じればはっきりと思い出せます。

 でも――ああ、なんということでしょう。彼は私の王子様であると同時に、私の大好きなお父様を殺した者でもありました。

 お父様が倒される可能性は、悲しいことですが覚悟もしていました。ですが、どうしてお父様を倒したのが彼だったのでしょうか。もし彼より先に勇者が到着していたら、せめてお父様を倒すのが彼じゃなかったら、こんなにも悩まなくて済んだのに…


「――であるからして、怪我の心配なんかせずに思いっきりぶつかって来い!」


 試験官の言葉で物思いに沈んでいた思考を引き上げました。そうでした、今は入学試験の真っ最中です。試験内容を説明してくれていたみたいですが、ごめんなさい。全く聞いていませんでした。

 恐らく目の前の試験官と戦って勝てば合格…でいいんでしょうか?それとも難関と言われる試験なのですから、圧勝しないといけないんでしょうか?果たして私にそんな大それたことができるのでしょうか…?

 そういえば、彼はこの学園の教師…ですよね?だとしたらあの勇者を教えることもあったはずです。

 …もし、彼が勇者達をもっと強くなれるよう指導していたら………そう思うとなんだか腹が立ってきました。もちろんただのやつあたりなのは十分に分かっています。ですがそう思わずにもいられない。

 彼の言う通り、このモヤモヤした鬱憤を晴らすべく全力の魔法を使うことにしましょう。

 恐らくあの試験官は私みたいな子供に、ハルやアイアには足元にも及ばない程度の私に、どうこうできるような相手ではないでしょう。やつあたりくらいは許してください。


「炎熱の地獄より生まれし業火よ、世界を染める大いなる劫火よ、今ここに顕現し我が鉄槌と成せ!バーン・イン・ヘル!」

「――え?」


 詠唱が終わると同時に私の遥か頭上で漆黒の穴がぽっかりと口を開けました。そこからコップの水が零れるように止め処なく炎が吐き出され、辺りを無差別に燃やし尽くします。よかった、成功した。

 試験官が何か言ったような気もしましたが、それは燃え盛る業火によってかき消されました。


◆ ◆ ◆


 円形に広く取られた競技場。そこには今、2つの人影が浮かぶ。

 1つは大きな男。最低限体を守れるくらいの防具を着ていて、それ以外の部分からは逞しい筋肉と幾つもの傷跡が見て取れる。まさに歴戦の勇士といったところだ。

 もう1つは絶世の美女。人を寄せ付けない冷淡な雰囲気を放っているが、魅了されそうな美貌に抗える者は例え同性であってもいないだろう。溜め息が出そうなほど見事なプロポーションは、無骨な防具を纏っていても尚美しいと感じさせられる。

 ありきたりではあるが美女と野獣と形容するのがぴったりな2人はそれぞれに武器を持ち、対峙していた。


「試験内容は簡単だ。俺と戦ってお前の戦闘力を見る。おっと、その前にここの説明をしねえとな。

ここには特別な結界が張ってあって、受けた肉体のダメージを精神のダメージへと変換することができる。まあ簡単に言うと、ここではどんな攻撃を受けても死ぬことはないってことだ。もちろん痛みは感じるがな」

「それはテンプレポイントに計上されそうな装置ですね。侮れません…

ところでこれは勝てば合格でいいのでしょうか?」

「………ガハハハハ!それくらいの威勢は見せてもらわなくちゃなあ!

ああ、俺に勝てたら間違いなく合格だ。この試験を受けるからには相当な実力があるんだろうが、上には上がいるってことを教えてやるよ。勝てなくても内容次第では合格できるからドーンとぶつかって来い!」


 美女の挑発的な言葉に一瞬きょとんとしたが、大口を開けて笑う。そして犬歯をむき出しにして挑発的な言葉を返した。

 美女の方は無言で頷いたあと『では遠慮なく』と呟いて詠唱を開始する。


「おんぽこぽこ…けさらんぱさらん…」


 非常に緩慢な動作で奇妙な踊りを始めるハル。感情が抜け落ちた表情、おかしな呪文、意味不明の踊り、その全てが相乗効果を発揮し言い知れぬ不気味さを放っていた。

 呆気に取られ変な汗を噴出す試験官だったが、時間が経つにつれ彼の額を流れる汗はその意味を変えていく。原因は彼女の背後に浮かぶ無数の魔方陣だった。そして信じがたいことに、今も尚その数は増え続けている。

 彼の人生の中で、大魔術師と称されるような人物に出会ったことは数える程だがないわけではない。だがそれでもこんな非常識な魔法は知らない。魔法について詳しくないが、これはあまりにも常軌を逸している。


「ほいさ………飽きましたね」


 飽きたと言っていきなり詠唱を止める。しかし魔法陣の増加は未だに止まっていない。その事実に試験官はまたも目を見開いた。これだけの魔法を行使していながら、その上無詠唱で行っているなんて人間離れも甚だしい。

 非常識な出来事に鼻白んだ彼は、キョロキョロと辺りを見回すだけで何一つ対策らしい対策を打てていなかった。やがて2人を取り囲むような半球状のドームが形作られて、ようやく魔方陣の増殖は止む。だがそれで終わりでないことは、魔方陣の中央が一斉に輝き出したことからも明白だった。予想に違わず魔方陣からは光の弾が発射され、辺り一帯を白に染め上げた。


◆ ◆ ◆


「――ということなので、ここではどんな攻撃を受けても死ぬことはありません。

………分かりましたか?」

「わからなかったです!」


 試験官はがっくりとうな垂れた。彼が説明を始めた瞬間から彼女の頭に無数の疑問符が浮かぶのを幻視して、嫌な予感はしていたのだ。そもそもなんでこんな子供が、と彼は零す。確かにこのコースでは年齢制限は設けていないが、それでもこんな子供が合格できようはずもない。はっきり言って時間の無駄だ。唯一の救いは彼女の太陽のような笑顔に、この鬱屈した思いも綺麗さっぱり洗い流されたことくらいだろう。原因も彼女なのだが。

 やれやれと肩を竦めると、今度は彼女にも分かるようにかなりの部分を噛み砕いて説明する。


「つまり、怪我をすることはないので自分の持てる力を尽くして…えっと、君の本気を見せてくださいってことだ」

「はいっ!がんばります!」


 返事だけはいいんだよなあ…と彼女の天真爛漫さに口元が緩むのを隠せない。まあこんな子供にこっちから仕掛けるわけにもいかないから、結界の意味も薄そうだなと考える。適当にあしらって終わりにするかと適度に脱力しながら構えを取った。

 ある程度気を抜きながらも彼女の挙動をつぶさに観察しているのは、彼が試験官として、戦士として優秀な証拠だろう。

 だから油断などありえなかった。しかし彼女の姿を見失ったのも事実だった。彼女の体がブレたと思った瞬間、影も形もなくなっていたのだ。

 そして不意に感じる背後からの気配。と同時に横殴りの衝撃が彼を襲い、まるで紙切れのように吹き飛ばされた。そのまま数十メートルの空の旅を経て競技場の壁に衝突する。結界がなければ今の一撃で即死だった。全身に走る激痛がそう告げてきて背筋が凍る。せめて何が起きたのかだけでも理解しないとまずい。

 そんなことを、軽い脳震盪に似た症状を起こす頭で考えられたのはさすがと言うべきだろうか。しかし結果から言うと、その行動は全くの無駄に終わった。彼が頭を上げた時には何か大きな物が視界の殆どを埋め尽くすまで差し迫っており、それが何なのかすら知ることは出来なかったのだ。

 そしてゴンッという鈍い音と共に彼の意識は闇に沈む。


◆ ◆ ◆


「医療班、何人かこっちに来てくれ!」


 切迫した声が会場に響き、医療班っぽい人たちは不思議そうに互いを見たあとその内の2人が走っていった。

 なんか忙しそうだなーくらいにしか思わなかったが、周囲のざわめきは更に大きくなる。…え、中止になるかもしれない?いやいや、ここまできてそれは困るんですけど。俺もざわざわした。


「誰が喋っていいと言った?

不足の事態が起こったがこちらにはなんも支障もない。予定通り試験を続ける」


 偉そうな人が出てきてみんなを黙らせたあと、受験生を呼び出す。

 さっきの不足の事態に対して落ち着きは取り戻したものの、元からあった緊張感が再び会場を包む。俺も緊張してた。

 あいつらは難なく合格できるだろう。だけど俺にはちょっとした不安があった。それは――


「次!1850番から1899番まで!」


 ――受験生50人のチーム戦なのだ。

 俺が受けているのは『勇者コース』ではなく、『従者コース』というものだった。全員・・を入学させるための金はなかったが、1人たりとも入学する金がないとは言ってない。つまりそういうことだった。

 『従者』とはRPGで言うところの勇者の仲間だ。こっちは受験人数が多いということと、協調性を見るためにこの方式を取ってるらしい。そして協調性こそが俺にとっての鬼門だった。

 だって部活はずっと帰宅部だったし、異世界に来てからこっち一度も仲間と一緒に戦ったことなどない。急にチーム戦とか言われても無理な話なんだよ。

 こういうところでてんやわんやする俺も、なんだかんだ言ってチートの上に胡坐掻いてたんだなと実感する。俺も俺でごり押ししてたんだな…


 移動した先は、体育館に似た施設で中に入ると防具を身につけた男が2人、待機していた。


「向こうで説明されたと思うが、ここは特殊な結界を張ってあるわけではない。各自で危険と判断してリタイアなりするように。

その前にふるい落としをさせてもらうがな!」


 そう言った瞬間、微妙に押される感覚があった。あ、これ威圧ってやつだ。といっても魔王と戦ってなかったら気づかなかった位の細やかなものだ。この程度で一体何がしたかったんだろうと周りを見たら、俺を含めて3人以外は全員気絶してるか蹲っていた。

 …いやいや、覇王色の覇気かよ。


「立ってられたのは3人か…最近は気合いの足りない奴が多すぎるな。

おい!気絶してない奴らも戦う気があるならさっさと立ち上がれ!それくらいは待ってやる!」


 そう言ってくれてるのに、次々と辞退していく。そんな遠慮しなくてもいいのに…

 結局2人増えて5対2での戦闘が始まったんだが、さて困った。特殊な結界とやらが何なのか分からないけど、本気でやろうものなら大惨事になること請け合いだろう。かといってみんなは合格してるだろうに、俺だけ合格できませんでしたっていうのも辛い。

 そりゃ最初は嫌がってたけど、ここまで来たらそれはそれでキツイものがある。

 しょうがないので、誰かが攻撃を貰いそうになったら庇うことにした。だがこれがなかなか難しい。一方を庇えばもう一方でやられて、を繰り返される。みんなが弱いのか、試験官が強いのかは知らないけどもうちょっと持ちこたえようよ…

 なんか便利なスキルはなかったかな、と思うが目を離した隙にやられそうでそれもできない。そうこうしている内に、俺以外の全員がやられてしまった。…残念だけど、気絶してるだけだしいいか。


「防御に特化しているのか…?だがそれらしいスキルを使っている様子もない。まったく、おかしな奴だ…」

「さて、お前1人になったがどうする?リタイアするか?」


 さすがにそれで合格できるとは思えない。代わりに、ちょっと浮かんだことを提案してみるか。


「あのー…ちょっと提案なんですが、2人の全力を受け切れたら合格ってことにはなりませんかねえ?」

「何…?それくらい防御に自信があるということか…

いいだろう。約束はできんが検討はしてやる。ただし、防御しかできないというなら、本気を受けきってもらわないと評価のしようもない。死んでも文句言うなよ?」


 腰に提げていた剣を抜き放って力を溜め始める。…え、武器ありなんですか。いやでも魔王の攻撃にも耐えられたんだから大丈夫なはず。あれはどっちかっていうと魔法みたいだったけど…だ、大丈夫だよな…?

 い、一応防御スキル取っておこうかな――


「受けきってみせろ!いくぞ!鉄斬刃!」

「いやちょっと早くないですか!?まだ準備がぎゃあああああぁぁ…ああ?」


 また似たようなリアクションをしてしまった。だけどしょうがないじゃないか。『鉄斬刃』とか言って肩口から袈裟切りにしようとして、刀身の方ががぽっきりと折れてしまたんだから。剣の方が折れてどうするんだよ。こっちはまだ何もしてねえよ。


「………えっと、じゃあこれでいいですか…?」

「あ、ああ…」


 言質を得るとそそくさと去ることにした。攻撃には耐え切れたが、気まずい雰囲気には耐え切れませんでした。ウマい。


◆ ◆ ◆


 とある部屋に大きな円形で囲われた机があった。椅子の数は12。だがそこへまともに座っている人間は少ない。その部屋にいた数人の男女は、ある者は机に足を投げ出して座り、ある者は机の上に座り、みな思い思いの格好で着席している。

 そこへノックと共に1人の男が入ってきた。


「さてみなさん、今日はお集まり頂きありがとうございます。司会は私、五天七星が1人、序列7位のハンス・シュミットが務めさせて頂きます」

「おいおい、まだ全員揃ってねえだろうが。自由参加だってえなら俺も帰らせてもらうぜ?」


 司会の言葉を遮って、乱暴そうな男が前傾姿勢になって発言する。さっきまで机に足を投げ出していた者だ。


「いえいえ、これで全員ですよ。まず序列1位のレオンさんはじめ、8位のバルカスさん、12位のミリアさん、そして五天七星ではないですがセラフィーナさん。この4人は魔王討伐の後、また遠征に旅立っておられます」

「はんっ!1位の勇者様はお忙しいことで!」


 乱暴そうな男の言葉に暗い笑い声が追従する。だが司会はそれを無視して話を進めた。


「そして序列4位のフラーノさんは西で起こった戦争に遠征してからというもの、引きこもりが続いております」

「引きこもりで欠席が許されるなんざ、五天の皆さんは随分といい身分なことで」

「おい、さっきからうるさいぞ。ちょっとは黙ったらどうだ」


 姿勢よく座っていた男が立ち上がり乱暴そうな男を睨む。その手は腰に差してある剣を掴んで今にも抜き放とうとしていた。


「あ?でかい口叩くじゃねえか。この学園で10番目に強いお前が、序列6位の俺様に利いていい口かどうかよォく考えてから言ってんのか?」


 対する乱暴そうな男は、座ったままで殺気を押し返す。こちらは武器こそ出していないが、いつでもやり合えると余裕の態度を崩さない。一食触発の空気が流れる。


「いい加減にやめんか。そんなに暴れたいなら…我が2人同時に相手してやってもよいぞ?」


 机にしなだれかかるようにして座っていた女が割って入る。気だるそうな表情こそしているが、その瞳に宿る剣呑な光に言い争っていた男達はぐっと唾を飲み込む。乱暴な男は『化け物が…』と呟き再び机の上に足を乗せた。もう1人の男も冷や汗を流しながらスゴスゴと座った。


「さて、煩い野次もなくなったと信じてさっさと進めてくれんか?どうせこの時期に集まるといったら試験のことじゃろ?早く終わらせて部屋でゆっくりしたいのじゃ」

「え、ええ。では単刀直入に…今回の入試で試験官に勝利した者が現れました」


 ほう、という息遣いが聞こえ部屋にいた者の半数以上が身を乗り出した。その中には先程険悪な雰囲気になった2人も含まれる。


「試験官を倒すとは、随分久しぶりに強そうな奴が現れたじゃねえか」

「いえ、正確には『奴』ではなく『奴ら』ですね。試験官を倒して合格した者は3人なんですから」


 今度はほぼ全ての者が身を乗り出した。残りの者も大きな反応は見せなかったが、興味深そうに耳を傾けている。


「伝聞なので情報は多くないのですが、3人共とてつもない力で圧倒したようですよ?」

「へっ、てことはそいつら全員『こっち』に来てもおかしくはないだろうな。序列10位以降のお前らは気が気じゃないだろうけどな」

「くっ…」


 話を振られ悔しそうな顔をする3人。そこへ急に席を立つ者が現れた。勝気そうな顔をした女だった。


「ちゃんとした強さが分からないなら興味ないわね。もういいでしょ?早く汗を流したいわ」

「確かに。面白い話ではあったがそれだけじゃな。我も帰らせてもらおう」


 彼女に続き、気だるそうな女も席を立つ。2人に引きずられるようにしてちらほらと席を立つ者が現れる。

 司会はやれやれと肩を竦めて、残った者で会議を再開した。


「さて、では『従者コース』の合格者ですが――」

今回のテンプレポイント

食堂…+3点

内政…+3点

戦記…+4点

SF…+3点

ほのぼの…+3点

奴隷…+2点

戦争…+4点

悪役令嬢…+6点

成り上がり…+3点

(以上は概要のため各-2点)

学園もの…+8点

巨人に蹴り破られそうな壁…+2点

お嬢様学校に庶民サンプルとして拉致…+2点(未遂のため-3点)

テンプレポイントに計上されそうな装置…+2点

けさらんぱさらん…+1点

覇王色の覇気…+2点

ウマい。…0点

謎の集会…+4点


短評:怒涛のようなテンプレラッシュですね。元々のポイントが高いため、減点されてもいい点数をキープしています。これはいい手ですね。

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