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どうやら俺は魔王になるらしい

前回のテンプレポイント

ハーレムのようなスキル制で魔王をワンパン、日本刀が武器に変身し魔王になる

 魔王城の一角で突如、黒い光の柱が立った。その柱は雲を貫き、先端が見えないほど高くそそり立った。

 光の柱が出現したのはほんの数秒だったが、人々の心を絶望の淵に追いやるには十分だった。魔王の恐怖に怯える街や村は、辺境に行けば行くほど混乱の度合いが大きいものになっていた。

 人智を超えた強大な力を目の当たりにした人々は大きく分けて、勇者達に全てを押し付けてしまったことを激しく後悔する者と、こうするより他はなかったと開き直る者がいた。

 てんでバラバラな考え方を持つ人々だったが、勇者達の無事を願う気持ちは皆同じだった――


◆ ◆ ◆


「ク…ククク…!なんて素晴らしい力だ。笑いが止まらんぞ!クハハハハ!」


 魔王の心臓を食べて強大な力を得たゲウィヴは、彼の行使した魔法がもたらした結果を見て酔いしれる。

 空を覆っていた雲は光の柱が通ったところだけを円形にくり貫かれていて日の光が差し込んでいた。 魔王城は半壊の憂き目に会い、瓦礫の山が積みあがっている。

 瓦礫の中には薄く輝く光の膜があった。半球状の膜は瓦礫を押しやり、中にいるものを守っているようだった。瓦礫の中、そこにいたのは勇者達だった。彼らは皆、一様に蹲っている。


「くっ!障壁の上からでもこのダメージか…!セラの障壁が間に合わなかったらどうなっていたことか…」

「おや、まだ息があったか。ククク…よく今のを耐え切れたな。だが私は全力の半分しか使っていないぞ?

…クハハハハ!あの四将軍を倒し魔王に差し迫ろうかという勇者ですらこれとは!

私の元々の力と魔王の力が組み合わさったのだ、このくらいは当たり前というものか?クハハハハ!」


 その時、彼の背後で何かが動いた気配がした。それが何か見当が付いている彼は、ニヤリとほくそ笑みながら緩慢に振り返る。

 彼の視線は物陰から姿を現した1人の少女を捉えていた。


「これはこれは、ファメア姫様。こんなところにどうされたのですかな?」

「………全て見ていましたよ、ゲウィヴ…お父様の信頼も厚かったあなたが…どうして裏切ったのですか!?」

「裏切る?姫様は何か勘違いしていらっしゃるようだ。私は裏切ってなどいませんよ。…最初から魔王の心臓を狙って近づいたのですからね!

それだけではありませんよ。あなたも魔王の資格を受け継ぐ者、その心臓はさぞ立派なアイテムとして私の役に立ってくれるでしょう!」


 恐怖に支配されたのか、身じろぎ1つしない彼女にゲウィヴの手が迫っていき――

 バガン!と大きな音が彼の手を止めさせた。


 彼が振り向き様にまず見たのは、一際大きな瓦礫が勢いよく飛び上がり天高く宙を舞っているところだった。そして視線を下に落とすと、3人の男女が何事もなかったかのように立っていた。


◆ ◆ ◆


「レイタ~ハルぅ~真っ暗で何も見えないよぉ~」

「これも状態異常か?まさか試し打ちで状態異常の攻撃をしてくるとは思わなかったな…まあ安全っちゃあ安全か」


 何かプラスチックみたいな硬いもの(見えていない)が降ってきて邪魔だったからどかすと、結局真っ暗闇だった。アイアが抱きついてくる感覚はあるんだが、そんな目と鼻の先にいても姿を見ることができない(見えなくても可愛い)。

 不思議な感覚を味わっていると、急に視界が開けて普通に見えるようになった。…って、なんじゃこりゃ!?建物ぶっ壊れてるぞ!


「お察しの通り、今のが暗闇ですね。こちらも暗闇耐性スキルで無効にできます」

「また状態異常判定に引っかかった感じか…」


 幾らなんでも運悪すぎね?これだからチートとか言われてもいまいちピンとこないんだよなあ…

 どんよりした気分をアイアの頭を撫でることで切り替えて状況を把握すると…

 ゲウィヴとかいうおっさんが、アイアくらいの小さな女の子にいたずらしようとするところでした。

 うわー…引くわー…


「ふ、ふん。今ので何ともないとは、なかなかやるようだ。

…おい、何故そんな蔑んだ目で私を見ている?」

「うるさいわ、このロリコン野郎め。さっさとその子から離れろ」


 刀に変身したアイアを持って言う。え、俺?…俺のどこがこの変態と同類だというんだ。

 またしてもアイアが『ワンパン』と連呼してくる。頭の中でガンガン響いてちょっと気分が悪くなってきたかも。

まあその程度なら問題ないので、ゲウィヴにタックルをかまして吹っ飛ばした。女の子が近くにいて攻撃しにくいんだよ。立ち位置考えろよこのロリコン。


「ゲフッ…!き、貴様!私を怒らせてただで済むとおぼあああぁぁぁ!」


 予想通り、何の抵抗もなく真っ二つに切れた。前回は簡単に切れると思ってなくて殺してしまったけど、今回は殺すつもりでやった。ためらいなくやれた自分に少し驚くが、外見が人からあまりにもかけ離れていたからかなと深く考えるのはやめた。どうせ変に悩んでても『テンポが悪い』とか言われるだけだしな。

 今後一切、気にする描写とかはないから忘れてくれていい。俺も忘れよう。


「ところでレイタ、前から思っていたのですがスキルは使わないのですか?」

「は?………ああっ!完全に忘れてた!」


 そういえばスキル一覧を見ようとした時にアイアに急かされて、そのあとも色々あって忘れてしまってた!ハルが『○○耐性』とか言ってたのになんでその時思い出せなかったんだよ…なんだかんだ言って相当緊張してたのかな?

 俺の予想通りなら、スキルとは魔法や特殊な戦闘モーションだけじゃなくてステータスの底上げや戦闘の補助的な役割を持っているんだと思う。それを全く使わずに勝てたとか…まあ、今回は勇者がいい噛ませ犬になってくれたからある程度は強かったんだろう。


「さて、勇者はあんな調子ですし、魔王になるのはこれでおしまいにしましょう。次はどこへ行けばいいですか、アイア?」

「気付いてはいたけど上澄みだけを掬っていく感じなんだな…」

「うーんとね………あっちだよ!」

「では行きましょう。遠いようであれば、またテレポートをお願いしてもいいですか?」

「うんっ!まかせて!」


 ああ、笑顔が眩しい。彼女の案内は、もはや俺の確認要らずとなってトントン拍子で進んでいく。いや、反対したら悲しそうな顔をするからしないんだけどさ。『もうお前反対しないからいいよな?』とか言外に言われた気がしてなんか腹立つ。


「れーた、早くいこーっ!」

「レイタ、テレポートしますよ。準備はいいですか?」

「…どうせ準備も覚悟もできてなくても関係ないんだろ!どこへでも行ってやるよ!」


 どこへ行ってもまともな旅にはならないだろうなと諦めつつ、かといって今更別れるという選択肢もない俺は、心のどこかでこのめちゃくちゃな旅を楽しんでいるのかなとか考える。

 アイアが可愛らしい声で詠唱するのをBGMにふと空を見上げる。分厚い雲で覆われた中に、ぽっかりと開いた穴から一筋の光が差し込んでいた。


◆ ◆ ◆


 とある村のはずれから耳をつんざくような音が響いてきた。魔王の恐怖に怯える村人は、すわ魔王の襲撃かと恐れ慄いたが、待てど暮らせどモンスターが襲ってくることはない。

 いつまでもこうしてはいられないと、村の中でも勇敢な者達が物音の出所を確認しに行くと、そこには大きな岩のようなものが地面につき立っていた。周りにできた大きなクレーターが、その時の衝突の凄まじさを物語っているようでもある。

 限られた情報ながらも村人達は、先程の黒い光の柱に関係すること、つまり勇者と魔王の戦闘によるものだと推測した。だがそう推測したはいいものの、どう戦えば岩が飛んでくるのだと驚くと同時に魔王ひいては勇者の強さを改めて思い知る。

 この衝撃的な話は瞬く間に周辺の街や村に知れ渡り、岩を吹き飛ばした張本人の耳にもすぐに届くこととなる。ただし、それが自分のしでかしたことだと思い至る日はついぞ来なかったのだがそれはまた別の話――


◆ ◆ ◆


 激しい戦闘の跡と共に取り残された勇者一行は傷ついた体を癒すため、しばしの休息を取って王都へと戻った。

 勇者帰還の一報はすぐさま街中の人々が知るところとなり、彼らの凱旋を一目見ようと大通りには人で溢れかえっていた。やがて現れた彼らを見て、人々は息を飲む。

 彼らのぼろぼろになった装備は、魔王との戦闘がいかに激しかったかを想像させた。そしてなにより彼らの顔に浮かぶ釈然としない表情が、人々の心に言い知れない不安を感じさせた。

 彼らが帰ってきたということは、魔王を討伐したかそれに準ずる打撃を与えたと考えて間違いないはず。だというのにあの晴れない表情はどうしたことか。そう考える者は少なくなかった。しかしそれはほんのひと時のことで、魔王の恐怖から脱することができた喜びに塗り替えられる。その日の勇者達の晴れない表情は、忘却の彼方に追いやられてしまった。


◆ ◆ ◆


 謁見の間。

 勇者帰還の知らせを受けたゼムヴェク王は彼らが現れるのを今か今かと待ち受けていた。

 程なくして姿を見せた勇者達。彼らの口から魔王が死んだと聞かされてその場に居合わせた者達は、誰1人として欠けることなく帰ってきてくれたことと合わせて手放しで喜んだ。次いで語られた詳細―魔王の部下の裏切りや、不気味な黒い光の柱の真相など―を聞くと一同は騒然とし、彼らの無事を改めて喜んだ。


「――しかし、魔王とその心臓を食らった幹部か…それらを倒したのが全く別の者だったとは…

このことが知れ渡るとまずいだろうな?」


 ゼムヴェク王が隣に控えていた人物に問いかけると、その者は即座に『当たり前です』と返した。彼は詳しく説明するため、更に言葉を重ねる。


「魔王を倒したのが勇者殿ではないと知られれば、勇者殿の力量を疑われることとなりましょう。それは同時に陛下の信用も揺るぎかねず、今後どのような混乱を招くか分かりません。

事実を曲げてでも勇者殿が討伐したことにするのがよろしいでしょう。あなた達もそれでいいですね?」


 勇者達からすれば、今の話は素直に喜ぶことはできないことだ。しかし自分達に不利益があるというわけでもなく、国民のためといわれれば頷く他ない。そうなることが分かっていたからこそ釈然としないのだ。

 腑に落ちないながらも了承してくれたことに国王一同はほっと胸を撫で下ろした。


「では今後、このことについて他言することを禁止ずる。

さて、今回のこととを抜きにしてもお主達はよくやってくれた。報酬などの処遇は追って沙汰する故、今はゆっくり休んでまた学園生活に戻ってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 勇者達の退出を見守ったあと、ゼムヴェク王はふう、と息を吐く。それは安堵の吐息でもあったし、嘆息の意味もあった。魔王討伐…とまでいかないものの、それに比肩する偉業を成してくれたのは喜ばしいことだ。今回は他の者に倒されたが、彼らも魔王を倒す実力はあっただろう。

 だがいくら実力があったとはいえ、まだ若い者達に人類の命運を賭けてもよかったのだろうかと思ってしまう。

 彼らのような人材を育成する、その実現に深く関わった時から常に自分に問い続けてきた問題は、未だに答えが出る兆しもなかった。

今回のテンプレポイント

ロリコン…+1点

ワンパン…+1点(2回目以降は全て1点)


短評:前回、前々回の頑張りの反動でしょうか、今回は随分とポイント数が低いですね。今回は充電期間として、次回からまた頑張りましょう。

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