89! 無題
「全くわからないのかー!」
クレタは驚き、彼女を呆れた目で見た。
「仕方ないなー。んじゃあ、教えてやるよ。」
クレタはだらだらと喋る。
「…僕が見つけたときはもー誰もいなかったからさ。君しかいなかったしー。君は血も出していたしー。運ぶのにもまあ、きついほどではなかったけど、めんどくさかったよー。」
彼女は疑問に思っていた事があった。それは、今まで隣に居てくれた彼の事だった。
「…コト君はどうなったの…」
「………。」
クレタは応えられなかった。知らない方が良いと判断しただろう。
「…彼は居なかったよぉ…」
ごまちゃんは涙目になりかけた。目の潤いが視界を邪魔する。拭いたかった。ただ、ある謎が生まれ、涙を垂らしながら疑問を持った。
「なんで…首飾りが…。」
「それは僕にも分かりませーん。」
クレタは馴れ馴れしい。正直、うざったい。
「何で…」
彼女は何も知らなかった。
「…これが、南方の首飾り…デュアルデルタ鉱石か」
ジェドは満面の笑みで首飾りを見た。
「…憎いな…しかしながら、これでコトを封印できたから…有用だな。」
コトはデュアルデルタ鉱石に封印されていた。目を瞑り、生気を感じられなかった。
(………。)
「ふん。結局はこの程度。ただの木偶の坊だ。」
「コト君を助けようとした人は居ないよ。それが普通に答えだ。」
ダルダルがそのまま部屋に入ってきた。
「ダルダルさん、お疲れ様ですー。」
「一体…何を…」
「お前は護られなければならない。しかし、コト君は違う。彼は忌まわしき存在。魔族の一員だ。結果として居なくなって良かっ!?」
駒玖裡沙として、彼女は許せなかった。それと同時にダルダルの頬を引っ張った。
「いつも慰めてくれた…」
「おい!」
「助けてくれた…」
「待て!」
「コト君を遠ざけて…喜べるわけがない!!」
ごまちゃんはダルダルを睨んだ。そこから涙もまた出てくる。
「おおお落ちついてよお!」
「彼奴が居なくなっただけ、マシじゃ。」
「ふざけないで!!」
「彼奴が居たから、お前もその様な気持ちで居るのではないのか!?」
ごまちゃんは一瞬目を見開いた。ダルダルは話し続けた。
「コト君もそうした方が良いと思う。彼奴は一人でも生きてゆける。ジェドに追っかけられ、捕まるのも、これまた定めなのだろう。貴様が囚われなくて本当に良かった。これで貴様は魔人達の由無し事から救われたのだ。」
ごまちゃんは黙った。目も暗い。
(…コト君……。)
(コト君………。)
(コト君……!!)
『…。』
ごまちゃんは途端に走り出した。唇も噛み締め、あたかも韋駄天の如き勢いで走った。
「お、おぉい!」
「ふん。」
(あの時のコト君は泣いていた。雫を垂らしていた。何も言わずに。呼びかけたのに無言のまま。嫌がられたかの様に私を見捨てて…。)
ごまちゃんはただひたすら走り、城壁を抜けた。この城の色、此処はグランらしい。
(一緒に居たかったんだ。自分だってそうだもん。一人だけは嫌だって。それを誰も思わない。)
ごまちゃんはスライムと出くわした。見るからに大きい。ただ、今の彼女は違った。首飾りが輝く。
(コト君から来ないなら、こっちから…!)
ごまちゃんは目の前のスライムを切り刻んだ。剣に光は帯びている。
(待ってて。コト君。………。)
空白の心に一つ、黒い心が混ざっていった。
彼女は世界も、彼も、追い続けた。




