86! 失われる物
一旦血を取って、包帯で巻いた。右膝に擦り傷を負ってしまったようだ。
(これで自分なりに応急処置はできた。身体は動けなくもない。気にしないほうが良いと思う。)
そう思い、ごまちゃんは身体を立たせた。
(今ならジェドを探知できる。この首飾りは多分、普通の人でも使えるかもしれない。でも、使い方が知らなければそれまで。宝の持ち腐れ。見様見真似だけどやってみるしかない。)
ごまちゃんはジェドの方へと向かった。しかしながら、彼女は疑問を持った。
(此処って…まさか!)
彼女は急ぎ、走った。ジェドの姿は直ぐそこにあった。
「来たか…」
ジェドは笑みを浮かべて彼女の目の前まで一気に距離を詰めた。それを、光輪を付けたコトが止めた。ジェドの胸部押し、仰け反らせた。
「うおぉぉ!?」
「魔王ジェド…アンタが魔王になりたかったのは知っていた。それは、俺が自ずから魔王の座を退いたから得られただけなんだ。自力で這い上がれなかった。ただ相手を下げて自分を上に上げただけ。ジェドが魔王の座に居座れたのは、奪って手に入れたから。」
コトは許さなかった。自分だけの理由ではない。ジェドは他にも何かを強奪し続けた。
「…何かを奪った時、その何かよりも大きな物を失うだけだ。覚悟しろ。魔王の名だけでなく、誇れる心も失くなると思え。」
ジェドは睨んだ。
(屑が…大きな物を失うだと…ほざけ。貴様の思っているほど矮小なものではない。魔王、ジェドはそれを持っているからこそ知っている。)
コトは後ろを振り向いて、ごまちゃんの顔を見た。
「…大丈夫だった?」
「…まだ顔が…」
「一人で行かせた自分が悪かった…」
コトは俯いて、咳をした。
「ゲホッゲフッ…」
「コト君大丈夫なの?」
「…まだ…でも今見ている通り、相手が居るし、今回は本気らしいし、逃げられない。逃げてはならない。そして、逃す気はない。そんな状況下で少しでも何とか身体を回復させたから…」
コトは光の輪を作ろうとしたその時だった。
「死にな。」
「!?」
「コト君!?」
背後から刃物が出てきた。何とか避けようとしたが頬に傷をつけてしまった。
「?…?………??」
コトは心を乱した。何処を振り向いても敵の姿はない。何が起きたのか。
「…ごまちゃんは見てた?」
「……ジェドがもう一人出てきた…」
コトは更に状況が分からなくなった。ジェドは目の前に居る。動きもある。
「おや…お困りか?」
ジェドは嬉しげに喋った。
「君の様な屑に教える魔法ではない。大きな物を失うのは愚人、コト、貴様だけだ。」
ジェドが突っ込んで来た。そこでコトは一旦冷静になって考えてみた。ジェドは再び笑みを浮かべた。
「今度こそ…死ね!」
やはりまた後ろからだ。コトはその声を聞き捨てずに、回し斬りをしてみた所、後ろの刃物の感覚を剣で捉えることができた。
「何!?」
後ろのジェドは思い切り低く吹き飛んでいった。




