83! 手段
(…!?何?移動し始めただと!?)
探知するとコトの如く気配が移動している。その上こちらに来るように。これは好機だと確信したジェドの身体に黒い帯が巻いてきた。
「誰だ!?後ろか!」
「いや、真正面よ!」
(…。)
イヅナの剣の一突きがジェドの胸を貫いた。その筈だったのだ。
「…漸くよ…やっと倒した…ジェド…あんたの様な奴はもう償いきれないから…あんたの所為でもう返らないものもあるから…殺しても…悔いはない。」
「その『ジェド』は…な。」
「!!!!?」
背後にもう一人のジェドが居た。イヅナは反射的に死体を背後に投げた。
「…確かに俺はもう償いきれない、返すこともできない。ただ、その必要はない。それだけだ。認められる理由として…魔王なのだからな…。」
「……。」
イヅナは睨んだ。忌々しき魔王、ジェドへの憎悪を向ける為に。
「この魔法は貴様らに使う様な安い価値のものでは無いのだがな…ウォーミングアップとして使わせてもらったぞ。しかし、此処まで上等な魔法をよく見つけたものだ。我ながら実に上出来だ!!それでやられた本人は強情で認めないだろうがな。」
「ふざけないで…」
軽い挑発に乗ったのか、イヅナはジェドの腕を思い切り掴んだ。何故か。骨が軋む様に酷い音がした。
「うおぉぉ!?」
彼女を直ぐ離した。ジェドは隙を作らず、直ぐさま細光線を放った。
(うっ…)
下へと落ちていく。その時、彼女の身体は石が落ちる様に速く降下した。
「…くそが…貴様の所為でまた零からやり直しじゃねえかよ…」
(まさかのまさかだとは思うが、オーク達にばれているのか…運が良いものだ、嫌なことに当たる運は本当に…)
顔を強張らせながらジェドは探知した方向に向かって移動を再開した。
息が荒かった。それでも走り続けた。貴族領に。
「クリスタさん…!」
コトはそこには居ない。一応安全な場所に置いていた。
「そっちに向かうしかない…」
(!?これはコトの魔力でない!?まさか…この俺の他にもあの首飾りを狙っていた奴が居たのか?この俺の邪魔をしやがって、許すと思うか!!)
((何かが近づいてくるけど、一体何なんだ!?))
ごまちゃんは一瞬目の前に剣が襲ってくる様子が見えた。殺気を察して先に迎撃しようとした。その動きは反射により、いつもより速く動けた。案の定だったらしい。
「何だ…誰かと思えばコトの愛妻か…」
「妻ではないわ…その上、呑気な話をしている暇もないよ!」
その時ジェドは彼女の胸部を大雑把に見た。
「…貴様に一つ聴きたい事がある。その首飾り…何処から手に入れた。」
ごまちゃんは口を固くしてジェドを睨んだ。
「あんたなんかに言う必要はないわ。」
「上手くいけば譲歩という手もあるが?」
「譲歩?」
ジェドは一度目を閉じ、首を縦に振り、再び目を開けた。
「旧魔王城での彼の治療と引き換えにそれを貰おうではないか…。」
「!?」
ごまちゃんはその話があまりにも唐突過ぎて驚いてしまった。




