82! 策
大火、ジェドはその様な残虐な存在をも従わせるほどの力を持っていた。自分が足で踏む場所に火が避けているのが証拠かもしれない。
(やはり、首飾りを持たねば何もかも意味がない!クソがっ!直々に行くしかないか…。)
しかしながら、最初から彼らの位置を知っている訳でもない。そこでジェドは考えた。
(早めに考えを済まさねぇと後にあいつらが追ってくるはずだ。…探知をするとしても、考えたな…奴らも本当に…
一般に、魔力のある奴は、または存在を知っている奴は少しだけ感じられる。ただ、出せる魔法は魔人によって大きく変わってくる。その上、そいつらと同じくらいの魔力を持たせた魔法を放つと、同族意識を異常に感じてしまう。今ここに居るオーク達は多分配分を一つでも間違えれば五匹も気付くだろう。おお恐ろしい。
ただ、今のこの魔王、ジェドの罠ですらない!所詮その程度だろうな!)
隠密に探知するにはやはり、少しだけ時間が欲しかったらしい。ジェドは高台を探した。
そこにはコトとごまちゃんしか居なかった。馬車を逃がして他の場に移動させた。なるべく建物の外で。
「…コト君?」
目は虚の目と化していた。あの時の目とは全く違っていた。コトは喋られなかった。
「…だから!」
ごまちゃんは彼を抱いた。本当に、今までよりも強く、握り締めた。
「一緒に居てって言ったのに!一緒に…居てって…」
コトには何も分からない。あれ程言ってきたのに自分から約束破って離れようとして、彼女はそう思っていた。また泣いている。以前と同じだ。いや、以前と全く同じでは居て欲しかった。
「…まだ分からないの…?」
ごまちゃんも目が虚になった。そこから少しの声も出さないまま、暫く時間だけが過ぎていく。
突然顔がコトの方を向いた。その瞬間だった。その時の彼の目は輝いていた。
「…ごまちゃん…」
「コト君!?」
「…最後だけど…」
「いや!最後じゃない!だから…」
「動かないで…」
「…。」
ごまちゃんは落ち着きを取り戻した。涙が溢れた。コトから顔を近づいて、接吻を交わした。
そこから分かったのはその温みがもう二度と感じられないものとなるという事だった。
「…。」
ごまちゃんは何の言葉も喋られなかった。コトの生命はまだあるはずと見た。それを考えれば、誰かに頼む必要があった。
『ご…めん……ね…。』
そういう顔だった。その様な顔だった。その言葉が彼女の心を貫いた。
(…コト君に結局、借りを返しちゃったまま…)
(…絶対に助けるから!)
(さてと…目的地は大体決まったな。)
ジェドは移動し始めた。




