79! 帰還
馬車はそろそろ冥府魔境を抜けるところだ。また魔獣が来ることを想定していつもより注意して周りを見ている。ごまちゃん達の護衛役のヘリオス、クレタは勿論、彼女も警戒していた。
コトはいつ起きてくれるのか。彼の事を思った。額に熱はある。やはり、温度差が原因かもしれない。
「…ゴマクリサさん…」
「…何ですか?」
「コトさんはやはり…無茶して」
「そうよ。」
彼女はコトを抱いていた。彼女にとって彼は掛け替えの無い存在であった。それに関してコトも唯一無二の渡り合える恋人を持っているとも言える。
「…言いようが無いよーだ。」
陰に隠れてクレタが聞いていた。
「コト君ならまだ生きてるんだもん…息もしてるもん…まだ一緒に居るもん…」
ヘリオスは彼女から目を逸らした。
街は盛んに動いていた。状況から炎によって全員が逃げようとしているとも言える。
「誰かぁ!!」
「あいつらは…一体何をやってるんだ!?見殺しにするつもりなのか!?」
オーク達はそう言った。そう思った。その中で少女は恐ろしく思い、そこから逃げていった。
「もう少しで着くと思います。」
「資料は最低限漁ったからな。明日にでもこの情報から奴らの居場所を見つける。」
ダルダルは偉そうに言った。ごまちゃんは眠りに着いていた。
「ま、多分コトが居たから…こんな羽目に会ったのかもな…奴等が狙っているのは彼だけだものな。更に、彼を過剰に頼り過ぎたのも…」
「そう悪く言わなくても…」
「事実だ。私達は以前にもこの様な感じになった事があった。」
「…柊の街…」
「それはそれこれはこれ。忘れたほーがいいですよーダルダルさん。皺がまた伸びますよー。」
「…くそ…重要な情報は何とか持ち去ったからな。」
ダルダルは結果に対して笑顔になった。
「もうそろそろですよ!」
パルタンが見えてきた。その真逆の方向を見ると真っ暗だった。そこは今にも此方に来そうな闇の空間であった。それに対してパルタンでは…非常に明るい光が此方に差していた。眩く、燃え滾る炎の如く赤い色をしていた。
「…?何だ?あれは火事なのか?」
「多分…もしかして!この大火事は!!」
ヘリオスは騎手に言った。
「もう少し速くできませんか!」
「あいよっ!荒くなるから気をつけるん、だっ!」
客席が上下に動いた。その音と炎の臭みによってごまちゃんは起きた。
「ひゃぁっ!」
彼女は馬車が揺れだしたことを知らず、急に大きく揺れたので思わず声を上げてしまった。彼女は周りを見た。
「え、一体何があったの?」
彼女は気がついた。
「コト君は?」
直ぐに彼の顔を見た。額はまだ赤いが、目を開けようとしていた所だった。
「コト君!!」
「ごまちゃん!…うぐっ!」
思い切り抱き締められた。今までよりも強く、きつめにされた。
「寂しかったよぉ!」
「わ、分かったから…」
「一応寝ておけ。コト君。まだ君は熱を出しているはずだ。安静にするのが此処は良いんじゃないのか?」
ダルダルが口を挟んできても二人は彼を無視した。ダルダルはため息を吐いた。




