73! 光輪の世界
ごまちゃんは頭を抱えながら体を起こした。目がぼやけており、意識が徐々に戻ってきた。
「…あんたは…もしかして!!」
ごまちゃんは女性に剣を突きつけた。
「…コト君には手出しさせない!!」
「待ちなや!!その女はバルディオスを倒したんだ!お前の為にな…。」
ごまちゃんはダルダルの声を聴いて剣を下ろした。
「あのさ!あんたの名前…聴いても大丈夫?さっきのは…」
「シルバ、コト君の姉。数日前にジェドを裏切った。実の弟、コトを助けるために。」
ごまちゃんは思わず口を開けてしまった。つまり、言い換えると『向こう側の世界でのコトの実の姉』だと具体的に言える。
「え、まま、まさかコト君のっ!!」
「そ。この世界でも、あっちの世界でも彼の姉。さてとそろそろ君の名前も聴きたいから、言っちゃってくれない?」
確かに、コトと皮膚の色も、顔つきも似ている。似ていないとすれば目つきと口先だ。妙にあひる口をしている。
「…駒玖裡沙…ごまちゃんって呼んで。」
「分かったわ。ところで、コト君の事について知っている前提で言うけど、コト君が何処に居るから知っている?」
「…。」
ごまちゃんはそれに関しては応えられなかった。そもそも場所すら分からない。
「一階ね…。ごまちゃん!…そっちまで行く?」
「…それは…少し後でも宜しいのでは?」
ダルダルは口を挟んできた。
「何でよ…。」
「純粋過ぎて申し上げにくいですが、彼とて魔王の名を持つ者。一人でもなんとか…」
ダルダルが言う途中に彼女らはもう出入り口の目の前にいた。
「おいおい、何処に行くつもりだ!!」
「ネオルが…そう言えば居たわね。彼女はおおよそ四階に居るはず。」
シルバは過去を頼りにネオルの居場所を言った。
「次の階に行くよ…私だけで!!」
シルバはこの書物部屋から出ていこうとした。ごまちゃんはそれを止めた。
「一緒に行こう…ね!!ダルダルさん!」
「ふん。まあ、いい。」
ダルダルは許可した。
「それじゃ、行こ!!」
二人は次の階へと向かった。ダルダルはたった一匹置いて行かれた。
「あ、ごめんなさい。」
ごまちゃんはダルダルの腕を掴んで先へ行く。
同刻、コトはバルフデの焔を避けながら闘っている真っ最中であった。彼は小さな瓦礫を持って、ゲルニオに投げた。
「ちみちみとうざってぇんだよ!!」
コトはゲルニオの魔法を簡単に避けた。そして、ゲルニオは激怒した。
「ふざけんな!!テメェなんかに…テメェなんかに!やられるなんてあり得ねえ!!コトごときが俺らを倒そうとする事自体現実から遠すぎて呆れる!徹底的に潰してやる!!」
コトは彼の言葉にすら反応しなくなった。馬鹿にするようなことすらしなかった。
「失せろ…」
次に何かを言いたがったが、コトの姿を見失ってしまった。正面に居たはずであった。ゲルニオは鋭い視線を察した。重い眼差しが彼の心を刺した。ゲルニオは顔を真っ赤にした。そして、隠していた短剣でコトを突こうとした。ゲルニオは勝利を確信した。
(これで勝った!!)
コトは自身の両手首、両足首に光輪を付けた。コトからはゲルニオがほぼ動いていない状態であった。その魔法は彼以外の全てが光速分の一の速さになるものであった。その状態でコトは剣を引き光速の連続突きを浴びさせた。
「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
現実では光速二つの積になる。ゲルニオには全く感じられない筈だ。万をも容易に越す。そして、最後の一撃に持ち手でゲルニオの胸部を叩いた。
「…これが…『逃がさない』…という事だ…あんたは魔王の格を…魔法を…安く見過ぎなんだ。」
輪は消えていく。そして、周りも動き出した。
「うご…エァアアアアアアーッッッ!!」
ゲルニオは、コトから遠くまで飛んで行った。そして壁に叩きつけられ、皮、肉、骨は微塵も残らず、血だけが唯一残った。コトはバルフデの上で目眩を起こしてしまった。




