72! 狂っている想い
激痛が感じられない。死なないという約束をしてきたのに、此処まで来たのにまさかこれで終わりなのかと自分を問うてみた。ごまちゃんは身体が一寸も動かずにうつ伏せになっていた。
「……?」
一体何の足音なのか、今は聴き分けをすることが困難の極みでもあった。
(…ごめん…ね…)
そう考えるのもやっとであった。正直言えばコトなんか会わない方が良かった。確かにコトと会えばこの世界について容易に知ることができた。時には助けられて死からも免れてきた。でも、コトが居なくなればもう自分の力だけで闘わなければならない。コトも言っていた。
ただ、コトが居なかったらこんな目には会わなかった筈だった。下山して終わりで良かったのだ。あんな箱さえ開けなければ。そう思い、ごまちゃんは申し訳なく思った。自分の死を恐れてしまった。
もう目と鼻の間しかバルディオスとの距離は無かった。大きな唸り声を上げた。そして、ごまちゃんを渾身の一撃で殴ろうとした。その時、バルディオスの背後に魔法の弾幕が引っ付いた。炎の弾は燃え続いた。その元凶は先ほどまで倒れていた女性であった。
「…出せる!!」
彼女は自分の持つ杖をバルディオスに突きつけた。そして、無数の炎の弾を撃った。バルディオスは燃えていき、後に全身を燃やしてしまった。彼女はそっぽをむいて下の階へと行こうとした。
「…コト…。」
(私はコト君に頼り過ぎたんだ…。いつも一緒だからこう、もっと彼が居なくなった時のことを感じられなかったんだ…。
でも、私も彼の助けになっていたんだよね…。結局のところ、私達って二人で無かったらこんなに進められなかったんだ…
逃げられないんだ…でも、嫌々やってないんだ……それが狂愛と言われても…
…自分で彼を生かしたい!!!)
コトは物陰に隠れて衝撃を受けていた。ごまちゃんの魔力が皆無の状態であったのだ。
(そんな…自分の魔力を用いているからこっちから供給すればいい…でも、今の状況からは絶対に場所が暴かれる!!大丈夫なのか…生きて!!)
コトは目を瞑った。その瞼は重く、涙すら通さなかった。
「オイオイ、そこに…居るんだよな!!」
バルフデは蒼の焔を吐く。そこに丁度コトが居た。
「!?」
コトはそこから離れた。左小指に火が付いた。彼は直ぐに水魔法で消した。
「ま、その程度なら仕方ないか…コト、その女性はもう死にかけなんだろお!?見過ごせば良いんだよ!!うん?妹のネオルが言っていたぜ。ここに迷い込むって…。」
ゲルニオはにやけた。コトの無惨さが本当に愚かに感じたのだ。
「もう、ここまで分かったならば『逃がさない』様にして殺せば何とかなる話だろう。ネオルは予言を言う魔人さ。絶対に外さねえ。それぐらい信頼できる。コト、テメェよりもな!!」
コトは不敵な笑みを浮かべた。
(…ごまちゃんとの約束を破るつもりは無いとは言ったが、さて、どうしようか…ごまちゃんだって、ダルダルさん達と進んでいるし、死んだらごまちゃんに何も言えないし…まず…ごまちゃんに会わなきゃ!一度でも会って何かを言わなきゃ!!)
コトは今度はバルフデに近づいてきた。
「ふ〜ん。この俺に向かって歩いているのかい?実に素晴らしい、流石魔王と言いたいところだ。ここまでの強さを持つこの俺に度胸を持って戦うとはな。ただそれが血迷いによるものなのか?少し試そう。
…魔導、『幻想陣』!」
コトはまた笑みを浮かべた。
(ゲルニオと会うつもりは無かった。その上ネオルも居るとは思わなかった。それでも進める!!
もう逃げる気はないし、何より慣れた!!まだごまちゃんは生きている。…こう思うとごまちゃんを無理やりこっちに向かせるようにしていて考えがくるっているかもしれないけど…
…自分で彼女を生かしたい!!)
((そう想い合える!!))




