71! バルディオス
オークは彼女らに近づく。二匹とももう十分な距離を保っていた。オークが反芻する音以外、何も聴こえなかった。
斧が上げられた。
(…!来る!!)
ごまちゃんは女性を抱いて逃げた。斧を振り下ろす攻撃は恐ろしく速かった。ごまちゃんは冷や汗を搔き目を疑った。
ダルダルはその様子を陰から見ていた。
「ゴマクリサ!!そいつはオークっぽいが、オークでは決してない!!こんなに強い筈がない。オークにはそんな力がある筈が無い!そいつは、資料にある魔獣『バルディオス』なんだ!!」
ダルダルは大声で言った。気づいた時にはもう一体のバルディオスがダルダルの目の前に居た。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
ダルダルが思いっきり殴られた。床で転がり続け、本棚に当たりそこから本が落ちていく。その間にバルディオスは近づいていく。
「ダルダルさん!?」
ごまちゃんは余所見をしてしまった。相手のバルディオスに隙を見せてしまった。振り下ろされた斧の軌道を剣でずらした。そして、ごまちゃんは剣を輝かせて直ぐに構え直した。
左右、双方から円を描くように角度を変えながら高速の斬撃で自分を囲むぐらいの剣撃。斧の鉄は粉々にされバルディオスの腹はもう紅い血に染まっていた。しかしながら、その技最後の攻撃を受けながらまだ動けるとは彼女も思えなかった。そして攻撃の反動が生じて隙をまた作ってしまった。左から棒切れで薙ぎ払われた。
「ぐふっ………!」
生々しい音とともに左肩の皮がぎこちなく剥げていった。そんなに大きな傷ではなかったが、そこから血が垂れてきていた。
「…ど、どうすれば…。」
ごまちゃんは困惑してしまった。その間にまた上から棒切れで攻撃されそうになった。今度は気付いて足に光を帯びさせて回避した。意識的にそうできたのが幸いであった。
(…さっき…足に光を帯びさせて回避できた…こんなに速く…だったら!!)
ごまちゃんは光を手に帯びさせた。そして、最初に腹を上から斬る。次に右脇腹、左脇腹、本来の人間ならば右肩と左肩に当たる。その間にバルディオスは棒切れをごまちゃんの腹に刺す。それでも剣撃はまだ続く。右脚、左脚を斬られたバルディオスはもう移動が不可能となった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
最後に剣で腹を刺した。ものすごい勢いで刺したので剣が貫通してしまった。剣が抜けない。そのせいで返り血を浴びた。思い切り剣を引いた。ごまちゃんは剣を抜き、バルディオスの一体は倒れた。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…や、やっと一匹だっ」
ごまちゃんは背後からバルディオスに殴られ、うつ伏せで壁にぶつかった。直ぐにそちらを彼女が見るとやはりもう一匹の方だ。
では、ダルダルは一体どうなったのか、一目瞭然。震えながら瀕死状態に至っていた。
そして、ごまちゃんはバルディオスに掴まれ、刺さっている棒切れを強引に抜かれた。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴を上げてしまった。女性は起き上がっているのを彼女は微かに見えた。しかし、もう限界なのか目をそっと閉じていった。




