62! カゲツ・イヅナ
「んじゃ、行こう!!」
「えっ?」
イヅナはコトに強引に引っ張った。束の間にごまちゃんはその腕を掴んだ。
「ちょっと!何勝手に話進めようとしてんのよ!」
「だってさぁ…」
互いに睨み合った。イヅナからごまちゃんに近づいてきた。
「あらら、君こそ彼の事なんか殆ど知らないくせしといて、生意気にも程があるわ。」
「少し黙ってよ。あんたこそコト君の事を全く知らないのに。その上初対面なのにそう簡単に知った被っているんじゃないよ。」
言い争いになった。地味に恐ろしい雰囲気が漂う。
「そんなにコト君が欲しいなら諦めて。コト君は私の恋人だもん。」
「まぁまぁ。本当に強情な女ね。だったら彼ぐらい守ってやらなきゃねえ…。」
いつの間にかコトの直ぐ隣に居た。ごまちゃんは気づかないまま近づかせてしまった。
「さっぱり分からないよ。俺を仲間にしたところで俺は直ぐそこから出て行くつもりだけど、一瞬だけ仲間になれと言われても…」
「そんな事気にしなーい!大丈夫よ!こっちに来た方が絶対に良いって!」
イヅナの勧誘にコトは全く乗らなかった。
「そう…だったらこれなら?」
闇で禍々しく光るナイフを掴んでイヅナはごまちゃんの方に投げた。鋭い刃はごまちゃんに向かっているのを確認し、イヅナはコトの方に目を向けた。
「…選ぶべき人はゆっくり考えなくちゃ。ね?」
「……。」
コトはつれない顔をしていた。イヅナはコトに対して話しかける。
「私と行こうよ。」
「断る。」
即答でコトは言った。
「彼女はもう倒れちゃ…」
「その場で立っているよ。」
イヅナは表情無くコトを疑った。しかし、半信半疑であるせいかついつい後ろを向いた。
「嘘でしょ!」
「今までは俺が守ってきたけど、もうそこまで来たなら自分でも頑張れるでしょ。ごまちゃんを殺させはしないよ。だって、ごまちゃんを信じてるんだもん!」
「嘘だ!そんなの!あり得ない!」
「確かに突然だったらあり得ないことだよ。でも、俺達は長く付き合っているしね。」
イヅナは頭を抱えた。同時に泣き出した。
「…せめて、此処から一緒に出る?このままだとレア派に…」
多くの重なり合った足音が聞こえてきた。コトは直ぐに反応し、ごまちゃんとイヅナを抱えた。そして、また両手首、両足首にあの魔法をかけた。
戦士達が会場に来た。斧を担いでいる者も居れば剣を持つ者も居る。
「見つけたか!!?」
「駄目だ…」
その時、裏道経由でコト達は外へと出られた。しかしながらごまちゃんとイヅナは何が起きたのか分からなかった。
「外です。どうぞ。」
「あ、ありがとう…」
コトはイヅナを降ろした。イヅナは申し訳なさそうにコトの方を向いた。
「あのさ…私はあんたの彼女を殺そうとした人なんだよ…なんで私を外に出したの?あのまま居れば私はそのまま囚われの身にすることができたのに。」
コトはまた即答した。
「だってさ、ごまちゃんそういうの嫌いそうだもん。そんな事されるの見るとごまちゃんだって怖がるだろうし…何より彼女の目の前をなるべく汚したくないからね。」
イヅナは沈黙してしまった。コトは話を続けた。
「愛する人を大事にするなら辺りもちゃんと綺麗にしないと…喜びたくても喜べないし。」
コトは笑みを浮かべた。イヅナは一つため息を吐いて屈伸をした。
「イヅナさんは一人で帰れます…よね?」
「勿論。」
「んじゃ、ごまちゃん!急ご!」
「分かってる!」
二人はその場を去ってしまった。
「やっぱりあそこでなれば良かったな…」
イヅナは何かに対して後悔してしまった。




