57! 派閥闘争1
ハルタは直ぐにレアの方に体を退かせた。何が起きたのかがコト以外、誰も分からなかった。
「何だ…?」
「…レアさんは自分の意思でそうしようとしただけなんですよ。」
「は?黙れ。愚者がその様な態度をとろうとした時点こそ、重罪なのだ。」
ハルタがコトに近づいた。
「貴様の様な奴は少しは自身の愚かさを知るが良い。貴様は永遠に誰にも尊ばれることなぞ無い。」
ハルタは剣を高く上げた。
「失せよ。」
ハルタは剣を振った。すると、ハルタの目の前には何も居らず、気がつけば右脹脛が微かに斬られていた上、持っていた剣も床に刺さっていた。
「ぅお!?何だと!!?」
コトはまた背後に居た。
「大丈夫ですか?レアさん。」
「この餓鬼め!うっ、大人しく死ね!!」
コトは持っている剣でハルタの剣を折って、中に浮いた刀身を一回叩き砕いた。
「ああ…あ、ああ…」
「俺は君のことなんかまっさら気にしてないし、相手にするつもりすらない。もし、その長さの剣を此処で使うんだったら、本気で『闘う』よ。」
ハルタは焦りを見せたが、コトは彼を凝視せずにレアや扉から様子を見ているごまちゃんの方に顔を向けながら笑みを浮かべて言った。
「隠れていてね。」
「えぇ!?あ!はい!!」
レアは直ぐにごまちゃんの方に扉の陰で見守った。すると、ハルタはコトに突っ込んできた。
「この…この…………。」
ハルタはコトに近づいてきた。
「この屑がァァァッッッ!!!!!!」
コトは密かに睨み、剣を引いた。しかし、突然女がハルタを抑えた。
「くぐぐっ!!何者…!?」
それは、赤髪の女性、黒色の身軽な格好をし、顔面を布で隠していた。
「イ、イヅナ様!!?」
「黙って!!」
「おやおや、ダイナミックな登場をしたのにも関わらずわざわざ私の下に来るとは…!イヅナさぁん!」
レアが口を挟んできた。何とも軽蔑している口調で話しかけたら女は布を解いて外した。
「あんたはそこで呑気に観戦中ですかぁ。へぇ、それはボス猿の様な感じしてるしね!」
「ぼ、ボス猿ゥ!!?アンタ誰に向かって言ってるんだ!!」
結構論争が続いたので、ごまちゃん達は部屋に戻ることにした。しかし、論争の合間にイヅナは二人を呼んだ。
「おおい!!君達はさっき居た!!」
気づかれたので振り向いた。すると、レアがイヅナを通さんと腕を広げた。
「待って、コト君達は絶対にアンタの味方になんかならないから!!」
「はあ!!?アンタの方の味方にすらならないわ!」
「どっちなの、アンタ達!!」
ごまちゃんは焦ったが、コトは動じなかった。
「えぇ!?い、いきなり言われても…」
コトはため息を吐きながら言った。
「どっちの味方にもならないよ。そもそも此処の政治なんか気にしなかったし、此処に住む気も無いからさ二人共心配する必要ないよ。」
イヅナ達の辺りははふてくされた雰囲気に包まれていた。この発言に対しては双方何も反論しなかった。
「イヅナ!!ですからあの!彼をしょけ…」
「来て!!」
すると、イヅナの近くにまた似た黒の格好の部下が彼女を囲んだ。
「あの人を運びなさい。」
そしてハルタを背負い、他所へ運んだ。扉は閉ざされ廊下はただ二人だけ残っていた。
「やはりね。ハルタは裏切ったんだ。」
「あっちから申し出たんだけどね。」
「そんな事無いわ!!絶対にアンタが何かしたんでしょう!!私のいつものハルタを返してよ!!」
「なぁんでそういつも私を恨むのかな?」
「ハルタはいつもならこんな事するはずが無いし、何よりも、私がいつも見ていたのに…!」
「それだったら彼に聴いてみれば良いんじゃないの?話しかけてから物事を言いなさい!!」
そして、イヅナは去ってしまった。レアはただ一人しゅんとしてしまった。




