51! パルタンのオーク
パルタンへ向かう為の馬車は今、森林地帯へと突っ込んでいった。その中では、自然の木々が常に視界を邪魔していた。
「うわあ!」
緩いカーブを曲がった反動で、ごまちゃんはまたかと壁に叩きつけられてしまった。
「大丈夫?無理しなくても…」
「ほら!だから言ったでしょう!!」
ダルダルがごまちゃんに強めに注意した。ごまちゃんは少し涙目だった。
「ごまちゃん…」
汗を掻きながらコトが彼女に手を差し伸べた。
「ありがとう!」
ごまちゃんは顔を赤くしてしまった。そこで、ダルダルが目を細めて考えた。
(わざとなのか…)
「うわっ!何見てるんですか!?」
「ま、それは気にぜずに。また転ばないように一緒に座ろ!」
コトの隣にダルダルが座るスタイルだったが、いつの間にかダルダルの代わりにごまちゃんが座ることになった。
「まあ、気にするなダルダル。儂の隣にでも我慢して座れ。」
仕方なくクリスタ王の隣に座った。その刹那、馬車が急にバランスを崩して崖に落ちそうになった。
「まずい!!皆…」
時、すでに遅し。馬車はもう既に崖から落ちていっている。コトは唯一窓から出て落ちてしまった。そして、コトは魔法を馬車にかけようと試みた。
「32…グラビテ!」
馬車の落ちるスピードが遅くなった。しかし、コトはそのまま落下していった。
「コト君!!」
ごまちゃんが気付いて叫んだが、コトは至って冷静であった。そして、地面に近づいてきた。その時、コトは岩の壁に剣を突き刺した。落下の速さが遅くなったおかげで、尻もち程度で済んだ。馬車も、ゆっくりと近くに落ちてきた。彼は車に潰されないように移動した。馬車は横になって落ちた。
「し、死ぬかと思ったーー!」
「遠方へ行くのはやはり命懸けですね。」
全員無事であった。クリスタ王は疑問に思った。
「何故、突然現れたのだ?いつもはこんな物…」
「多分、パルタンの結界ですね。」
「なっ!?まさか…」
「?」
「馬車でまた向かうぞ。」
馬車に触れようとしたその瞬間、空から小石が降ってきてクリスタ王の頭部に直撃した。
「うっ!!」
一同が空を見上げた。すると、一匹のオークが空中に浮いていた。
「ぶっひゃにゃひひゃ!ざまぁ見やがれコンニャロ!コンニャロ!」
そう言ってオークは町の方向へと飛んで行った。
「ふっふぅん。いい気分。やっぱここは独立してもいいと思うぜ!あそこはごく僅かな生息場所でしか生きられない奴ばかりだからなあ!いや、独立どころか侵略もできるかもな!!」
オークは笑いが止まらなかった。しかし、それは束の間の嘲りにしかならなかった。彼は疲れたのか、後に途中で着地をしてしまった。しかし、そこにはごまちゃん達の姿があった。その上馬車もあった。
「ふぁっ!!?一体何が!?あり得ない…何故馬車が宙を浮く俺たちよりも速く此処に来てんだ!?」
ごまちゃんはコトに尋ねた。
「コト君…まさか、奥の手とかになんか負荷とかかかっているの?」
「負荷という負荷ではないけど、まあ十秒間しか出せないとっておきだよ。」
未だに謎が掴めていないオークは立ち尽くす他、方法は無かった。直ぐにクリスタ王に慈悲を求めた。
「も、申し訳ございませんでした!!我が王よ!私めの大失態でございました!!まさか、魔王ジェドの手先の輸送車と誤って見てしまい、まさか貴方がご乗車していたとは!思いもしませんでした!!」
「あ、そう。別良いが。」
暫く沈黙が続いたコトは笑いそうになったか、手で口を押さえた。その他はクリスタ王の返答にただただ大いに笑うばかりだった。
同刻、イヅナ達はそれぞれの自室に戻って来た。イヅナの部屋は整えられていて、窓を開ければ清々しい風が吹いてくる。そして、後に馬車が見えた。イヅナはその馬車を注意して見つめた。
「…あ、クリスタ王だ!どうしよう…この状況が王にまで伝わっちゃった…」
イヅナは少し焦ってしまった。その瞬間に部下のオークが伝達に来た。
「イヅナ殿。クリスタ王がいらっしゃいました。」
「うん!分かった!」
イヅナは直ぐに部屋を出ていった。




