32! 孤高の過去
キットは微笑みを浮かべながら、コトに突っ込んできた。渾身の一撃を当てたつもりだったが、コトに悉く受け流された。
「鈍い。」
コトが剣を振りかざすと、キットの鎧が砕け、腹を切り裂いた。
「ぐぅっ!」
キットは直ぐに後退した。致命傷にはなっているらしい。
( これが、訓練の成果か?一日にしては出来が凄過ぎる…デミの訓練を受けて俺も此処までなる事は今まで無かった。パワー、反応、スピード!…そろそろ世代交換の時期かなトホホ… )
そう思った刹那、目の前にコトの姿があった。キットは気配を感じず、気づくことすらできなかった。
「ぐほぁぁぁっ!!」
今度は胸を半分斬られた。剣で何とか止めたものの横に飛ばされた。
「……。」
コトは無言だった。冷めた表情をしながら、キットの方を見ていた。
「…へぇ〜…コト君ぐっほぁ!ゲホゲホ…!オェッ!
…ハァ…ハァ…こ、怖いねぇ相変わらず。そんなにパパを殺されたのが根に残ってるんだなぁ…ゲホ」
血を吐きながらキットは喋り始めた。
「…まっ、魔王討伐ウェ…したのもただ、表向きに正義のためなんかじゃあない。…昔っからテメェらは忌み嫌われてたんだ…俺も教わったんだ…『魔導を用いて何かを得ようとしても、生むのは厄災、それを主にする魔族がこの世で跋扈する限り、人々を滅ぼしかねない。恐怖は永遠に続く…魔族を滅ぼすまで…』ってな。グッヘェグッッハ…
…でも奴を倒してから分かったんだ…」
コトは睨んだ。剣もついでに構えた。
「…テメェが煙たがられ、石を投げられ、いつ処刑されるか分からない姿を見るのは…独りでいる様子は…俺を含めて、全員にとって…
…快感だったぜ。」
コトはキットの所まで距離を一気に詰め、剣で頭部を刺そうとした。その時も何も言わなかった。
その時だった。
キットの前にごまちゃんの姿があった。彼女がコトの行為を止めた。目の前にいると、明るい色の目の所為か、おぞましく感じた。顔は痛々しい表情をしていた。ごまちゃんは怖がり、ついつい叫んでしまった。
「コト君、やめて!!!!!」
コトは剣を下げた。観客は静まってしまった。
「あいつ、魔王の子息だと…あの少女を洗脳して…おまけに勇者を…」
「憎たらしい事をする…やっぱり消え失せろ!!」
「ていうか、死ね!!」
「死ね!」
観客が舞台に飛び出て、持っている武器でコトの方に向かって走っていった。
「ごまちゃん!逃げて!」
「あいつだけを殺せ!」
ごまちゃんは嫌がり、首を横に振った。
「嫌だ!見殺しになんかしたくない!!」
気づいた時にはもう包囲されていた。
「死ね…糞餓鬼がっ!!」
斧を持って上から振り落とす刹那、その斧を持つ男の腕をデミが掴んだ。
「…こんな所でテメェらは要らねぇ!!とっとと帰りやがれ!!」
デミに叫ばれた観客達は渋々と舞台から出ていってしまった。
「やっぱりアイツは洗脳をしているんだ…」
人混みからそのような声も聞こえたが、彼らには関係無かった。しかし、それでもコトの顔が元の表情に戻ることは無かった。デミはキットに近づき頰を叩いた。
「…テメェの負けだ…もう二度とその口開くな!!」
キットは目を閉じ、敗北感を感じた。勝者のコトは自身の勝利を誇ること無く、ただ沈黙していた。
「クリスタ王。とうとうコト君の素性が住民達に明かされました。」
「何っ!?」
「何っ!?…じゃありません!!貴方がコト君を始末しなかった所為でこうなったんですよ!!」
ダルダルはこの時、クリスタ王に厳しい目をしていた。
「住民達が騒いだ以上、コト君は処刑しなければ、安寧を民が思えません!!絶望に…」
「勇者キットを呼べ…」
「今頃彼…」
「ちゃっちゃと呼べ!!」
「は、はい!クリスタ王!!」
ダルダルは早速キットを呼びに行った。クリスタ王は外を眺めながら思った。
( コト君、ごまちゃん…無事でいてくれ! )
クリスタ王はそう言い、歩いていった。




