31! 伝説の勇者
外では漸く、歩いている人々の姿が見えてきた。陽も昇り光が射す中、闘技場では多大な声援で盛り上がっていた。
その闘技場の舞台に居たのはなんとキットだった。伝説の勇者がこの闘技場で戦うということは滅多に無い。そんな事は、小説の様には普通にならない。しかし、その小説の様な奇跡に近い確率でこの闘技場に彼が来たから、近隣住民にとっては見ざるを得ず、戦いに興味を持たない者も扉から飛び出るぐらい観客は落ち着かず、興奮して彼の試合を観ようと大はしゃぎしていた。
「スゲェぜ!!伝説の勇者っていうのは、やっぱ伊達じゃあねぇぜ!」
「当たり前だぜ!!あの剣技で負ける訳無ぇだろ!!さっすが勇者なだけある!」
「「「キーット!!キーット!!キーット!!キーット!!キーット!!キーット!!」」」
声援が続き、キットは笑顔を作った。
「次は誰だ!!!俺と戦いてぇ奴は!!」
キットが言った瞬間に、4人が一斉に立ち上がり、舞台へと降りた。4人は苛立っていた。
「ハッ!伝説の勇者一人が何ほざいてんだよボケェ!んなもん、俺達4人で捻り潰してやんよ…オラ、行くぞ!!一気に叩きのめしてやるぜ!!!!」
「ダサい格好だ。やり直せ。」
キットは冷たい一言を放った。4人は、ストレートな痛みを感じた。
「…ッ野郎、ぶっ殺しやがれ!!」
この闘技場では、確かに殺しも可である。むしろ、伝説の勇者を真に倒した者として、有名になる。ただそうほざいて出来る事ではない。キットは持ち味の剣術で、立ち向かった。
「どんと、来いよ!」
ペイジの店の前にも人混みが湧いてきた。しかし、今日は全く来店しない。ごまちゃん達は、その店から丁度出ようとしていた所だった。
「…コト君、絶対にアイツに勝って!アイツには裸を晒したくない!お礼には昼飯も奢るから!」
「そんな事言われなくても、勝ってやります。闘技場で負けたら死ぬかも知れませんし。」
コトはごまちゃんの方を向いて、言った。
「…また世話を焼かせるかも知れないけど、許してちょうだい!」
コトは微笑んだ。背後にはペイジが居た。
「まったく、恋人同士、キスでもしてやれ!」
ペイジが背後からコトを思いっきり押したら、コトは身体を前進して、ごまちゃんの額とぶつかった。
「痛あああぁっっ!!」
「っ痛…。」
ごまちゃんは尻もちをつき、額に手を当てた。コトは膝を地につけ、同じく額に手を当てた。
「オイ!コト君が戦えなくなったら、どうするつもりだテメェ!!」
デミはペイジの襟を掴んで、脅した。
「いや、これはさジョークだよジョーク、ハッハハハ…」
「コト君大丈夫?」
「いけますよ。」
「んじゃあ、私達はもう行くよ!こんな奴に構ってなんかいられるか!」
「…ごまちゃん、見ててね。」
そう言い、デミ達は店を出た。
「儂も行くぞ〜。」
「私も!」
ごまちゃんは、ペイジを簡単に追い越すスピードでコトの向かっている方向を基に、行った。ペイジは太り気味であり、走るのもままならなかった。
ごまちゃんは中学の頃から鍛え上げ、残してきたスタミナとスピードを用いて走った。
「ひいぃ…もう駄目だ…」
「ぢ、ぢぐじょ〜〜!!」
「もう降参か、案外早いな。出直しな。」
4人は直ぐに退場した。再びキットへの声援が続いた。
「「「キーット!!キーット!!キーット!!キーット!!キーット!!キーット!!」」」
「次は……」
キットが言った瞬息、上から二人分の影が落ちてきた。着地した時、観客は口を開いた。中には口を手で押さえる者も居た。シアンのマントを着たコトと、キットを鋭い目で見ているデミの姿があった。
「オイ!約束の時間は明日じゃ無かったのか!?」
「コト君は直ぐに出来ちゃったもん。待ちきれなかったし…」
「おい、あの人まさか隊長じゃ…」
「ああ、そうさ。此処で親衛隊隊長と、伝説の勇者との戦いが観れる…とは思ったが、誰だあのガキ。」
「ふざけんな!こんな所でクソガキは要らねぇ!!!とっとと帰りやがれ!!!」
「そうだ!!帰れクズ!!」
「失せろよ!!」
「死んでろ!!!」
「カスが!!」
コトに対する罵声は酷いものだった。そこで、デミが大声で言った。
「オイ、キット!アンタが私と戦うなんざ、まっだまだ、早すぎんだよ!!アンタにはこいつで十分だ!」
デミの芝居がかった台詞にコトは少し感謝した。おかげで、辺りの観客からの罵声は消えた。その代わりキットへの声援が大きくなった。
「「「キーット!!キーット!!キーット!!キーット!!キーット!!キーット!!」」」
キットは頭を掻き、溜息を出した。
「しゃあねえな。じゃあ行くぞ!」
キットは剣を構えた。同じくコトも剣を構えた。両者は沈黙を続けた。その間にデミは舞台から出た。
暫くして、コトは一気にキットとの間合いを詰め、突きを狙おうとした。キットは持っている剣で軌道を変えた。そして、コトの後ろに回り込んだ。コトはそれを知って、身体を回して剣で防御した。たった一振りの筈だった。キットは勢いよく、仰け反ってしまった。
「なっ!!」
キットは少し驚いたが、好奇心を持っているのか笑みを浮かべた。




