30! 不自然な記憶
「…あっ、そう言えば、こっちからも聞きたいことがあるんだった。」
ごまちゃんは、ある事を思い出し、慌てて手紙をポケットから取り出した。
「…これなんだけど、コト君、なんで日本語…分かっていたの?」
「それは…それは………。」
コトは黙ってしまった。その瞬間、一人の女性が来店して来た。
「…丁度それについて聴きたかったところだ…コト君…まさかアンタに先を盗られるとは…」
「デミさん…俺が手紙を置いて行ったのを覚えていないんですか?」
「…そんな事より、さっきの話だがコト君、言ってくれないか?」
「何故、デミさんが…」
「クリスタ王からの伝言だ。コト君の素性を確認しろと。」
「コト君…本当の事を言ってよ。」
コトは閉じていた唇を開き始めた。
「…今まで騙してごめんね。この世界の誰にも言いたくなかったんだ。馬鹿にされて、侮蔑されて、そんな事無いって思いたくなかったんだ。権力で暴れて前の生活を…忘れたくなかったんだ。」
「グダグダ言ってるんじゃねぇ!」
「「「!!!?」」」
スタッフルームの扉から二人が出てきた。ペイジとその娘だった。
「…今取り込み中だからそっちに言ってくれない?」
「んだ…」
「黙れ。」
「……。」
デミは一言で彼女を追い出した。扉もちゃんと閉められた。
「…話を続けて。」
「分かってる。…ごまちゃんなら分かってくれるはずだと信じている。実は…俺はこの世界じゃなくて、また他の世界に居たんだ。」
「…やっぱりね。」
「…え?」
ごまちゃんは微笑んだ。
「…私も同じよ。また他の世界。その上同じ国…」
「…ごまちゃんも、そうだったんだ…気づけなかったよ…」
コトはごまちゃんの顔を見つめた。
「成程…遠くの民族が、他の世界の民という事は確かなのね。コト君も、その遠くの民の一人だったのは意外だったわ。」
デミも話をした。コトはそれに応えた。
「…そうです。しかし、位が極端に高かったり低かったりする人程、前の世界について忘れやすくなるんですよ。」
「それよりも、コト君があっちの世界に居た時はどうだった?」
ごまちゃんがそう言うと、コトは黙り込んでしまった。
「コト君?」
「…あまり憶えていないけどね。孤児だったよ。」
デミは疑問を持った。
「…魔神の所為でここに来たのに、魔神が召喚されたのはここ最近の事だったはず。でも、なんでその前から…魔神はその時封印されたんじゃ…」
「父が微かながらも封印を解放させていたらしい。」
ごまちゃん達は驚いた。
「デュアルデルタ鉱石による封印が弱まったんだ。大昔の、勇者による封印が少しずつ、魔王によって…」
「だからか…」
デミは溜息を吐いた。
「5歳らへんで、こっちに来たんだ。」
「ご、5歳!?」
「そ。でも一、二歳ぐらいで父親が亡くなって、母親は理不尽だったから何処かに預けようと母は考えたんだ。ただ、他の人は全く受け付けなかったんだ。」
「何故?」
「…嫌だったんだよ、俺の事。おかげで最終的に裏通り行きだったよ。…何度も雨が降ってよく濡れたよ。その内、寂しくなったよ。そう思って眠ったらこの世界に居た。天気も雨。最悪だったよ。まっ、ドルチェが居たからまだ良かった。」
ごまちゃんはその事を聞いて暗くなった。
「…なんで、悲しく無いの?親に嫌われて、捨てられて独りになって、悲しく無かったの?」
「一瞬大きな恨みを持ったね。でも、それは無駄なんだって一瞬で思い知らされた。立つことはできていたけど、道は分からない。飯もない。水もない。極限状態だったよ。最後まで戻れないまま、途中で倒れて、裏通りでうつ伏せに寝ちゃったんだ。もう体力も無かったし、諦めたんだ。」
刹那、デミは手を叩きコトを止めた。ごまちゃんは泣きそうだった。
「コト君、女を泣かせるのは男の子の仕事じゃあ、ないわ。」
「…ごめん。ごまちゃん、デミさん…」
「コト君にもう一つ言いたいことがある。ジェドの殺害は止めておいて。更に被害が拡大す…」
「魔神もジェドも、両方倒さなきゃいけない。ジェドは元からこの世界に居た魔族で相当のやり手、自分が狙われてるんだ。順番も関係無い。手を抜けば、あの世界には戻れない。」
「コト君…」
ごまちゃんがコトの方を見ていたら、デミはコトにあるものを用意した。
「コト君、これ着てみて。」
「これは?」
「クレタっていう人が私に作ってくれたマントよ。使い道が無かったから、君にあげる。」
そのマントは袖を持ち、色はシアンで染められている。長袖よりも少し短い袖だった。そうなっているのは腕輪を見せる為らしい。
コトは早速着た。サイズはマントが地面につかないぐらいで、丁度良かった。
「ありがとうございます。」
「礼ならクレタに言って。」
デミは少し笑った。




