25! 異変
キットの行きつけの店では、豪勢な料理を堪能できるらしい。その事は、ごまちゃんには理解でき無かった。
「オススメは…」
その言葉を聞き、キットは直ぐ反応してきた。
「俺たちは昔、いつも5人で同じ物を食べていた…今からその料理をおれが注文するけど、良いか?」
「分かりました…」
「おーい、いつもの奴二つ!宜しく!」
「はいよ。180ビフテキ二つ!」
「びっびっ、ビフテキィ!?」
「オイ!いつもは220グラムの筈だぞ!」
「今は嬢ちゃんの様な娘がいるからさ。それなのに、220の奴を食べさせるなんて、酷さ。無理させない無理させない…」
キットは仕方なく、ごまちゃんの方を見た。
「…そう言えばさぁ、何でごまちゃんはこのメニュー読めなかったの?」
ごまちゃんは、冷や汗をかいた。その言葉はごまちゃんの胸に直撃したかのように、刺さった。
「えぇと、えぇそれはですね!キットさん!」
「そんな無茶な質問だったか…」
「いえいえ、元はこっちの人じゃなくね…私また他の世界の人なんですよ!あ、あははは…」
「君が、この世界でなくて、違う世界の人…ええっ!嘘だろっ!」
ごまちゃんはテーブルにうずくまって泣いた。
「うわぁぁ!やっぱりそんな事言ったって無駄なんだ!誰も信用しない!伝説の勇者までも…」
「おいちょっと、落ち着けって。その原因は魔神なんだ。魔神はいつもそちらの世界から、人を連れて行くんだよ!俺の父は、そいつを封印してやっと抑えたんだから。今でもさまよっている奴がいるから、話が通じてるんだろ。」
ごまちゃんは少しだけ希望を持つような眼差しになった。
「そうよ…これは私の得意中の得意である…『ゲーム』の世界ね!最近のラノベとかによく有るヤツ…」
「げぇ、む…?ああ、テーブルゲームの事か?」
「全っ然、違う!例えばね、キットさんが言った四人の従者とあなたが協力して、成長しながら、魔王を倒す!これは種類として、『ロールプレイングゲーム』略してRPGの方に入っていくの。その様なのは映像化されていて、小説だと今までの場所とは違う他の世界に入っちゃったっていう展開が多いのよ!」
「あ、ある意味スゲェ。」
キットはごまちゃんの長々とした台詞に驚きを隠せなかった。そう言っている内に、キットが注文したビフテキのセットが出来上がり、テーブル上に置かれた。ごまちゃんは期待していた。
「さあ、そうと分かれば食べよう!頂きまぁす!」
ごまちゃんは元気を取り戻し、左手のフォークで肉を押さえ、右手のナイフで切っていった。その時の肉は、無駄な脂が乗っておらず、ほろほろと流れていく肉汁がより見た目を良くしている。切った肉をソースに少々付け、口に運んでいく。
舌触りがとても良い。噛んだ瞬間、それはそれは柔らかくジューシーな肉汁が出てきてごまちゃんは幸せそうな顔で食べていた。噛み続けてから、呑み込む時の喉の感触はとても優しかった。
その後もずっと食べていたが、徐々に腹が重くなってきた。完食した時には再びテーブルにうずくまってしまった。
「…ゲームの世界だったらそもそも、死なないじゃん…ゲームオーバーして死ぬのは非現実的だよ。それぐらいの知恵があったら、何でそんなの作るんだ?オーク達は普通に形を残して死んだよ…あっちだって、もともと人なんだよ…」
キットは言った。
「…小説のようなものだったら、転生っていう事もあり得るが?」
「もしこれが、転生だったらこんな事話していないよ…微かにあっちでの記憶もあるし…もうどうすれば良いのよ…コト君…」
ごまちゃんは目を潤わせた。
圏外、コトとデミはテントを張っている途中だったが、コトからデミに尋ねた。
「…このテント小さ過ぎじゃないですか?二人が入るには窮屈ですよ。」
「取りに戻るのは面倒臭いからな…まっ、我慢しろって事だ。」
コトは仕方なく明かりを灯して中を見た。
「俺、野宿で良いですよ…」
「なに、遠慮するな!」
デミはコトの腕を引っ張って、無理矢理テントの中に入れた。




