23! 超新星
グラン内部では商工業が盛んだ。武具、食物、更には重要物までも取り扱う。デミ達は店を探しているところだ。
「あの…せめて手錠ぐらい外してください。とても重いんですよ。」
「手錠ぐらい我慢して。店に着くまで。」
コトは顔を赤らめた。
「デミ隊長!」
一人の男が走って来た。
「デミ隊長。どこに行ってたー?」
デミに対して棒読みで言ってきた。
「あ、ああ。子猫を拾ってね…」
「子猫にしてはでか過ぎませんかー。」
棒読みに男は言った。
「それにそいつまおーかも知れないよー。」
「ああうん、気にしない気にしない。ちゃっちゃと帰るんだなぁ、クレタ君。」
デミはクレタを帰らせるようにしたが、クレタはコトの事を気になった。
「魔王なら今ここで倒すべきかなー、隊長を連行してー。」
焦ってデミはクレタに囁いた。
「今コト君を味方に付けたら大物だからさ。ここは一旦黙ってくれよ。」
「分かりましたよー。ただこうさせているのはやはり駄目ですよー。変な趣味〜。」
「余計なお世話だ!入るぞ。」
デミと一緒にコトも入った。
同刻、ごまちゃん達は巨漢の二人と戦っている途中だった。しかし、キットはある事に気付いた。
「ごまちゃん!扉はこっちから閉めたんだ!直ぐに鍵を開けて出よう!………ぐあぁっ!」
巨漢の一人にキットは顔を握られ、壁に押さえられた。体が壁の奥にめり込んでいった。巨漢は言った。
「伝説の勇者、逃亡を試み、ここに散る。」
ごまちゃんは呆然としていた。今度はこっちに向かってきた。気付いた時には巨漢は殴る構えをとっていた。
( コト君…いつもはこの時に…来てくれていたんだよね…頼りなくてごめんね…このまま死んだら、君はどう思うの…この世界に入る前だって、君のような存在はいなかったよ…そんな君と一緒に会えたから…
そうさ…やっと会えたんだ…だから!! )
ごまちゃんは覚悟して剣で巨漢のパンチを防いだ。とても重かったが、予想以上では無かった。後ろにも巨漢がもう一人襲いかかった。一人でやっとの状態であるごまちゃんにとっては危機であった。しかしごまちゃんは焦らず、思いっきり剣に力を加えた。
「…はああああああ!!!」
その時、ごまちゃんの剣が突然白く輝きだした。光を帯びた剣は正面の巨漢の手を豪快に斬っていった。
そして、背後の巨漢の手をも切断した。一つ円を描き足元に入り込んで前方の巨漢の両脚を斬り落とした。
その光にキットは気付いた。
( …ぐっ、あっ!あれは! )
キットはごまちゃんの剣に驚いた。
( 魔法はヒトが簡単に使えるモノじゃあ無いはずだ!いや、使った時点でヒトではなくなり、オークに変貌する筈なのに…なんでごまちゃん、君が使っているんだ!?一体君は… )
その間にもう一人の巨漢を倒そうとごまちゃんは一気に近づいたが、巨漢はもう片方の手でごまちゃんを払おうとした。その刹那、ごまちゃんは体を回し、光の剣でその手を斬った。巨漢は嘆き叫んだ。その後、ごまちゃんは巨漢を連続で斬った自分を中心とした球の形を造る様に、剣を振り回していく。
「速く、速く!速く!腕…もっと、速く…動け!!」
光は後に巨漢を中心に集ってきた。そして、ごまちゃんは渾身の一撃で止めを刺した。その止めはほんの一瞬だった。光に呑まれた巨漢の姿はもう無かった。
光は小さな輝きを残して、近くの金貨を光らせた。キットは壁から離れ、ごまちゃんに近づいてきた。
「…あり得ない…まさか、魔法を用いてヒトのままでいられるとはな!…まぁいい。それより、金だぁ〜〜〜い!」
キットは直ぐに金の方へ飛び込んだ。ごまちゃんの剣の光は、いつの間にか無くなっていた。
「…まさか、コト君の魔力を使ったから…」
「それよりもさぁ、さっきのごまちゃん凄かったぜ!さっきの技、何て言うんだ!?」
「この世界はゲームじゃありませんよ。ゲームっぽいけど。だからさっきのに名前なんて付けていません。ただ本能的に斬っただけ。」
「ふぅーん。俺が名を付けるなら『スーパーノヴァ』だな。」
「誇張し過ぎですよ。本物のゲームのそれとは掛け離れています。」
ごまちゃんは少し笑った。
「ごまちゃんはこれどうするの?」
「金ですか?いりません。クリスタさんから貰いましたし。まず、夕食が食べたいです!」
「んじゃ、いつもの店に連れてってやるよ。」
キットは多くの金を袋に詰めて、ごまちゃんと一緒にこの部屋を去った。
「キットさん達が来たら、ごまちゃんにこれを渡してと言ってください。宜しくお願いしますね。」
そしてコト達は店を出た。
「ねぇ、コト君…ごまちゃんって、さっきの?」
「うん、彼女。聞いていなかったんですか、今日のごまちゃんの台詞。」
「こんな童貞初めて〜…と思ったらもう彼女いたのかぁ!悔しい!」
デミは少し落ち込んだ。
「アイツも若かった頃は結構可愛かったのに…今ではとんでもない浮気野郎さ!」
「…それで俺が代わりになるんですか?俺が離れたらどうするんですか?簡単に人を選ばないでください。言っている事には共感できますけど。」
コト達は再び大浴場へと向かった。




