12! 魔族と勇者
陽が昇り始める頃、ごまちゃんはコトに聞いた。突然起こった訳の分からない事を聞くのは誰にとっても当然だろう。
「コト君、一体何が起こったの?」
「…ごまちゃんには関係無い。これは魔族同士のごたごただ…。」
「そんな…アイツが私を狙って、関係無いって言うの!?」
コトは黙った。クリスタ王の事はダルダルが任せてくれた。
「ねぇ…また無理するの!?独りだけで私を庇って!
何なのこの世界!何でコト君だけをこんなに哀しくさせているの!?」
「黙って!!」
コトはごまちゃんに言った。
「…だから言っただろ…俺が死んだら君はどうするかって…俺は君を全力で守るつもりだ。ごまちゃんが、殺されない様にする為に、無事でいられる為に…」
ごまちゃんはその時を思い出した。思わずまた涙を零してしまった。
「ごめん…我儘で…」
「泣かないでよ…こっちも泣きたいんだから…こんなに大事に思われたの初めてだから。」
コトは優しくごまちゃんを抱いてあげた。
「初めて…なの?」
「うん…」
コトは頷いた。
日陰に移り、コトは語り始めた。
「さっきのは、ジェドって言う俺の兄さ。魔族の覇権を握る為に俺をずっと追ってきている。」
「魔族の…覇権?一体何?」
コトは首飾りの鉱石をごまちゃんに見せた。
「これが証拠。つまり今、覇権を持っているのは俺の筈なんだ…」
「えっ、筈?」
「そ。俺は兄から逃げ、魔族達の所から離れたから、今は代わりにジェドが覇権を持っているんだ。」
「でも、そのジェドさんって人、君が魔王って言ってなかった?」
「あの時嘘を言わなかったらクリスタさんは無事なまま終わっていたよ。現魔王はジェド、でも儀式は行われていないから、これはまだ俺のだ。」
「その儀式って…」
「魔王即位の儀式。父はこれを俺に渡した、要するに、俺の能力を認めて王様にしたって事。だけど…」
「けど?」
「その直後、ヒトの勇者が突然現れたんだ。」
「…ゆぅ…しゃ?」
「うん。今でも伝説として語られているんだ。顔は華奢で、普通の剣で戦いを挑んだらしい。」
「ふぅん。」
「おかげで何十人もの従兄弟達を失ったよ。」
「何十人もの!?」
「魔王だって子息が欲しいんだよ…その勇者も、ジェドの思惑の中だったとは俺でも知らなかった。」
「勇者が?」
コトは頷き、話を続けた。
「あの時、俺はまだ幼少だったからこの首飾りを父から貰って、逃亡した。勇者には他に四人の従者がいたから、その内の一人の女性が追って来た。殺されるかと思ったよ、あの時はな。」
ごまちゃんは黙って聞いている。その途端、コトはごまちゃんに猫騙しをお見舞いした。
「…うわっ!」
「ごまちゃん…大丈夫なの?」
「本当だよ、あはは…それはやめてよね…」
「良かった。」
ごまちゃんが落ち着いた様子を見てからコトは話した。
「その一人の女性に剣を首に突きつけられたよ。あの時に、その人が魔王に言った。俺を人質にしてな。魔王は俺に気づいて目をこっちに向けたけど、勇者と闘っている途中だったんだ。父は勇者に後ろから斬られた。」
「それじゃあ、勇者達が悪いって言いたいの?」
「違うよ。俺が父を殺したのと同然だって言いたいんだよ。俺が捕まらなければ父も、まだ生きていたかも知れないし…」
暗くなったコトに今度はごまちゃんから猫騙しをお見舞いした。
「うわっ!」
「…コト君、いつも私に大丈夫なのって聞いているのに、君も大丈夫なの?いつでも聞いてあげるから…」
「心配ないよ。ありがと。」
互いに微笑みを浮かべた。
「父は死んでしまったんだ。仕方がなかったから、残った魔族で父の顔を最期に見ておいたんだ。俺を除いて…」
「何?何でコト君は見られなかったの?」
「勇者達に連れ去られたからだよ。そうなっちゃってからこの首飾りが俺の所にあるんだ…辛かったよ。見せしめにされたり、石投げられたり、迫害も…酷い仕打ちをされたよ。」
「えっ、いや、話さなくても良かったのに…そこまで…」
「いや、話さなきゃ…ねぇ…。」
コトは溜息を出し、ごまちゃんの目を見た。コトには元気が無かった。