11! 次期魔王ジェド
コトの周りの光は消えていった。ごまちゃんはコトの笑顔を見てからコトの背後をじっと見た。
「…誰かいるの?」
コトは少し勘付いた。まさかと思った。ゆっくりとコトは後ろを振り返った。そこには、紅の眼を持った白髪の男の姿があった。
「…黒くそんなに綺麗な髪で白黒の服、色白の奴だからコイツかなと思ったら…ビ〜ンゴじゃねぇか!」
「……。」
コトは彼を見ていた。
「……ジェド兄かよ…。そんなに負のオーラを醸し出しても分かってるよ…。」
ごまちゃんは少し嫌気を察した。
「えっ、えっ?アンタ誰?」
白髪の男は手をごまちゃんの方に向け、ごまちゃんを吹き飛ばした。
「ごまちゃん!?」
コトは直ぐに背後に回り、ごまちゃんの体を受け止めた。ギリギリ、ベンチに当たる所だった。
「フン、どうやらそいつはテメェの新妻って所か!?
リリーを用意してやったのによ…あいつも殺して気がスッキリしたか!?コト…やっぱりテメェは死ぬべきだ…おい!出て来い!魔神!」
と、ジェドが叫んでも物陰には魔神がいなかった。ジェドは激怒した。
「あの野郎!!どこ行きや…」
隙を逃さずコトが切りかかって来た。ジェドは見事に空中にジャンプした。
「コト…テメェェェェェ!!」
コトはジェドに言われても無視した。すると宙に浮いているジェドの上から一人、降りかかって来た。
「コト君!避けろ!」
そう言ったのはクリスタ王だった。コトは言われた通りに避け、クリスタ王はジェドの後頭部を掴み、地面に叩き落とした。
「観念しろ、次期魔王…ジェド!!」
「ジェド…やっぱり…」
コトは自分がジェドの身内である事を隠すが、ジェドは言った。
「…違う、俺の名は確かにジェドだが…『今は』次期魔王じゃねえ!」
「…!?どう言うつもりだ?」
クリスタ王が問うと、ジェドは語り続けた。
「そこにいる、白黒の奴が次期魔王、コトだ!」
クリスタ王は驚きを隠せなかった。
「しかし、俺達の町を攻撃した奴は、確かに次期魔王、ジェドって言った筈だ…嘘を吐くな!」
「その首に飾っている『デュアルデルタ鉱石』が証拠だ!」
クリスタ王は、コトの顔を威圧の籠った目で見た。
「確かに…デュアルデルタ鉱石は魔王の儀式で受け継がれる筈だが、彼が持っているのは同一の…」
ジェドは隙を見てクリスタから脱出し、右手の人差し指をクリスタ王の額に指した。
( しまっ…! )
瞬く間に、ジェドは軽く電流を流した。
「うっ…くっ…ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ほぉう、一撃でやられなかったとはな…見てて愉快だよ。」
クリスタ王は頭を手で支え、下ろした。悲鳴が続いた。
「今回は珍しいからな、ここまでにしといてやる。なぁコト。次は潰す…」
ジェドは後ろを向き、ゆっくり歩いた。
「ジェド兄…」
「…あぁ寂しいか、今頃遅ぇよ。」
「じゃあね…」
不自然だったので、ジェドは急いで後ろを振り返った。すると、コトがデュアルデルタ鉱石をジェドに向けていたのである。
「テメェ!」
刹那、ジェドの姿が消えてしまった。ごまちゃんはコトに直ぐに言った。
「やったの?」
「…いや、誰かに連れて行かれた…と思う。」
コトは落ち込んだ顔をした。
「…ジェド兄と会うとやっぱり、良い気がしない…」
ある地帯、新たな魔王の城があったらしい。そこは今では別荘の様な感覚でいつも魔王の親族がやって来る。コトを除いて…
「お帰りなさいませ。ジェド王。」
「魔神、テメェどこ行ってた!?」
「まあまあ。でも、妹さんが今日はやけに忠実になっているね。」
「ジェド王って言うのは初めてだ。顔が長い髪で隠れているぞ…」
そう言い、ジェドは妹の髪を寄せた。彼女はジェドと同じ紅に眼を持っている。髪の色はコトと同じ黒。
「どうだ?コトを殺す気になったか?奴を殺せば、お前も生きていられるかもな。魔族としては認めてやろうか。」
「ジェド王…」
「分かっているだろう…コトを殺せば…」
「もう止めてください!!」
ジェドは眉間に皺を寄せた。
「このままだと私達は限界です!魔神に魂を送り続けて、とうとう私達の魂をも僅かながら食べられています!そうなったら、兄王も、仲間も、全員死んでしまいまあがっ!」
ジェドの妹が泣きながらジェドに言っても、その言葉はジェドから彼女を離したようなものだった。魔神は、彼女の頭を持ちながら、ジェドに尋ねた。
「この子、どうするん?」
「…シルヴァ、貴様はもう要らん。丁度コトの所為で苛立った所だ。コイツをたとえコト達が拾ったとしても、足手まといになるだけだ…捨てて来い。」
「あいあい、さー。全く、ジェドはいい奴だな、コイツを…生かしておくなんて。」
シルヴァは叫んだ。
「兄王!気づいてください!兄王!兄っ……」
扉を開ける前に、魔神はシルヴァの腹にパンチを入れた。シルヴァは少し血を吐いた。そして、扉の奥へ魔神は向かった。